第29踊 女の子同士の負けられない戦いがそこにある
楽しかったゴールデンウィークが終わると、学校はすっかりクラスマッチモードになった。
体育の授業だけでなく、担任の先生の配慮でホームルームの時間もクラスマッチの練習に使えるようになり、クラスの空気が一気に活気づいていく。
天使先生、余程他クラスに負けたくないんだな。
昼休み、中庭のベンチではいつもの5人が集まって昼食を広げていた。
僕、ヒロキング、高塚さん、そして1組からやってくる宮本さんと平野さんだ。
「クラスマッチ、1組強いよ? バレーボールもめちゃくちゃ調子いいし」
宮本さんが満足そうにお弁当をつつきながら言う。宮本さんと平野さんもバレーボールだ。
「へえ。じゃあ、私のクラスが勝ったらどうするの?」
高塚さんがすかさず反応する。その声にはわずかに挑発の色が含まれていた。
「え、別にどうもしないけど。まあ、勝つのは1組だけどね」
「ふん、負ける気しないから」
「私も宮本さんに賭けるかなあ」
平野さんがクスクス笑いながら宮本さんの肩を軽く叩く。
ゴールデンウィークで楽しくカラオケで盛りあがっていたが、勝負事ではお互いに負けず嫌いらしい。
一方で、僕とヒロキングは彼女たちのやりとりを聞きながらお弁当に集中する。
「片桐、今日はソフトボールの練習だろ? 気合い入れとけよ!」
ヒロキングがニヤリと笑う。
「まあ、恥だけはかきたくないな」
「いやいや、俺らで目立とうぜ! お前のピッチングでガンガンアウト取ってさ」
「そう簡単にいくかよ……」
ヒロキングのノリに少し押されつつも、どこか楽しくなってきた。
午後の練習時間、体育館ではバレーボールの練習が熱を帯びていた。
高塚さんは身長こそ小柄だが、その分素早さとジャンプ力でカバーしている。
ネット際で繰り広げられる攻防に、彼女の集中力は増していた。
「咲乃ちゃんナイス!」
「もっといけるよ!」
クラスメイトの声援を受けて、高塚さんの闘志はさらに燃え上がる。
その視線の先には、宮本さんと平野さんの姿がちらりと浮かんでいるのが分かった。
「……あの二人には絶対負けない」
独り言のように呟いた言葉は、誰に向けたものなのかは分からない。
一方、校庭ではソフトボールの練習が始まっていた。
「片桐、次はインコース狙いだ!」
ヒロキングがキャッチャーミットを構える。
僕は少し緊張しながらも、全力でボールを投げた。
ミットに収まる音が響き、ヒロキングが満足そうにうなずく。
「いいじゃん。これで本番も余裕だな」
「いや、今のはたまたまだろ」
「大丈夫だって! 俺らが最強だ!」
彼の根拠のない自信は、クラス全体の空気を明るくしてくれる。
クラスメイトたちからも「片桐、本番頼んだぞ!」って声援を受ける。
少しはクラスに認められたかな。
昼休みの中庭での談笑、午後の練習時間、そしてそれぞれの家での自主練習。
そんな日々が繰り返され、少しずつクラス全体がまとまってきた。
ある日、中庭での昼食時、高塚さんが僕に問いかけてきた。
「片桐、ちゃんとやってる?」
「まあね。高塚さんこそ大丈夫?」
「当然でしょ。負ける気なんてしないから。……ちゃんと応援にきなさいよ…」
「あぁ、しっかり応援させてもらうよ」
その自信がどこからくるのかは分からないけど、彼女の真剣な表情を見ていると、僕も少しだけやる気が出てくる。
そして2週間がたち、ついにクラスマッチ本番が訪れた。
「よし、いくぞ!」
ヒロキングが僕の肩を叩く。
彼の笑顔に、緊張よりも期待が膨らむ。
一方、体育館では高塚さんが宮本さんと目を合わせ、静かな火花を散らしていた。
みんながそれぞれの想いを胸に、クラスマッチがいよいよ始まる。




