第20踊 片桐秋渡のお昼休みは平穏じゃいられない?!
火曜日、今週は委員会もなく暇な1週間だ。
いつもと同じ日常。平和だ。
だが最近、この日常に少し物足りなさを感じ始めている自分がいる。
理由は明白だ。最近はずっと騒がしかったからだ。宮本さんと平野さん。
彼女たちの存在が、僕の平穏を少しだけ変えてしまった。
普通科と商業科の生徒には基本的に接点はない。
接点があるとすれば、クラスマッチや体育祭、文化祭くらいだろう。
それに、たまにある学年行事くらい。
平穏を望んでいたはずなのに、みんなでワイワイする時間が楽しいと感じるようになった。
なんとも不思議なものだ。
午前の授業をこなし、いつも通りお昼休みを迎えた。
僕はお弁当を片手にヒロキングに声をかける。
「ヒロキング、中庭いく?」
「もちろん行くよ」
ヒロキングはいつものように軽く返事をした。
一応、高塚さんにも声をかけておくか。
「高塚さん、お昼ご飯どうする?」
「珍しいわね。片桐から誘われるなんて。しかたないから行ってあげる」
高塚さんはなぜか嬉しそうだった。
その微妙な表情を見逃さないヒロキングがにやりとする。
「無理してこなくていいんだぞ~」
ヒロキングが調子に乗った瞬間、予想通りの展開が待っていた。
「うるさいわね!」
バシッ!
高塚さんの蹴りが彼の足元をかすめる。
僕が蹴られるかと思いきや、まさかの方向転換にヒロキングも「おっと!」と避けて笑う。
「なんで俺まで巻き込むんだよ!」
「だってあなたがうるさいのよ!」
朝から元気な2人のやり取りに、僕は苦笑しつつ中庭へ向かう。
いつもの席に着き、お弁当を広げようとしたその時だ。
「あー!見つけたよ宮本さん!ふっふっふっ。私からは逃れられないよ片桐くん!」
「おーい、片桐くーん!咲乃ちゃん!それとヒロキング!」
遠くから元気な声が聞こえた。
視線を向けると、宮本さんと平野さんがこちらに向かって手を振っていた。
2人はお弁当を片手にこちらへ近づいてくる。
目立つ2人は注目の的だった。
「どうしてわざわざ中庭まで来るのよ……」
高塚さんが小声でつぶやいていた。
周囲のみんなが2人の向かう先にヒロキングがいるのを見て、納得したように視線を戻していた。
目立つ2人に釣り合うのはいつだって彼だ。
僕じゃその役目は務まらないだろうな。
「なんで片桐くんじゃなくてヒロキングばっかり注目されてるの!」
「いや、それは俺のせいじゃないぞ!」
ヒロキングが苦笑いしながら答えると、宮本さんが笑顔で同調した。
「だって、ヒロキングってそういうキャラじゃん?」
ヒロキングは肩をすくめながら笑った。
隣の平野さんも「たしかに、ヒロキングっぽい!」と無駄に手を叩いて同調する。
「で?なんでここに来たんだ?」
「この前、みんなが中庭でお弁当食べてるのを見かけてね、私も混ざりたいなぁと思って来ちゃった!佳奈ちゃんは気がついたらついてきた」
てへっと笑う宮本さん。
その無邪気な仕草に目を奪われる。
平野さんも「そうだぞ~、佳奈ちゃんは気がついたら着いてきたんだぞ~」とうんうんと同調するが、途中で何かに気づいたようだ。
「いや、私の扱い雑すぎ!」
そのツッコミにみんながくすくす笑い合う。
和やかな雰囲気が広がり、僕は少しほっとした。
「で、私たちもお邪魔していいかな?」
宮本さんが上目遣いで尋ねてくる。
その表情が妙に可愛らしく、つい戸惑いながらもうなずいた。
「もちろんいいよ!ヒロキングも高塚さんもいいよね?」
「俺は全然いいぞ」
「私も構わないわ」
こうして、5人での賑やかなお昼ご飯が始まった。
宮本さんが持ってきたお弁当のおかずを平野さんがつまもうとして、箸の奪い合いが始まる。
「ちょっと佳奈ちゃん!それ私のだから!」
「いいじゃん!一個ぐらい!」
バタバタと喧嘩する2人を横目に、ヒロキングが苦笑しながらつぶやいた。
「本当に騒がしくなったな。まあ、悪くないけどな」
その言葉に僕もうなずく。
平穏な日常が戻るのもいいが、この少し騒がしい時間も悪くない。
これから毎日、こんな風に賑やかになりそうだ。
そんな予感を抱きながら、僕はお弁当を一口頬張った。
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