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第19踊 高塚咲乃とクレープと、青春の味


弓道場に到着した僕たちは、道場内で弓道部部長の矢野先輩の指示のもと、オリエンテーションに参加した。


新入部員は男女合わせて20人近く。

少し緊張していた僕を見て、高塚さんが「しっかりしなさい」と小突いてくる。

まったく、余計なお世話だ。


顧問の先生が遅れて登場した。

まさかの天使先生だった。


「弓道部顧問の天使みかです。新入部員のみんな、よろしくね!」


天使先生の柔らかい天使の微笑みに、どこからか「天使が舞い降りた!」という声が上がる。

どうやらここでも天使先生の人気は健在らしい。


その後、練習着のサイズを記入したり、弓道の道具について説明を受けたりした。


弓や矢は学校に用意されたものを使える。

けれど、矢に関しては殆どの人は自分の矢を持っている。

しかも矢の羽根やちょっとしたテープ色は自由に選べるらしい。自分だけの矢が作れると思うと少しワクワクする。


また、弓を引くときに使う弓がけは鹿革で作られた手袋のような道具で、オーダーメイドで用意する必要がある。

業者の人に一人ずつ手のサイズを測定してもらう作業が新鮮だった。


オリエンテーションを終えると、今日はそのまま解散となった。


帰り支度をしていると、高塚さんに呼び止められた。


「片桐、ちょっと付き合ってよ」


「いいけど…どこに?」


「行けばわかるわよ」


そう言って向かったのは、地域でも有名な総合施設だった。


「何か買うの?」


「どちらかと言えば、食べたいものね」


彼女に連れられて向かったのはフードコートだった。


「ここのクレープが美味しいらしくて、私も食べてみたかったの。1人だとちょっとあれだし」


「別に高塚さんなら1人でも…」


言い終わる前に、足を蹴られた。


「何か言ったかしら」


「いえ、何も」


蹴る力を加減してほしい、と内心思う。


注文を終えて、高塚さんはチョコバナナクレープを、僕はイチゴクレープを受け取る。


食べようとすると、高塚さんに止められた。


「まだ食べちゃダメ。写真を撮るから」


高塚さんは僕のクレープを自分のものと並べ、スマホを構えた。

撮影が終わったと思ったら、今度は僕を手招きする。


「こっちに来て」


「なんで?」


「いいから」


言われるがまま近づくと、高塚さんがぐっと顔を近づけてきた。


彼女のスマホがインカメラモードになっているのに気づく。


パシャリ。


「はい、これでよし」


彼女は満足げにスマホを確認すると、ようやく「食べていいわよ」と許可を出してくれた。


一口食べたクレープは、もちもちの生地が弾力たっぷりで、噛むたびに甘さがじんわり広がる。


中のクリームとフルーツが程よい酸味と甘みを演出し、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている。


高塚さんも美味しそうにクレープを頬張り、幸せそうな表情を浮かべていた。


「このクレープ、うまいな」


「えぇ、とても美味しいわ」


普段のクールな表情がほころんで、まるで別人みたいだ。


すると彼女が僕のクレープをじっと見つめて言った。


「ねえ、一口ちょうだい。私のもあげるから」


そう言うと、すぐさま僕のクレープを奪い、代わりに自分のを押し付けてきた。


「イチゴも酸味があって美味しいわね」


チョコバナナを一口食べると、バナナとチョコの甘さのバランスが絶妙で、これはこれで美味しい。


「チョコバナナもやっぱうまいな」


「でしょ!」


目を輝かせてドヤ顔をする彼女に思わず笑ってしまう。


ふと、僕は気づいた。


「これ、間接キスになるんじゃ…」


つい口に出してしまうと、高塚さんの顔がみるみる赤くなった。


「いちいちそういうこと言わなくていいの!バカッ!」


そして当然のように蹴られた。理不尽すぎる。


帰り道、高塚さんと並んで歩きながら、クレープの甘さと、何気ない時間の楽しさを反芻する。


こうやって誰かと帰り道に買い食いするのも悪くない。


一緒に笑ったり、恥ずかしくなったり、こういう瞬間が青春なんだろうなと思った。


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