第18踊 心の声が漏れる片桐くん、恥ずかしがる高塚さん
4月の第3週目。
青少年交流の家での1泊2日の交流会を終えた僕は、土日でしっかり体を休めた。
今日から部活動が本格的に始まる。
僕は弓道部の入部届に名前を書いた。
決め手は、部活動見学で見た矢野先輩の射法八節。その美しい動きに心を奪われたのだ。
弓道は静かなスポーツだ。他の部活のような声援はなく、矢が的を射ると拍手が送られる。
その控えめな空気が、目立ちたくない自分に合っている気がした。
朝のホームルームで、天使先生が入部届を回収する。ヒロキングはやはりソフトテニス部に入るらしい。
「弓道部にしたよ」と伝えると、「片桐らしいな」と笑われた。とりあえず、お互い頑張ることを約束して午前の授業へ向かう。
昼休み。
英語の授業でヘトヘトになった僕は、お弁当を持っていつもの中庭へ。
天使のような見た目の天使先生が、あの英語オンリー地獄を繰り広げるなんて……。悪魔かよ。
テラス席の角に腰を下ろし、お弁当箱を開けたその時、背後に人の気配がした。
「また私を置いていったわね、薄情者め」
振り返ると、高塚さんが仁王立ちしていた。
「毎日一緒にご飯食べる関係だった?!」
僕がツッコむと、彼女は当たり前のように向かいの席に座った。
珍しく機嫌が良さそうで、ニコニコしている。
「普段からそうしてれば可愛いのになぁ」
高塚さんらしいクールな一面もいいけど、こういう柔らかい表情も悪くないな。
「ほぇ?!」
突然、彼女が変な声をあげた。顔を真っ赤に染め、動揺している。
「どうしたの高塚さん?顔赤いけど、熱とかある?」
「……もっかい言って」
食い気味に迫られ、僕は一瞬言葉を失った。
あーなるほど、そんなに嬉しかったのか。
僕は満を持して答えることにした。
「毎日一緒にご飯食べる関係だった?!」
さっきよりコミカルにモーション付きでやってみせた。
バンッ!
思い切り足を蹴られた。
「わ、わざとやってるだろ!」
高塚さんは肩を震わせ、睨みつけてくる。
「いや、大真面目だって。他に僕が何か言ったっけ?」
僕が訊くと、彼女は俯いてもぞもぞと答えた。
「……可愛いって言ってた」
「え、もしかして……口に出てた?」
彼女は恥ずかしそうに頷いた。
今度は僕の番だ。顔が熱い。
しばらくの沈黙を破ったのは、第三者の声だった。
「お、片桐ここにいたのか。探したぞ……って、二人ともどうした?」
ヒロキングが弁当を片手に現れる。
「「なんでもない!」」
声が揃い、ヒロキングは「お、おぉ……」と戸惑っていた。
場の空気を変えようと僕は話を振った。
「ヒロキング、何しにここへ?」
「俺も昼飯一緒に食べようと思ってな。お前と食った方が気が楽だから。まさか高塚さんがいるとは思わなかったけどな~」
「私は片桐が一人でかわいそうだから来てあげたの」
高塚さんは平然と言う。扱い雑すぎないか?まぁいいけど。
ヒロキングが隣の机を引っ付け、3人で弁当を食べ始めた。賑やかに食べる昼食は、いつもより美味しく感じた。
食後、高塚さんが弓道部に入ると聞いて、妙に納得する。弓道の静かな空気は彼女に似合っている気がした。
放課後。
荷物を持って弓道場に向かう前に、高塚さんを探したが、教室にはいなかった。
代わりに、出口で腕を組んで待っている彼女がいた。
「片桐、早く準備してよ。置いていくから」
冷たく言い放つも、視線は僕の方をじっと見ている。
「ありがとう」
そう返すと、彼女はくるりと踵を返し、さっさと歩き出した。
その後ろ姿を見ながら、僕は心の中でそっと思う。
高塚さん、やっぱり優しい人だな。
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