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第111踊 バンド演奏は青春に必要

9000PV突破ありがとうございます!!

「次は…そうだな。そろそろ有志による出し物の時間だし体育館へ行くか」


ヒロキングに連れられ、僕たちは体育館へ移動した。


有志による出し物といえば、バンド演奏や演劇が大半を占める。

「高校生活の思い出にバンド」なんていうのは定番だ。


「ヒロキングはなにかやらないのか?」


「俺か? 一応誘われたけど今回は断ったわ。まぁ…音楽性の違いってやつだ」


音楽性の違いってなんだよ。心の中でツッコんでおく。


時間になり、出し物が始まった。

素人レベルの演劇や演奏を眺めながら、「まぁ文化祭らしいな」と思っていたその時――


「お、次だな」


ヒロキングが姿勢を正す。


「次に何があるの?」


千穂が疑問に思いヒロキングに問う。


「女子テニス部のバンド演奏だ。あの二人が仕切ってるんだよ」


そういえば最近麻里子の姿を見なかったけどそういう事だったのか。


「あの2人って…麻里子も出るの?」


咲乃が食い気味に尋ねる。


「当然。玲奈はドラム、麻里子はボーカル。俺も誘われたけど――」


「音楽性の違い?」


「察しがいいな」


……そのフレーズ、気に入りすぎだろ。


「次は女子テニス部によるバンド演奏です。」


アナウンスが鳴り響き、幕が上がった瞬間――ドラムの強烈な一打が会場を揺らした。


一曲目は流行ドラマの主題歌だった。

激しいロック調のメロディが奏でられる。


麻里子が歌い始めると一気に歓声が上がった。

麻里子の歌声は力強く、鋭く体育館全体に突き刺さる。玲奈のドラムが正確に刻み、ギターとベースが疾走感を生み出す。


「……やべぇな。これ、プロのライブかよ。心に直接響いてくるな」


ヒロキングが腕を組んで唸る。


「本気で練習してたんだろうな。こりゃ俺が入っても音楽性の違いどころじゃなかったな」


最後のシャウトと共に観客が総立ちになり、歓声が爆発する。


次の演奏で空気は一変した。

恋愛映画の主題歌、切ないバラードだ。


玲奈がシンバルを柔らかく叩き、ギターのアルペジオが会場を包む。


麻里子の歌声は先ほどとは違い、優しく胸を震わせる。


「好き」という言葉が繰り返されるたびに、観客の心が引き込まれていく。


「……麻里子、こんな歌い方もできるんだ」


咲乃がぽつり。


「なんか……聞いてるだけで胸がキュッてする。私も……」


その続きを言わずにうつむいた。頬が赤い。僕は思わずドキリとした。



「最後はみんなの、そして私の恋を応援する曲を歌います!」


麻里子の一言に、会場は一気に沸く。

どうやらオリジナルソングらしい。


イントロは明るく弾むようなリズム。恋の始まりを全力で駆け抜けるようなテンポだ。


「この想いには嘘つきたくない♪」


麻里子が歌い出すと、手拍子が自然に生まれる。観客全員が歌に飲み込まれていった。


そしてその途中、麻里子の視線が、僕にまっすぐ突き刺さる。


次の瞬間、彼女は歌いながら小さくウインクし、左手でハートマークを作ってみせた。


心臓がドクンと跳ねる。

まるでぼくに届けといってるみたいだ。


「ちょ、ちょっと秋渡! 今の、麻里子こっち見てたよね!?」


咲乃が慌てて僕の腕を掴む。なぜだかすごい力が込められている。


「うわぁ、絶対秋渡狙い撃ちでしょ! 赤くなってるし~!」


千穂までがニヤニヤしながら背中をバシバシ叩く。

けど千穂さん、力込めすぎじゃないかな?


否定しようと口を開いた瞬間、ラストのサビ。

麻里子が全力で叫ぶ。


「届けー!!!」


それはまるで、僕一人に向けられたメッセージのようで、逃げ場がなくなる。


大歓声の中、曲は幕を閉じた。



体育館は大きな拍手と熱気に包まれたまま。

けれど僕の周囲は、なぜか妙に居心地が悪い。


「……秋渡」


咲乃が頬を膨らませて、じとっと僕を睨む。


「なんで麻里子にファンサされてんの?」


「いや、みんなへのサービスで――」


「ふーん。でも顔真っ赤よ!やっぱりあんたに向けてでしょ!」


「ぐっ……!」


千穂も腕を組みながらニヤニヤ…って目が笑ってなくない!?


「そーだそーだ。秋渡がデレデレしてたの、ばっちり見えてたよ? やっぱ麻里子ちゃんに持ってかれちゃうのかなぁ~?」


「ち、違うって!」


必死に否定するが、二人の視線は鋭い。


咲乃は僕の袖をくいっと引っ張る。


「秋渡は、私が見張っておかないとね」


「え、あ、ああ……」


すかさず千穂が反対側から腕を絡めてくる。


「私だって! 離さないからね、秋渡!」


両サイドから引っ張られ、完全に修羅場状態だった。


「――あっ、いたいた」


振り向くと、ステージ衣装のままの麻里子が、汗を拭きながらこちらへ歩いてきた。

玲奈も後ろで手を振っている。


「どうだった? 私たちのバンド!」


「す、すごかったよ。まるでプロみたいで……」


「ふふっ、嬉しいな! 片桐くんに…秋渡くんにそう言ってもらえると、もっと歌いたくなっちゃう」


またウインク。


「……っ!」


咲乃と千穂が同時に僕の腕をさらに引っ張る。

麻里子はそれを見てにこにこと笑う。


「ねぇねぇ、二人とも、そんなに秋渡を独り占めしたいの?」


「ち、違っ……!」


「べ、べつにそういうわけじゃないわ!」


「ふふ、でもね、さっきウインクしたの、秋渡くんだけだよ?」


二人からこめられる力がさらに増していく。


「な、なにそれ!」


「秋渡は私の隣なんだから!」


咲乃と千穂が左右からさらに引き寄せ、まさに綱引き状態。


麻里子は楽しそうに笑う。


「ふふ、じゃあ秋渡くん、ちゃんと選んでね。文化祭が終わるまで逃がさないから!」


その時玲奈がズカズカと前に出てきて、ドラムスティックを肩にかけながら言った。


「はいはい青春劇場はここまでー! 観客もまだ残ってんだから、ここで痴話げんか始めないでよ?」


「ち、痴話げんかじゃないし!」


「そうだよ、別にそういうんじゃ!」


咲乃と千穂が同時に声を上げる。


玲奈は肩をすくめてニヤッと笑う。


「いやぁ~、秋渡も罪な男だねぇ。こんなに女の子たちに引っ張り合いされちゃって。あたしだったら絶対ニヤけてるよ」


「ニヤけてないって!」


思わず全力で否定する。


玲奈の一言で場の空気が少し和らいだ。

でも、咲乃と千穂の視線の熱はまだ冷めていない。

麻里子はそんな二人を、純粋な笑顔で挑発するように見つめていた。

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