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第110踊 お化けよりも怖いもの

「そ、そんなのもちろんいくわ!」


咲乃はなぜか食い気味にきた。


さっきまでのムスッとした咲乃はもういない。

嬉しそうにニコリと笑う咲乃がそこにいた。


「なになに咲乃ちゃん上機嫌だねぇ~よしよし」


「にゃ!?ちょっと千穂!頭ヨシヨシしないでよ!」


千穂は後ろから咲乃に抱きつき頭を子供を可愛がるようによしよししていた。

そんな様子を見てると千穂と目があった。


「ねぇ秋渡、私も混ざっていい?」


「僕はいいけど…」


チラリと咲乃を見ると咲乃は肩をすくめた。


「私もいいわよ。みんなで回った方が楽しいしね」


「やった!咲乃ちゃんありがとー!」


「ちょっと!?ほっぺむにむにも禁止よ!」


女の子二人がじゃれてる姿っていいなと思う。なんか尊いとはこのことなんだろうな。


「よし、じゃあまずはごはんにするか!俺についてきてくれ」


「ヒロキング、何さり気なく混ざってんだよ。まぁいいけど」


最初から行くメンバーのように振る舞うヒロキングに連れられて僕たちはお昼ご飯を食べに中庭へ。

僕と千穂はカレーを、咲乃とヒロキングはうどんが食べたいということで一旦別れた。


カレーは女バスの先生がやっていた。女の先生で普段の授業でも体育を担当している。歯に衣着せぬ物言いで影で男子から人気のある先生だ。


「ほう。千穂はこーゆうのがタイプなのか意外だなぁ」


「ちょっと先生!?」


「避妊はするように」


「先生!?」


「いっぱい食べて体力つけろよ。サービスだ」


そういって先生はカレーを大盛りにしてくれた。千穂は「そういんじゃないですから!」と顔を真っ赤にして反論していたが先生は聞く耳を持ってなかった。僕はいきなりの出来事にぽかんとしていた。


先生はそんな僕にはただひとこと「体育倉庫の鍵は空けておく」とだけ告げた。


体育倉庫……千穂と2人っきり…。


ハッと我に返る。

誰だよこの人を先生にさせたのは。

ちょっと想像してしまったのは思春期だから仕方がない。


待ち合わせ場所にいくと2人はまだ帰ってきていなかった。

顔を赤くした千穂と二人で咲乃とヒロキングを待つことに。


待ち合わせ場所でベンチに座っていると、千穂はまだ頬を赤くしたまま、うつむき加減で髪をいじっていた。

僕もなんとなく気恥ずかしくて、沈黙が妙に重たい。


「……ねぇ」


不意に千穂が口を開く。


「ん?」


「さっきの先生の言葉……その、気にしなくていいからね?」


「ああ、わかってるよ」


「ほんとに? なんか秋渡、変な想像してた顔してたよ?」


「ぐっ……」


図星すぎて言葉が出ない。顔がさらに熱くなるのが自分でも分かった。


千穂は僕の反応を見て、ぷっと吹き出した。


「もう、ほんとに男子って単純なんだから……でも…いいよ…私は秋渡となら―――」


え? 今なんて? 聞き間違い?

僕が固まっていると、ちょうどそのタイミングでヒロキングと咲乃が戻ってきた。


「おーい! 待たせたな!」


ヒロキングはうどんの丼を抱えたまま上機嫌だ。

咲乃は僕と千穂の顔を交互に見て、眉をひそめる。


「なによ、二人とも顔真っ赤じゃない。熱でもあるの?」


「べ、別に!」


千穂が慌てて手を振る。僕も「いや、なんでもない」とごまかした。


そんな空気を察したのか、ヒロキングがニヤリと笑って話題を変える。


「よーし、飯も食ったし次は遊ぶぞ! 一組のお化け屋敷に行こうぜ!」


「お化け屋敷?」


僕は思わず聞き返す。


「そうそう。あの2人がノリノリで準備したやつだ。絶対面白いって!」


「べ、別に行ってもいいけど……」


咲乃は珍しく歯切れの悪い返事をした。


中へ入ると、廊下は暗幕で覆われ、教室内は昼間とは思えないほど暗い。ぼんやり光るランタンと不気味な音響で雰囲気満点だ。


「うぅ……あきくん、やっぱり怖いかも……」


咲乃は小声で呟く。

僕のことをあきくんと呼び、口調も柔らかめだし本当に苦手なのだろう。


「大丈夫だって。お化け屋敷なんてただの演出だから」


そう言った瞬間——


「うらめしやぁぁぁぁ!」


暗闇から突然飛び出す影。

よく見ると全身血だらけでところどころ包帯が乱雑にまいてある。


「きゃっ!」


咲乃が思わず僕の腕を掴む。心臓が跳ねた。


「ちょっと咲乃ちゃん! ?いいなぁー! 秋渡の腕に抱きつくとかズルいよぉ!」


声の主は佳奈だった。お化け役なのに、嫉妬混じりの声を上げる。いやある意味お化けらしいか。


「ひゃっ!?」


その声に驚いた咲乃はさらに僕にしがみついてくる。


「ふっふっふー!次は私の番だよー!」


今度は白い布を被ったいづみが横から飛び出し、僕に抱きついた。


「え、ちょ、なんでお化けが抱きつくんだよ!?」


「ずるいずるい! 咲乃ちゃんだけなんて不公平でしょ!役得役得ー!」


いづみはにやにや笑いながら、わざと密着してくる。


「あー!私だって負けないよー!」


佳奈も便乗してやってきた。


「ちょっと待って!? 佳奈もいづみも役忘れてるでしょ!」


僕は必死に振りほどこうとするが、咲乃も含めて三人に絡まれて動けない。


「ちょ、ちょっと何してんのよ!? お化けより君たちの方が怖いよ!」


千穂が呆れた声を上げた。


現場はもう完全にカオスだった。

お化け屋敷なのに、悲鳴よりも笑い声の方が響き渡っている。

ヒロキングは「出口で待つ」と言い残し先に逃げていった。

助けてくれよ親友じゃないか。


「ひどい目にあった…」


なんとか出口へと到着。


「いやいや良い目すぎるでしょ!女の子なめんな」


不機嫌な千穂に脇腹をチョップされた。地味に痛い。


「……こほん。さ、次行くわよ」


咲乃は少しよれた制服をパパっと直し何事も無かったかのように振る舞う。


「いや咲乃ちゃん、無理あるから。近くに私いたのに秋渡に飛びついたのはなんでかなー?私に教えてくれるかなー?」


ニコニコ笑みを浮かべ、手をこちょこちょしながら咲乃に近づく千穂だが目が据わってる。


「ち、千穂!?話し合いましょ!話せばわかるわ!」


「問答無用ー!」


「きゃははっ!やめっ……あははは!」


しばらく咲乃の笑い声が鳴り止まぬことはなかった。

僕とヒロキングは黙ってそれを見守った。

やっぱり女の子がじゃれあうのはてぇてぇです。

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