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第104踊 天国と地獄のメニュー開発!

「休みの日に悪いけど…お昼から家庭科準備室に来れる?味見して欲しいんだけど」


天国と地獄喫茶のメニュー開発チームに呼び出されたヒロキングと僕は家庭科準備室に来ていた。


部活中、咲乃に何を作ったのかそれとなく聞いてみたが「言うわけないじゃない」と教えてはくれなかった。


「どんなメニューか楽しみだな片桐!」


なぜか楽しそうにワクワクしているヒロキング。


「なにそんなにワクワクしてんだ」


「今日は知り合いの女子の手作りが食べれるんだぞ?男としてワクワクせずにいられるか?居られないだろ」


「いやいや。ヒロキングならそういうの食べ飽きてるんじゃないのか?」


僕がそう言うとヒロキングはえらく真剣な表情で答えた。


「知らない人からの食べ物は口にしないようにしてる。知ってるか?針とか入ってると痛いんだぞ」


「いや経験者か!例えがリアルすぎるだろ!変なところで恨み買ってるなぁ」


ヒロキング、モテるゆえに重たい愛が来てるときもあるんだな。


「私じゃない女の子とあーだこーだ……こほんっ。それと、最近は上野さんがいるからそういうのは断ってるんだよ」


「愛ってやつか」


「怒ると怖いんだぜ」


「僕の気持ち返せ」


ヒロキングの王様としての要素が上野さんによって排除されつつあるなと感じた僕であった。

しばらくするとメニュー開発チームの女子たちがやってきた。


咲乃がリーダーであり、5人で構成されている。上野さんや料理研究部の村田さんと白石さんがいた。そしてもう一人、意外にも千穂がメンバーにいた。


それぞれが家から作ったお菓子やご飯ものを持参していた。

卓上に様々な調味料やフルーツ、牛乳やジュースなどが陳列されていく。

どうやら飲み物はここで作り上げるらしい。


選ばれるメニューは食事部門でひとつ。デザートでひとつ。飲み物でひとつだ。

一人一人が考えたメニューを披露していく。


「じゃあ私から行こうかな。あんまり自信ないし」


最初に前に出てきたのは、少し緊張した様子の上野さんだった。


「えっと……これは、“天国”をテーマにしたパフェです。その名も『天国のふわふわパフェ』!」


透明なグラスの中には、白いホイップ、ミルクゼリー、桃のコンポート。ほんのり金粉が輝いている。


「優しくて、癒やされるような味を目指したの。スプーンを入れると層ごとに違う食感と甘さがあるから、よく混ぜてから食べてね」


僕がひと口食べると、思わず息を漏らした。

ふわっと甘く、でも甘すぎない。ホイップの軽やかさ、ゼリーのぷるんとした口当たり、桃の自然な甘み。


「これ……すごく優しい味だ。ふわふわしたクリームとぷるんとしたゼリーがいいアクセントになってる!何個でも食べれそう!」


ヒロキングも真顔でうなずいた。


「これを毎朝食べたら、心が浄化されそう……」


咲乃たちも試食し、美味しさに驚いていた。


みんなの反応を見て上野さんはほっとしたように微笑む。


「何回も試作したんだ。ゼラチンの量とか、果物の甘さとか……でも、ちゃんと“天国”って感じたなら、嬉しい」


その顔は、まさに天国にいる天使そのものだった。


次に出てきたのは、料理研究部の2人。

元気な村田さんとおとなしい白石さん。

ふたりは協力して作ったらしい。

息ぴったりに料理を運んできた。


「これは“天国と地獄”を両方味わえるタコライスプレートです!その名も『天国と地獄の二刀流タコライス』です!」


白い皿の半分には、ピリ辛スパイスたっぷりのタコライス。唐辛子とガーリックの香りが立ちのぼる。

もう半分には、とろとろの卵で包んだチーズライスと、優しい甘さのハニーマスタードソース。


「こっちが地獄、こっちが天国。半分ずつ食べてもいいし、混ぜても楽しいよ!」


僕がまず地獄ゾーンにスプーンを入れると、見た目通りの強烈な刺激が襲ってくる。


「っか……辛い……!でも……うまい……!」


「へへっ、それ、白石の十八番なんですよー!」


村田さんが自分のことように白石さんを褒める。

褒められた白石さんは恥ずかしそうにしているが嬉しそうだ。

すかさず天国ゾーンを口に運ぶと、まろやかな卵とチーズ、そして甘いソースが舌を優しく包み込んだ。


「……これが……救済ってやつか……」


「ちゃんとバランスが計算されてるんだな」


ヒロキングも感心している。


「そりゃあ何度も練習したからね。最初は混ぜたら色が汚くなってさ……彩りとか味の後味とか、全部調整したの」


「こう見えて村田さんは繊細な味が得意なんです」


「それ褒めてるのか白石~」


褒められ慣れてないのか照れながら白石さんをこそばしていた。


みんなの反応はかなり良く、2人の料理への熱意が伝わってくる一皿だった。


「じゃあ、次は私の番ね」


咲乃が差し出したのは、深紅のグラスデザート。


レアチーズムースとラズベリーソース、底には唐辛子入りのビターチョコレートが潜んでいて遊び心あるスイーツにしたらしい。


「“地獄”ってテーマで作ったの。“甘くて、刺激的で、でも最後は落とされる”。恋と同じでしょ?その名も『悪魔の誘惑』よ!」


「恋をスイーツで表現しないでくれ……」と言いながら、僕はスプーンを口に運ぶ。


甘さと酸味が広がり、数秒後、舌にじわりと辛さがくる。チョコの苦みもじんわり染みてくる。でも決して嫌なものではなくてビターな感じで後味はスッキリしている。


「甘みの後にピリッとくる辛さがあるけど、美味しい」


「甘いだけじゃない。それが悪魔の“誘惑”ってやつだよ?」


咲乃がふふっと笑う。


「これ、家で10回くらい作り直したの。チョコが苦がすぎたり、辛さが強すぎたり。でも、今のが一番……食べて欲しかった味。最後はスッキリとしたでしょ?」


その視線が僕にだけ向けられていた気がして、少しだけドキッとした。もうすでに悪魔に誘惑されていたのかもしれない。


「最後はみんなお待ちかね、私の番!」


千穂が持ってきたのは、真っ白と真っ黒の二層に分かれたオシャレなカフェオレ。

千穂の料理スキルは未知数だったが、これは期待できそうだ。


「下がエスプレッソ、上がミルクフォーム! 混ぜると天国と地獄がひとつになるの!その名は『天国と地獄の二層カフェオレ』!」


「ほんとにうまく分かれてる……」

「千穂がほんとにこれを作ったの!?」

「もうスタバのクオリティじゃん」


ヒロキングや咲乃たちがあまりの出来に驚いている。


僕がストローで混ぜて口にすると、まずコーヒーの香ばしさが広がり、次にミルクの優しさがふわっと追いかけてきた。


「正直期待してなかったけど、奇跡が起きてる……。かなり美味しい」


「ひどいな秋渡~!実はさ、これ何回も失敗したんだよ〜。沈んじゃったり、混ざっちゃったり。でも今朝、ようやく最適な量が判明して成功したの!綺麗なグラデーションでしょ?私だってやれば出来るんだよ」


そういって笑う千穂は、無邪気な天使そのものだった。


全員のメニューを味わったあと、咲乃が手を叩く。


「決めた……全部採用よ!!」


「……全部!?」


僕らは驚いたが、咲乃はうなずいた。


「どれもクオリティ高すぎて選べないわ。だから、全部出す!上野さんと私ので天国と地獄のスイーツプレートってことにすればいいのよ!」


上野さんはほっとしたように微笑み、料理研究部のふたりは喜びのハイタッチ。

千穂はよほど嬉しかったのか両手でガッツポーズをしていた。バスケでスリーポイントシュートが決まったばりの喜び方だ。


「文化祭、楽しみになってきたな……」


そんな僕の独り言に、誰かが「うん、私も」とそっと答えてくれた。


甘さも、刺激も、優しさも。

それぞれの“想い”が混ざり合った、最高の喫茶メニューが、ここに完成したのだった。

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