表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/133

第98驚 繋ぐバトン、クラス対抗リレー!

午後の太陽がグラウンドを照らす。

空は澄み、応援席の歓声が大地を震わせていた。


体育祭も終盤に差し掛かり、クラス対抗リレーが始まる。


スタートラインには第一走者たちが並んだ。

1組は佳奈、2組は千穂、5組は玲奈。

そして、3組4組も運動部から精鋭を揃えてきていた。


「レナレナ、1着でバトン渡してよー!お願い!ほら、私の恋のためにもさあ~」


そう言って玲奈の腕にぶら下がるのは、同じく5組の麻里子。

玲奈は肩をすくめながらため息をついた。


「ねえ、麻里ちゃん。スタート前にそんな負担かけないでくれる?っていうか、2走なんだから自分の位置に行きなさい!」


「レナレナが1位でバトン渡してくれたら、私たぶん片桐くんに告白する!カップル誕生だぁ!」


「それフラグだからやめて。あと責任取りたくないなぁ」


そんな軽口の応酬を交わしながらも、玲奈の目は真剣だった。テニス部で鍛えた瞬発力、スタミナ、それをこの大一番にぶつける。


一方で2組の千穂は、スタートラインに立ちながら、そっと秋渡の方を見た。


(あの二人三脚の時、秋渡がくれた言葉……)


『千穂と僕はベストパートナーだと思う』


その記憶を胸に、千穂は深く息を吸い込んだ。その顔はスッキリとした顔をしている。


その隣でひときわ入念にストレッチをしてる女の子がいた。


佳奈だ。


(走りの舞台で負ける訳には行かない…私が本職なんだから!)


佳奈はチラリと走るメンバーを見る。


(千穂には負けられない…絶対勝つ!)


それぞれの想いを胸に、レースは始まりを迎えるのだった。


「On Your Marks……Set!」


一斉にクラウチングスタートの構えををとった。


そして――パン!


スターターピストルの音が空を裂いた。


先に飛び出したのは千穂。

バスケ部仕込みの瞬発力が爆発する。


「いけぇぇぇ!!千穂ぉお!!」

「レナレナァァアアア!!」

「佳奈ちゃんナイススタート!!」


観客席からは名前を呼ぶ歓声の嵐。

千穂の走りはしなやかで、地を滑るようだった。

普段からバスケのカウンター攻撃の練習をしてるおかげだろう。


一方玲奈は少し遅れていた。麻里子にぶら下がられていたせい……ではなく、意図的に抑えていたのだ。


(みんなが疲れてきたら追い抜こうか)


玲奈の走り方はまるで芸術だった。テニスコートで何百回も駆けたその脚が、トラックの上でも弧を描く。


しかしトップに立ったのは、1組の佳奈。


最初こそ瞬発力のある千穂に遅れをとったが、加速しスピードに乗った佳奈は速かった。それもそう、彼女は陸上部であり、1年生にしてレギュラーを掴んだ期待のエースなのだから。


「速い……!」


千穂は唇を噛む。


「思ってたよりみんなスピード落ちないし速いね」


玲奈も全力で追いかけたが抜くことは難しかった。


結果、第一走者の順位は――佳奈、千穂、玲奈の順へ。


「いづみ、頼んだよ!」

「おっけー佳奈ちゃん!」


佳奈といづみが息が合うようにバトンを渡す。

少し遅れて千穂が咲乃とバトンパスへ。


「咲乃ちゃんお願いっ!」


千穂が咲乃へバトンを渡す。

練習通りに無駄なくバトンが渡っていく。


「任せて!」


咲乃の目には、勝気な炎が灯っていた。


一方、玲奈は申し訳なさそうに麻里子へバトンを渡す。


「ごめん麻里ちゃん!みんな意外と速かった!」


「最初から本気出しなさいよもう!……あとは任せてレナレナ」


麻里子がバトンを受け取ると同時に、まるで何かのスイッチが入ったように加速した。


「はやっ!?」


その爆発的なダッシュに、場内がどよめく。


「恋もレースも、先に行くねお二人さん!」


咲乃が猛追を見せてトップを走るいづみに肉薄していたのに――気がつけば麻里子が横から追い抜き数歩先にいた。


「は!? 待って麻里子!ズルい!!」

「ちょっ、麻里子ちゃん速すぎ!くぅぅ……!」


咲乃といづみの顔が必死さで染まる中、麻里子は余裕たっぷりにバトンゾーンに突入。


「行ってらっしゃい!頼んだよ、男子ぃ~!」


バトンを渡されたのは、5組の運動部男子。麻里子に頼りにされたのが嬉しいのかすごいやる気で走っていった。


少し遅れていづみ、そして咲乃がバトンパスへ。

第3走者へバトンを手渡す。


「お願い、秋渡!」


苦しそうな表情で肩で必死に呼吸しながら差し出されたバトンを僕はしっかり受け取った。


その声には、ただのお願い以上のものがこもっていた。


「任せろ!」


3位でバトンを受け取った僕は、ぐっと歯を食いしばる。運動部に比べれば分が悪いが、それでも――。


(少しでも……食らいつくんだ……!)


風を切りながら、秋渡はぐんぐんと前に出る。差は縮まらないかと思われたが、少しずつ、確かに距離は詰まっていた。


スタンドからのクラスメイトの声援や、千穂、咲乃の応援が僕の背中を押す。


「片桐くんいけー!!」

「秋渡!がんばれー!」

「あきくん!」


アンカーが見えてきた。

すでに5組と1組のアンカーはバトンパスを終えて走り出した。


僕は必死にヒロキングにバトンを託した。

こんなに全力で走ったのいつぶりだろうか。

こんなに勝ちたいって思ったのもいつ以来だろうか。


「頼んだぞ王様っ!」


「任せろっ!ここから勝てばカッコイイよなぁ!」


バトンを受け取った瞬間、ヒロキングは全力で走った。


佳奈と千穂が掛け合わさったような爆発的な瞬発力と加速。最初からトップスピードで走り、先行する二人を次々と抜いていく。

ヒロキングの大活躍に大盛り上がりだ。


「うそでしょ!?」

「はやっ!!」

「えっ、あれ……早送りじゃない!?」

「かっこいい…」


運動部のエースたちも、久保くん(1組アンカー)も、その背中を捉えられない。


「スペックチートすぎるだろうがぁぁぁぁ」


そして――ゴール。


テープが宙を舞い、ヒロキングに大歓声が沸いた。


2組、堂々の1位!


「やったーーー!!!」


咲乃が両手を振り上げ、千穂と抱き合い、満面の笑みを浮かべていた。


「さすがだなヒロキング」


僕はゴールしたヒロキングとハイタッチをした。


「お前からバトン貰っといて1位以外とれねぇよ」


そういってハニカムイケメンに男ながら惚れそうになる。あぶないあぶない。


「ねぇねぇ片桐くん、めちゃくちゃカッコよかったよ!」


麻里子が唐突に僕に飛びついてくる。


「わっ!?お、おい……!」


下から見上げてくる麻里子の破壊力。

恐らくほとんどの男子が一撃で心を掴まれるだろう。

無論、僕も例外ではなく――


「保護者はなにしてんの!」


咲乃と千穂が麻里子を力技で僕から引き剥がす。


「やめれぇ~!2人ともそんなに嫉妬しないでぇぇえ!羨ましいなら2人ともやればいいじゃん」


麻里子のそのひと言にお互い顔を見合わす咲乃と千穂。その後何故か顔を赤くする2人、なにやってんだ。


麻里子は玲奈に捕縛されていた。


「秋渡くんなかなかやるね!」

「秋渡、私と陸上やろうよ!いい走りしてたよ!」


いづみと佳奈が後ろに手を回しながら来た。


「2人ともお疲れ。佳奈は普段と別人すぎてびっくりだよ。いづみも速くて驚いた」


「まったく…私たちのことなんだと思ってたのさ」


いづみと佳奈は楽しそうにケラケラ笑っていた。


「ふたりが誘ってくれなかったらリレー出てなかったから、ありがとう!すごく楽しかったよ」


二人は一瞬驚いた顔をして顔を見合せたが、満面の笑みで「うん!」と僕に振り向いて言った。



クラスのテントへ戻ると、仲間たちが歓声で迎えてくれた。


「片桐すげーな!」

「ちょっとアリかも……片桐くん」

「ヒロキングはマジで王様!」


そして――


「みんな、よく頑張ったわね!」


天使先生が天使のような笑顔で称えてくれた。


「これぞ、青春って感じですね!」

「はいっ!」


みんなが笑顔で声をそろえる。


空は青く、風は優しい。


体育祭はまだ終わらない。

だけど――この瞬間だけは、2組が一番輝いていたと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ