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第92踊 借り物競争は修羅場になりえる

借り物競争をみなさんご存知だろうか。


体育祭では定番の競技であり、その名の通り何かを”借りてくる”競技である。


ルールはシンプルで簡単だ。


参加者はスタート地点から一斉にスタートし、お題の書かれた紙を拾って、会場内を走り回って指定されたもの(人、物など)を借りていち早くゴールを目指す。

借りたものと一緒にゴールした順に、勝敗が決まる。


もちろんゴール地点では、審判がお題に合っているかを確認する。

正しければゴールが認められて得点となるのだ。


ここまでくれば気がついた人もいるだろう。


そう、足の速さなんて関係ない。

これは、究極の運ゲーなのだ。



選手が先導に続いて駆け足で入場していく。

その様子を目で追うと見慣れた顔が……多すぎる!!


咲乃や千穂だけでなくいづみや麻里子までいる。

これはひと波乱ありそうな展開だ。

並びを見るに、咲乃と麻里子が第1レース、千穂といづみが第2レースのようだ。


僕はただただ祈る。

無事に終わりますようにと。


――


時間は少し巻き戻り入場口。

私、高塚咲乃は借り物競争へ出場するため整列していた。

指定の場所に行くと少し遅れて隣に人が来た。


「あれ?咲乃ちゃんもいるんだ」


そこにいたのは井上麻里子だった。


「私がいたら悪いみたいないいかたね」


私は少し不機嫌さを装って言い返す。


「ううん、むしろちょうどいいかも!私が片桐くん借りてくから先に謝っとくね、ごめん」


麻里子はぺこりと頭を私に下げる。


私と同じくらい小柄な茶色のミディアムボブヘアーの女の子。

赤いハチマキが彼女をさらに際立たせて魅力的に、そして暑さで上気した肌が魅惑的に写す。

彼女の発言にプラスしてなんだか負けてる気がして余計に腹が立つ。


でも私は大人だから安い挑発になんて乗らないわ。


「謝らなくていいよ。私が先に借りてくから」


私の発言に目の色を変えた彼女。

ピリピリとお互いを牽制し合う。


不意に後ろにいた千穂から声をかけられた。


「2人とも借りたらちゃんと返してよ。最後に私が借りてくから」


「そうだよ2人ともー!……ってえ!?私が借りるんだよ千穂ちゃん!」


いづみも参加するのか千穂の隣に並んでいて会話に加わっていた。


「私、借りたものは返さない主義なので!」


隣で麻里子がえっへんと慎ましかな胸を張って威張っていた。

そりゃ、私だって人のこと言えないけどね。


「私たちの取り立てから逃げられるとお思いかね?逃がさないよー!」


いづみと千穂がたわわな胸を張っていた。

ぐぬぬっと麻里子は唸っていた。

これについては私も同感。神様は不公平だ。


そうこうしてると入場の音楽が鳴り響き、先導の人が笛を吹いた。

私たちは駆け足をして入場していく。

負けられない女の戦いの始まりなのだ。


――


第1レースは咲乃と麻里子だ。

麻里子はなぜか自分のチームではなく藤朋チームに向かって、というか僕に向かって手を振っていた。


「あの子こっちに手を振ってきてないか」

「可愛くないか、惚れそうなんだが」

「あれは俺に対して手を振ってるな」


藤朋チームは麻里子によってザワついていた。

手を振り返したりする勘違い男子が増えていた。


「モテる男はいいなぁ片桐」


ヒロキングが僕の肩を叩きながら隣に来た。


「モテるって……お前にだけは言われたくないわ」


「まぁ、俺はお前よりモテるしな!ははっ」


ヒロキングは相変わらず王様のように振舞っている。

様になるのはご愛嬌というやつだ。


ヒロキングとくだらない話をしているとスターターピストルが鳴り響いた。

どうやら競技が始まったようだ。


勢いよく飛び出す咲乃と麻里子。

ふたりはまっすぐに並べられたお題カードの束へと駆ける。

砂煙が舞い、観客の歓声が大きく響く中、先に紙を引いたのは咲乃だった。


――


私、高塚咲乃は誰よりもはやく紙を手に入れた。


「……っ!」


私の紙に書かれていたのは


『仲のいい友達』


一瞬、戸惑いが咲乃の顔をかすめた。

でも、迷いはすぐに吹き飛ぶ。


……なら、迷うことなんてないよね。


すぐ隣では麻里子が紙を広げていた。


「うわ、これまた……絶妙なやつだね」


麻里子は紙をくるくると指で回して、ふっと笑った。

麻里子は私の方を向いて勝ち誇ったようにニッコリ微笑んだ。


「先に謝って正解でした!彼は私がもらってくね!」


麻里子が駆け出すのとほぼ同時に私も方向転換して応援席へと向かっていく。


麻里子と私が目指す先、それは予想通り同じだった。


私と麻里子は同時に同じ人物に手を差し伸べた。


「え、まさか……僕!?」


渦中の人物、秋渡は応援席で凍りついていた。



「片桐くんっ!」


「秋渡っ!」


名前を呼ばれて僕、片桐秋渡はフリーズしていた。


左右から同時に手を差し伸べて突っ込んでくる咲乃と麻里子。


か、借りられる予感しかしない……!


「秋渡は“仲のいい友達”ってことで、私が借りてくから!」


咲乃は麻里子を牽制するように僕の手を掴む。


「私のお題は“仲のいい異性”だから。もう私の勝ちだから咲乃ちゃんは他の友達探しなよ!」


麻里子も負けじと僕の手を掴む。


「何言ってるの!?“仲のいい友達”って、性別なんて関係ないし!あなたも他の男友達にしなさいよ!」


言い争いながら、両側から僕の腕を引っ張り合う。


「さっそく修羅場すぎん?」

「なにあれ……昼ドラ?」

「青春すぎて涙出そう」


ざわめきの中、ふたりは同時に僕の腕を引っ張る。


「行くよ、秋渡!」

「着いてきて片桐くん!」


結局強引に引っ張られた僕は、二人と手を繋いだままゴールへと引きずられていく羽目になった。


先にゴールラインを切ったのは、ほんのわずかに麻里子。


「やったあ!」


そのまま手を挙げて、審判に紙を見せる。


「お題は“仲のいい異性”です。彼で間違いありません!」


審判が僕と麻里子の手を繋いでいる姿を見てうなずく。


「確認よし、ゴール成立です!」


歓声が上がる。


だが、ほぼ同時に咲乃もゴールしている。


「“仲のいい友達”なら、私だって当てはまってるわ!」


咲乃も紙を突き出す。


審判が少し唸りつつ、チラリと僕と咲乃の手を繋いでる姿をみた。


ギュッと咲乃が手を強く握りしめてきていた。

もしかしたらゴールを認められるか不安なのかもしれない。

僕は不安を取り除いてあげれるようにギュッと握り返してあげた。


「……うん、彼と仲がいいのは間違いないね。こちらもゴール認定!今回は特別に2人とも同着のゴールとします!」


「やったね秋渡!」


咲乃がすごく嬉しそうに笑顔で振り返った。


「ちょっ、なんで咲乃ちゃんまで認められてるのよっ!?」


「だって仲いいもん!私と秋渡は、友達としても大切な関係なんだからっ!」


「むぐぐぐっ……この勝負、引き分けってこと!?」


観客席がまたどっと湧く。


「2人同時に借りられた僕はどうリアクションすればいいんだ…」


途方に暮れている僕をよそに、咲乃と麻里子はなおも言い争っていた。


第1レースが終わり、借りられた人、物は一足先に撤収していく。


僕がチームの応援席に戻ると男子からの視線が痛かった。


「お前も一気に有名人だな!……夜道には気をつけろよ!」


ヒロキングがニヤつきながら話しかけてきた。

最後のはさすがに冗談……だよな?


僕の平穏な生活は今日で終わりかもしれない。


第1レースによって巻き起こされた熱がまだ収まらない中、競技は次のレースへ。

千穂といづみの番へと進んでいく。

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