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第89踊 短距離走と見慣れた女の子たち

最初のプログラムは短距離走から始まった。

よくある体育祭の音楽がなり始め、選手が駆け足で入場していく。


短距離走は純粋な走る力、速さを競うものであり各チーム運動部から運動自慢のメンバーを選出していた。


醸し出す雰囲気が運動強者って感じだ。


最初の種目ということもあり、みんなが注目していた。

1年生から順番に(女子から)走って行くのだが見慣れた顔がチラホラといた。


まぁいるだろうなと思っていたら案の定いた。

もちろん佳奈だ。


陸上部の佳奈が出てくるってちょっとずるい気もするが勝負の世界だ、本気なんだろう。

佳奈は青いハチマキをキュッと結んでレーンへと向かう。


何気に佳奈が走る姿を見るのは初めてかもしれない。


「On Your Marks……Set!」


審判の掛け声が聞こえ、みなが一斉にクラウチングスタートの体制をとった。


パァン!


スターターピストルが鳴り響くと同時に一斉に走り出した。


佳奈はぐんぐんと加速していき圧巻の走りを見せつけていた。

さすが陸上部、走ることのスペシャリストは走るのが速い。


天性の足腰のやわらかさがあの足の回転スピードを生み出しているのだろう。


悠々と一着でゴールテープを切り、満面の笑みを浮かべていた。


「マジ?!私、アレとリレー走らなきゃならないの?速すぎでしょさすがに」


「何弱気になってるのよ千穂!あんたも速いんだから大丈夫よ!」


近くで千穂と咲乃の話し声が聞こえてきた。


千穂も初めて佳奈の走りを見たのだろう。

珍しく弱気な発言をしていたが、咲乃は千穂も負けてないと信じているようだ。


咲乃がいうなら千穂も相当速いタイプだろう。

バスケもカウンターを仕掛ける時は素早い動きが求められるし、瞬発力は凄いのかもしれない。


色々と物思いにふけって2人を眺めていると視線を感じて我に返った。


千穂がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

なにか良くない事がおきそうだなぁ。


「ねぇ咲乃ちゃん、さっきから秋渡がいやらしい目で私たちのこと見てるんだけど」


「えっ、どういうこと!」


ガバッと凄い勢いで咲乃がこちらを振り返った。

目が合うと同時に僕を睨みつけながらドスドスと音を立てながら近づいてきた。


「ちょっとどういうことよ秋渡!」


人間突然窮地に陥った時、今までの経験が力となる。

僕は咄嗟に後ろに少しステップしてみた。


案の定僕の足を狙った蹴りは空を切る。

見切った……はずだったが2発目が来ていた。


一発目は囮か!


「痛ってぇ!」


「何生意気に避けようとしてんのよ!無駄よ」


ふふんと勝ち誇った顔をしているあたり腹ただしい。

しかも咲乃は背が小さく小柄なため勝ち誇った顔で見上げてくるから余計に腹ただしいのだ。


「僕が何したっていうんだよ」


「私たちをいやらしい目で見てたらしいわね!」


「見てないよ!どちらかというと千穂を見てたかな。佳奈とどちらが……」


僕がいい切る前に咲乃はワナワナと肩をふるわせていた。


どうしたんだろう、風邪でもひいて寒いのかな?


「咲乃、風邪でもひいたのか?」


体育祭といえど無理をするのは良くない。


「わ、わわ、私のこともいやらしい目で見なさいよバカっ!」


「咲乃落ち着け!言ってることめちゃくちゃだぞ!」


「咲乃ちゃんはホントおもしろいなぁ~」


堪えきれなくなったのか千穂が吹き出してケラケラと笑っていた。


笑ってないでこの場を収めてくれよ、あんたが始めた物語だぞ。

僕のアイコンタクトに気づいたのか、しょうがないなぁといった顔をしていた。


「ほらほら秋渡が咲乃ちゃんをいやらしい目で見てくれるらしいから競技に集中しようねぇ~」


後ろから咲乃をハグして小動物を愛でるように頭を撫でていた。


そのまま元いた場所へ戻っていく。


パァン!


スターターピストルが鳴り響き2巡目がスタートした。


見慣れた女の子2人が赤いハチマキをなびかせながらぐんぐん加速していき、1位2位を独占していた。


麻里子と玲奈も短距離走に出ていたのだ。


麻里子は素早くゴールすると1着の旗印の所で僕の方を見て手を振って跳ねていた。


「おーい片桐くーん!1着とっちゃったよー!」


「麻里ちゃん、ウチらとは違うチームやからやめなさい」


玲奈がすぐさま麻里子の動きを止めていた。

保護者が隣にいて良かったと心の底から思う。


周りから「片桐って何者?」「なんであいつばっかり…」など要らぬ注目を浴びてしまったが今は今だけは聞こえないふりをしよう。


「いや私も1位やけど」


「あ、いたんだ佳奈ちゃん!」


「私のこと舐めすぎだろ~」


佳奈にグリグリされていて自然と周りも笑顔になっていく。


麻里子には麻里子の魅力があると感じる出来事だった。



短距離走は順調に進み、選手が退場していく。


女子の部でも盛り上がったが男子は白熱していた。


ヒロキングはやはり人気者でありチーム問わず女子から黄色い声援を向けられていた。


もちろん1着でゴール。


涼しい顔をしながら声援に対して手を挙げて答える姿はさながらスーパースターだ。


2着の久保くんもいい走りをしていたのに全てをヒロキングが持って言ってしまった。


久保くんも「あいつだけずるいぜ神様よぉ」と愚痴ってはいたが顔はスッキリとした顔をしていた。


次は障害物競走、いよいよ僕の最初の出番だ。

この熱に負けないように頑張ろう。


集合場所に向かおうとしたら、バシっと突然背中を叩かれた。


「秋渡がんばってね!」


「1着じゃないといやらしい目で見てたこと許さないから!」


千穂と咲乃に激励された。


咲乃、さっきは見てもいいっていってなかったか?


「ありがとう!まぁやるだけやってみるさ」


僕はそう告げると入場口に整列した。


次は僕の番だ。

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