表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/133

第87踊 仮装行列の終わり、体育祭へ


仮装行列がついにスタートした。


僕たち1年2組の「動物園」は、ぞろぞろと3組の後ろをついていき、市内を練り歩いていた。

顔を猫やうさぎ、パンダなど様々な動物の模様で彩った僕たちを、沿道の子どもたちやお年寄り、保護者の方々が手を振って迎えてくれる。


千穂はウサギの仮装姿で、可愛らしい小さなしっぽを揺らして歩いている。

胸元の人参がいい味をだしている。


咲乃はレッサーパンダ姿で、彼女の小柄な体型とマッチしている。

そんな彼女が歩くたびに小さな子どもたちが目を輝かせる。


「お兄ちゃん、オオカミ〜!かっこいいね!」


「本物みた〜い!」


子どもたちの声に、思わず僕も顔をほころばせた。僕の仮装は狼。

耳付きフードに灰色のしっぽ、口元には黒でキリッとヒゲが描かれている。

割とサマになってる……はず。


「秋渡、ちゃんと笑って〜。ほら、せっかく見られてるんだから」


千穂が横でくすくすと笑いながら、僕の腕にぴとっと寄ってきた。

フワフワのうさ耳が頬に触れて、くすぐったい。


「こら、千穂、そういうのはちょっと……」


咲乃がぴしっと声を上げる。


「べっつに〜? だって、動物園の仲間だもん、仲良しに見えたほうが映えるでしょ?」


「そういう問題じゃないでしょっ!」


ふたりの間で挟まれる僕は、苦笑いしかできない。


「それより……見て、ヒロキング!」


咲乃が指を差す先には――


「うわぁ……」


そこには、ひときわ目立つ羽根を広げた――孔雀がいた。


ド派手な羽根に、金と青を基調にした衣装。

顔にはメイクがほどこされ、まるでステージの主役。

いや、事実、ヒロキングはどこにいても主役なのだ。


「おおお〜! 孔雀だぁ〜!すげー!」


「きれーい!」


子どもたちの歓声が飛び交うなか、ヒロキングは華麗に羽根を広げ、くるりと一回転してポーズを決めた。

観客からは歓声と拍手。まるでパレードの王様だ。


「やっぱ、ヒロキングは別格だね」


「うん……さすがって感じ。でも、ちょっとズルいわよ。私たちが目立たなくなっちゃうから」


「ふふん。私たちには私たちの魅力があるからいいの。ね? 秋渡」


千穂がまたしても腕を組もうとしてくる。


「ちょっ、やめっ……!」


けれどそのとき、後方から、幼い女の子の声が響いた。


「お姫様だぁ〜!」


その方向に僕たち三人が一斉に顔を向けると――


「……あれ?」


いた。


別クラス、1年1組の『メルヘン』チーム。

その先頭にいたのは、宮本いづみと平野佳奈だった。


2人とも物語からでてきたお姫様のようだ。

まるで僕たちの動物園が引き立て役みたいに感じてしまう。


「やっぱりあの二人はすごいな……」


僕が思わずそう漏らすと、


「へぇぇ〜、ふーん。秋渡って、ああいう“ザ・お姫様”がタイプなんだぁ?」


千穂が小さく、だけどはっきりと毒づいた。


「ちがっ、そういう意味じゃなくて……」


「ふん。あれくらいで見惚れるなんて……チョロいわね」


咲乃もぼそりと呟く。いや、聞こえてるし。


それでも視線の先のいづみが、僕に気づいて手を振ってきた。


「秋渡くーん!」


「おーい!」


佳奈もくるりと回って、ドレスを翻しながら笑ってくる。


「何回みても狼似合ってるね!」


「こら、佳奈ちゃん!ちゃんと進まないと!」


いづみが小声で注意しながらも、僕たちに笑いかけてくれる。


咲乃と千穂が左右で腕組みしながら、なぜか同時に「むぅ……」と唸ったのが可笑しくて、僕は思わず笑ってしまった。

2人ともそういうとこは似てるんだよね。


「なんで笑ってんのよ、秋渡!」


「ニヤけてる場合じゃないっての!」


どうやら、僕はちょっとだけ贅沢な状況にいるのかもしれない――そんなことを考えながら、仮装行列はゆっくりと街の中心部を通り抜けていった。


道沿いの子どもたちとハイタッチしたり、年配の方々から「よく似合ってるねぇ」と声をかけてもらったり。汗ばんだ額を拭いつつ、でも心は不思議と軽やかだった。



夕方、学校に戻ってからは、グラウンドで結果発表が行われた。


「では、二年生の最優秀賞――『執事とメイド』、2年2組!」


会場がざわめくなか、メイド服の矢野先輩が照れくさそうに頭を下げ、古川先輩はいつもの気だるげな雰囲気でひらひらと手を振る。


「続いて、一年生の最優秀賞は――『大正浪漫劇場』、1年5組!」


拍手が起きた瞬間、麻里子がどや顔でこちら勝利のVサインを決めてきた。


大正浪漫も統一感があって、年輩の方たちだけでなく子供たちにもかなり受けが良かったし、納得の結果だ。


「ふっふーん! 勝ったわ〜、片桐くん!」


咲乃が舌打ちしそうな勢いでそっぽを向き、千穂は「うーん、動物園もよかったと思うんだけどなぁ」と不満げ。


それでも、なんだかんだで満足感はあった。


そしてグラウンドを出たあと、校舎の影で夕焼けを見ながら、千穂がふいに僕の横に並んできた。


「ねえ、秋渡」


「ん?」


「……来年も、また同じクラスだったらいいね」


そう言って、うさ耳を揺らしながら笑う千穂の横顔を見て、僕は「そうだな」と小さく頷いた。


仮装行列の熱はまだ身体に残っている。


でも、それもすぐに次の行事にバトンタッチされる。


明日は――体育祭だ。


また忙しい、でも楽しい一日が、すぐそこに待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ