決着!?
ギャリィーン!
カンッ! カンッ!
ギィン! ギンギンキンキン……!
うるさすぎる。
ふたりの闘う音がうるさすぎる。
おれはずっと床に伏せて、耳を両手で塞いで、早く決着つかねーかなコレと思いながら、闘いをただ見ていた。
ふと振り返ると飼い主が、巨大ケージの檻を強く掴んで、シシリーを見つめてだらしなく笑ってる。好きなんだな。
しかしシシリー、強い。
あんな細い身体で、あんな細身の剣で、兄さんの大剣を押し返してる。
まるで細い水流が岩に穴を開けるような強さだ。って、おれ、かっこいいこと言ったな。
遂にシシリーの細身の剣が兄さんの大剣を弾き飛ばした。
「貰ったわ」
とどめを刺そうとするシシリーに、飼い主が叫んだ。
「シシリーさん! あっくんを殺さないでくれ! 頼む!」
「殺さないわ。ただ無力な動物に戻ってもらうだけ」
そう言うと、シシリーは兄さんに剣を突き刺した。おれは耳を押さえていた両手を動かして、目を覆った。
「なるほどね……」
兄さんの声がした。
「これがマシャーンの能力なのか」
おれが覆っていた手を離すと、兄さんがフェレットに戻っていた。真っ白なおれとは違ってタヌキみたいな柄だ。
シシリーの剣は兄さんの背中に突き刺さっていた。正しく言うと、剣が姿を変えて、ハーネスになって、兄さんに着せられていた。リードはシシリーが手に持ってる。
「さあ、お散歩に行きましょうか」
シシリーが言った。
「楽しそうだね」
兄さんが言った。
「おねえさんとならどこまででも行きたいよ」
「あら。お上手なこと言うのね。動物のくせに」
「だって僕、おねえさんのことが好きなんだ」
「さっきまで命をとるつもりで闘ってたくせに?」
「うん。闘ってるうちに好きになったんだ」
兄さんがシシリーの顔を足元からじっと見つめて、かわいい表情をした。
きゅん! という音が、シシリーの鎧をつけた胸の中あたりからした。
「気をつけろっ! シシリーさん!」
飼い主が声を飛ばす。
「あっくんの口の上手さは天才的なんだ!」
「あっくん」
シシリーが兄さんに言った。
「あたしのものになってくれる?」
「喜んで」
兄さんが爽やかな牙を二本見せて笑った。
「きゅうーん……!」
シシリーが失神して倒れた。なんだこれ。
「うーたん! 早く俺を出せ!」
後ろで飼い主が騒いでる。
「鍵をはずしてくれ! 俺は手が届かん!」
「わかった」
おれはそう言った。
けど、でかい。鍵がでかい。重そう。おれに出来るだろうか?
兄さんのほうをチラッと見ると、着せられたハーネスをはずそうとしてもがいてる。どうやらあれを着せられてると鬼戦士に変身できないようだ。
「早くっ! 早くしてくれっ! うーたん」
飼い主がそう言うけど、まず鍵のところまで登るのが一苦労。おれの背の高さの4倍はあるところにあるし、辿り着けたところで、おれの力ではずせるかどうか……。
「まぁ……いいか」
兄さんの声が後ろからした。
「この姿でもフェレット一匹殺すぐらいは出来る」
兄さんが近づいて来た。
シシリーがリードを握りしめてるので、シシリーをひきずりながら。だから遅い。
口を大きく開けて、鋭い牙を見せて、シャアーとか威嚇の声をあげてる。おれを怖がらすつもりだ。
仕方がない……。
おれはハァ〜とため息をついた。
仕方がない、これはおれの真の力を見せなければならない時が来たようだ。




