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飼い主、見つけた!

 ずるずると穴の中をひきずられて、ちょっと楽しかった。

 でも楽しんでる場合じゃない。このままじゃ、ヤツザキってのにされてしまう。


 明るいのが見えてきた。


 穴のむこう……、出口か? おれ、目が悪いけど、明るいのと暗いのの違いはわかる。


 ぽんっ! という音はしなかったけど、そんな音がするような感じで広い部屋に出た。

 いや、今までの穴の中よりはだいぶ広いけど、そんなに広くはないぞ。

 兄さんはおれを引きずって出ると、おれを足で床に押さえつけて、口を離した。


 なんか懐かしい感じだと思ったら、これ、飼い主の部屋だ。明かりは天井からぶら下がってるケーコートーの明かりだった。

 目の潰れきった灰色の絨毯が敷いてあって、万年出てるコタツもあった。そして部屋の奥にでっかいペット用のケージが置いてあって、その中に飼い主が入ってた。


「うーたん!」


「飼い主!」


 飼い主は何も変わってなかった。ヨレヨレのパジャマ姿で、無精ひげもそのままだ。頭に天使の輪っかとかもついてない。囚人みたいは感じでケージに閉じ込められてる。


 生きてまた会えた。


 こういう時はフェレットも泣ける。ぽた、ぽた、ぽた……


「うーたん! 泣いているのか!?」

 飼い主がなんでかびっくりしてる。


「おう……。おれ、泣くぞ? 寂しくて悲しかったり、嬉しくてたまらなかったりしたら」


「ははっ……」

 飼い主も泣いてた。泣きながら笑えるなんて器用なやつ。

「うーたん。黒いダイヤモンドみたいな目から、涙が出てるぞ。ははっ」


「これからコイツを殺すよ」

 兄さんがおれを踏みながら言った。

「目の前で殺されれば、飼い主も諦められるだろ?」


「やめろっ! あっくん!」

 飼い主が叫ぶ。

「仲良くしろっ! そいつはおまえの弟なんだぞ!」


「弟なんかじゃない」

 そう言いながら、兄さんの体がムキムキと大きくなっていく。

「きみの愛するフェレットは僕だけだ。弟なんかいらない」


「やめろ! やめてくれ!」


 飼い主がケージの檻を掴んでガシガシ揺らした。でもびくともしない。おれはそれを見て、思ったことを言ってやった。


「どうだ? 悪いことをしてケージに閉じ込められるフェレットの気持ちが少しはわかったか? ざまぁ」


「『ざまぁ』じゃないだろっ!」

 飼い主が怒った。

「逃げろ! うーたん! なんとかして逃げてくれ!」


 おれはこくりとうなずいた。なんとかやってみよう。


「なぁ、兄さん」

 おれはすっかり人間ぐらいの大きさに巨大化して鎧を着たイタチ鬼の姿になっている兄さんに話しかけた。

「好きなものの話をしないか? おまえ、ミルク、好きか?」


「僕は好き嫌いが多いんだ」

 兄さんは背中から鋭い剣を抜きながら、言った。

「おまえみたいになんでもかんでも喜んで口に入れる馬鹿とは違うんだ」


「じゃっ……、じゃあ、おまえ、何が好きだ? 好きなもの、言ってみろ?」


「僕は飼い主が好きだ」

 兄さんが気持ちよさそうに答えた。

「飼い主が紹介してくれる知らない人も好きだ。人間が好きなんだ。そしておまえが嫌いだ」


 兄さんが剣をおれに向けた。突き下ろしてくる。


「やめろーーーっ!!」

「やめなさい!!」


 飼い主の声とシシリーの声が重なった。


 見ると、玄関のドアを開けてシシリーが入ってきていた。


「シシリー!」

 おれは、嬉しさでまた泣いた。

「助けて!」



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