穴の中
穴だ。
トンネルだ。
地面の中をどこまでもするする潜って行ける。
この穴を作ったやつは……間違いない!
フェレットだ!
おれと同じフェレットじゃなきゃ、こんなにトンネルの何が楽しいかをわかってる作りにできない!
きりもみ、きりもみ〜
急降下! 滑り台!
ずりずりと上がるのも楽しい。
左右にくねくねするのも楽しい。
あぁ……。トンネルってなんでこんなにフェレットの遊び心を満たしてくれるんだろう……。
……。
はっ!?
遊んでる場合じゃないぞ、おれ!
飼い主を探すんだろ!
……違った。シシリーが入って来れる大きな入口を見つけるんだった。ちゃんと思い出したおれ、頭いい。誰か褒めろ。
おれ、明かりを探す。明かりがあったら外に通じてるとこなんだ、それ。
穴の中は真っ暗だけど、どうせおれ目が悪い。そのかわり超敏感な鼻とかわいい耳で見える、見える、見えるぞ! ここはアイツの巣だ! あの、おれの兄さんだとかいう、タヌキみたいな柄の……名前なんだったっけ……
「よう」
いきなり前からソイツの声がした。
おれと同じ、フェレットの声だ。くくっ。
「だれだ?」
おれは聞いた。
「おれの知ってるやつか?」
「カイヌシを取り戻しに来たのか?」
ソイツが言った。
「僕だよ。あっくんだ」
「あっくん……?」
誰だっけ、それ……。おれは3秒考えた。
「に、兄さん……?」
「そうだ」
兄さんが言った。
「またの名を鬼戦士パスバ・レイだ。カイヌシはお前には渡さん。僕のものだ」
コイツに出会ったらなんて言われてたっけ……シシリーに。忘れちゃった。
でもなんかコイツ、ちっちゃくなってるぞ。
おれと同じサイズだ。っていうか、まんまフェレットじゃん。
勝てる。
毎日飼い主とプロレスごっこしてたからな。強いぞ、おれ。
「シャーッ!」
一声威嚇すると、おれは突進した。首の後ろに噛みついて降参させてやる!
消えた。兄さんが消えた。いきなり目の前から。
「シャアーッ!」
上から出てきた! おれの真上から! ヤバい! さすがにトンネルの構造を熟知してるコイツ!
「きゃー!」
おれ、怖がりでよかった。カラダが勝手に前に逃げ出して、口が勝手に悲鳴上げた。兄さんが噛みつくのを空振りして、後ろにぼてっと落ちる音が聞こえた。
「逃さない!」
そう言って兄さんが追ってくる。追っかけてくる! きゃー! でもおれ、根性なら負けないぞ!
穴の中を短い手足を動かして、逃げて、逃げて、逃げた。
体力はおれのほうが上のようだ。じわじわと兄さんが離れていく。
やがて追ってくる気配がなくなったので、ふーと安心して、狭い穴の中で毛づくろいをすることにした。おれ、綺麗好きだからな。
しかしこれだけ逃げ回っても、ずっと狭い穴の中ばっかりだった。広いところなんてないぞ? これじゃシシリー入って来れない……。
そんなことをカッコよく考えてると、上の穴から兄さんが素早く現れて、首の後ろを噛まれた。
「あっ……?」
おれ、首の後ろを噛まれると力が抜ける。なぜかあくびが出てしまう。
「捕まえたぞ」
兄さんの声が言った。
「ここは僕のテリトリーだ。穴の構造を熟知している。頭の悪そうなお前には不利なロケーションだったな」
「おれを……どうするんだ?」
聞いてみた。
「牙で八つ裂きにしてやる」
怖い声を兄さんが出す。
「……と、言いたいところだが、フェレット形態ではパワーが弱い。広いところへ連れて行って、鬼形態になり、そこで始末してやる」
兄さんがおれをずりずり引きずって、どこかへ連れて行く。
おれ、力が出ない……。首の後ろを噛まれてるから。
シシリー……。
エンマー……。
飼い主……。
助けてくれないかな。




