犬 vs シシリー・ヒトリ
犬の経営する『ケンさん食堂』を跡形もなく破壊し尽くしたシシリー・ヒトリは、白いスーツを着た犬の胸ぐらを掴むと、舐めきった微笑みを浮かべて詰問した。
「カイヌシさん、どこ?」
「だだだ誰のことですか?」
犬、涙目。
「じゃ、鬼戦士パスバ・レイは知ってるわよね? 見なかった?」
「ああっ……! パスバ・レイさんなら、あっちのほうへ行きました」
シシリーが手を離すと、地面から足の浮いていた犬がドサッと落ちた。
バラバラにされた店を見ながら「また建て直さなくちゃ……」と呟いてる。
ちょっと犬がかわいそうになって、かなりシシリーのことにびくびくしはじめるおれ。
「うーたん。行くわよ」
「は、はい!」
思わず丁寧語になってしまうおれ。
おれ、こう見えてビビりだからな。
びくびくしながらも、ついて歩いてると、シシリーが思い出したように言った。
「あっ、そうだ。うーたんお腹空いてない?」
おれは途端に元気になった。
「食い物、あるのか?」
「厳密にいえば食べ物じゃなくて飲み物だけど、あっちにミルクの湧き出る泉があるのよ」
「み、ミルクだって!?」
なんだ、それ。そんなものがあるなら早く言ってほしかった。
おれ、ミルク好き。ミルクもおれのことが好き。
ミルクの湧き出る泉だなんて……。そんなものがあるならここは地獄じゃなくて極楽じゃないか!
「うん。あっちだよ。行く?」
「行く! 行く!」
おれは爪を地面にたててザン! ザン! という音を鳴らして喜んだ。
「ふふ。ミルク好きなのね? じゃ、行こう」
やっぱりシシリーは優しい。好きだ。




