モッチーナ vs シシリー・ヒトリ
モッチーナの巨大包丁が降ってきた。
シシリーが描写してくれた。
「凄い攻撃。まるで天から大魔神が刀を振り下ろしてきたみたい」
よくわからんけどそんな攻撃だった。でもシシリーは慌ててない。
軽く後ろへぽん!と飛び退くと、空振りしたモッチーナの包丁がズン!と地面に突き刺さった。うまい! これを引き抜くのは大変だぞ。
ずぼっと簡単にそれを引き抜くと、真っ白な顔でモッチーナが赤い唇を歪ませ笑う。
「まぁ! これはすばしっこい小娘さんね! お連れの珍獣様も美味しそう」
「あなたの物凄い怪力は見慣れているわ」
涼しい顔でシシリーが言う。
「だから私はびっくりしない」
「あら、何を仰るの? あたし、あなたとお会いするの初めてよ?」
モッチーナがボケたようなことを言う。でもボケじゃない。この世界のモッチーナは元いた世界のモッチーナじゃないんだからな。
「美少女のお肉は鬼様たち、大好物ですの」
モッチーナがまた巨大出刃包丁を振り上げる。
「かわいいお料理になりなさい!」
シシリーが腰の剣を抜いた。
オーロラを纏った細身の剣が、ひゅっと風を切った。
振り下ろされた巨大出刃包丁と、細身の剣が、合わさる。
だめだ! どう見てもだめだろ、これ!
シシリーの剣が折れて、シシリーが真っ二つにされるっ!
と思ったら真っ二つになったのはモッチーナの巨大出刃包丁のほうだった。
どっかーん!
そんな派手な音を立てて、折れた包丁の先が飛んでいった。
飛んでいった刃がどすーん!と横に倒れて着地して、あとには笑顔の消えたモッチーナが震えて立っていた。
「あなた……、何者なの?」
「私は戦士マシャーン」
「マシャーン!?」
モッチーナが土下座した。
「マシャーン様だとは知らず……無礼を働きました! どうか……どうかっ! お許しを!」
「ふふふ。気にしてないわ。向こうの地獄のあなたに前もって謝ってもらってたもの」
シシリーは微笑むと、モッチーナの顔を上げさせた。
「ところで聞きたいの。この世界に最近、他の地獄から亡者が運び込まれなかった? 金色の鎧か、あるいはパジャマを着た、冴えないオッサンよ」
「さあ……。そのような者が紛れ込んできていれば、間違いなくミンチにしておりますが……」
「じゃ、パスバ・レイは?」
シシリーが質問を変えた。
「知ってるでしょう? 鬼戦士パスバ・レイのことは」
「パスバ・レイ様ならさっきお見かけしましたよ」
「ほんとうに!? どこで見たの?」
「『ケンさん食堂』のほうへ行かれました。お食事をされるなら私どもの『ヘルリアーナの店』のほうへとお誘いしましたが、黙って歩いて行かれました」
「誰かと一緒じゃなかった?」
おれの聞きたいことをシシリーが聞いてくれた。
「金色の鎧か、あるいはパジャマを着た、冴えないオッサンと一緒じゃなかった?」
「ああ」
モッチーナがぽんと手を叩いた。
「金色の鎧を着た食材の人間を肩に乗せてらっしゃいましたわ、そういえば」
おれとシシリーは顔を見合わせた。
「飼い主だ!」




