飼い主を探して
シシリーに抱っこされて、いつの間にかおれは、おどろおどろしいところにいた。
「どこだここは」
「何言ってるの、うーたん」
シシリーがちょっと呆れた声で言った。
「ここが一階層下の地獄よ」
「描写たのむ」
くすっと笑うと、シシリーが描写してくれた。
「空は紫色で地面は見渡す限り血のような赤。来たところの地獄を『殺風景』と言うなら、ここはまさしく『凶々(まがまが)しい風景』ね」
「よくわからんけどありがとう」
「どういたしまして」
「飼い主はどこにいるんだ?」
「それを今から探しましょう」
シシリーはおれを抱っこしたまま歩き出した。
どこまで行っても同じ風景だ。
たまに地面にズガイコツってのが転がってる。目のところに穴が空いてるからそこに入って遊びたくなった。でも、おれはまじめに飼い主を探す。
「ルン、ルル、ルン♪」
シシリーが楽しそうだ。
「ルルルッ、ル・ルー♪」
「楽しいのか、シシリー?」
聞いてみた。
「うん。だって、うーたんと一緒だもん」
「なんだ。ズガイコツの穴にウズウズしてるんじゃないのか」
「それはどっちかっていうとこわいから、見ないようにしてるよ」
「おれのこと好きなのか?」
「うん、大好き。一生一緒にいたいな」
おれは抱っこされながら、シシリーの顔をまじまじと見た。
ロリな顔つき、碧い瞳、サラサラの長い銀髪。
何度見ても、飼い主が言ってた『理想の美少女』ってのとおんなじだ。
でも歳が離れすぎてるよな、そう思ったから聞いた。
「シシリーって、なんさい?」
「148歳よ」
……なら、いいのか?
もっと離れすぎになったけど、飼い主のほうが年下なら、問題ないかも?
「なあ、シシリー。もし飼い主を見つけて、連れ戻せたら……」
単刀直入におれは言った。
「飼い主と結婚してやってくれ」
「断る」
即答された。
「なんで!?」
「わたし、一人が好きだもん」
「え……。じゃあ、おれ、今、邪魔?」
「うーたんはいいの」
そう言っておれの柔らかいお尻を撫でた。
「動物は大好きだから。でも、もちろん……うーたんが大好きなカイヌシさんと引き離すつもりはないけどね」
どうやらシシリーは人間嫌いの動物好きのようだ。
飼い主と付き合ってみればいいのに。あいつも同類なのに。
シシリーが嫁になってくれれば飼い主の笑顔が毎日見れそうなのにな。
っていうかその飼い主を探すのがまず先だったっけ。
おれはシシリーに聞いた。
「飼い主のいそうなとこ、わかるか?」
シシリーは答えた。
「うん。お尻の触り心地が大好き。もふもふしてて。肉球もぷにぷにで気持ちいいな」
「おれの触り心地の話じゃないぞ。飼い主を探すんだろ」
「ごめんなさい。今、うーたんのことしか考えられない」
目つきが狂ってる。まともじゃない。
一気に不安になって、しっぽをしょげ返らせていると、おれは見た。
抱っこしてくれてるシシリーの肩から、見た。
シシリーは気づいてない。背後から巨大な出刃包丁を振り上げて、モッチーナが忍び寄ってることに。
「あ。モッチーナだ」
おれが言うと、ようやくシシリーが後ろを振り向いた。
「え?」
そうか。この世界のモッチーナはおれ達のことを知らないとか言ってたな。
赤い唇をマガマガしく歪ませて、モッチーナがすごいのを振り下ろしてきた。
「ホーホホホホホ! 食材お二人様、見ーっけ!! 鬼さまに食べられるお料理となりなさい!」




