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第八十二話 突入、地下要塞(2)

 輝星はこの地下要塞をダンジョンに例えたが、その見方は決して間違ったものではない。こうした地下基地は、分岐した通路で突入した敵部隊を遅滞しつつ、トラップや待ち伏せで殲滅することを第一に設計されているのだ。やっていることは、冒険者を迎え撃つべく作られた迷宮と大して違いはない。


「よーしよし、やっぱり来たな」


 トラップをブラスターピストルで吹っ飛ばしつつ地下通路を歩いていた輝星だったが、曲がり角の手前で突然立ち止まりそんなことを言った。後ろに続いていた多脚戦車が急停車し、前足が"カリバーン・リヴァイブ"の背中にコツンとあたった。


「危ないでしょうが!! 止まるときは一言くださいよ!!」


 多脚戦車の操縦手から怒声が飛んだ。敵地で交通事故など起こせばシャレにならないからだ。ゼニスとはいえ重い戦車と衝突などすればタダではすまない。


「ご、ごめん」


「後でツーショット写真撮らせてくれたら許します!」


「それが目的か!」


「だいたい、いつでも止まれるスピードだったじゃない!」


「この当たり屋!」


 ほかの多脚戦車の搭乗員やストライカーのパイロットから次々に罵声が飛んだ。しかし元凶の操縦手は「なんのことやら」としらばっくれる。


「やめなさい、戦闘中ですよ」


 うんざりしたような口調でシュレーアが苦言を呈した。アオ皇子の一件以来、こうして輝星をアイドルか何かのように扱う者が増えてきた。シュレーアも実際に手を出すような真似をしなければ文句を言うつもりはないが、戦闘中にこれでは緊張感に欠けることこの上ない。


「写真とかはさておきだ。殿下、ちょっと剣貸してくれない?」


「えっ、突然ですね!? ま、まあ構いませんが……」


 いったい何に使うつもりなのか疑問に思いつつも、シュレーアは言われた通り肩部のシールドにマウントされたツヴァイハンダーを輝星に投げ渡す。


「ありがと! これだよこれ」


 "カリバーン・リヴァイブ"の身の丈とそう変わらない大きさを誇るツヴァイハンダーを片手に握り、輝星はご満悦だ。分厚い刃に白色灯の光が反射し、ギラリと妖しく光る。


「じゃ、ちょっと行ってくるから。ここでじっとしておいてね。良いというまで、絶対に動かないように」


「な、何をするつもりなんです!? ちょっと!」


「じゃ!」


 シュレーアの質問をに答えることなく、輝星は曲がり角の向こうへと飛び出していった。それと同時に、すさまじい砲声と爆発音、そして金属同士が衝突する耳障りな音が通路に響き渡る。複数の砲撃を受けたのだろう、曲がり角の壁面が爆発したように吹き飛んでいた。

 だが、そんな喧騒も一分と続かない。あまりのことにあっけに取られていたシュレーアたちだったが、輝星の「終わったよ」という言葉で我に返る。


「お、おお、うわあ……」


 おそるおそる輝星の方へと向かった多脚戦車の砲手が、何とも言えない言葉を発する。それもそのはず、彼女の視線の先にはスクラップ置き場もかくやという惨状が広がっていた。

 まず目につくのは、ツヴァイハンダーで車体を串刺しにされた多脚戦車だ。他にも対艦ガンランチャーでエンジンを吹き飛ばされた多脚戦車やら、パイルバンカーで腹を貫かれたストライカーだのが無造作に床に転がっている。


「ひい、ふう、みい……ひええ、あの短時間でこんなに」


 ひょっこりと顔を出した工兵が悲鳴じみた声を上げる。残骸の数は、こちらの部隊よりやや少ないくらいだ。皇国部隊には戦力としては頼りない工作用ストライカーも混ざっているため、正面からぶつかれば大きな被害が出ていただろう。


「狭いからね、通路が……回避先がないんだから、墜とすのは簡単ってワケよ」

 

「いや、それはお前も同じだろうが」


 何でもないようなことのように言う輝星に、サキが半目になって言い返した。


「そこはほら、向こうも先頭は戦車だったから。戦車砲って、艦砲と違って連射が効かないんだよね。というワケで避けやすいんだよな、これが」


「避けられるのか」


「そうそう。で、接近に成功したらあとはドンといってガッと当たってバーンよ。狭い場所ほど技量差が出るからね」


「あ、そう」


 輝星が無茶苦茶やらかすのはいつものことだ。毎度それに付き合うサキは、もう慣れてしまっていた。しかし随伴の一般兵たちはそうはいかない。


「噂には聞いてたけどここまで?」


「これは皇国の守護神ですわ」


「ツーショットは家宝モノね……」


 ざわざわと騒がしくなる通信に、シュレーアが目を細める。無傷で敵の待ち伏せを潰せたのは素晴らしい成果だが、それはそれとして彼女としてはもう少し自分も活躍したいところだ。


「ありがとねー」


 彼女のそんな思考は、戦車から引っこ抜いたツヴァイハンダーを差し出してくる輝星の声で止められた。自分も兵たちにどうこう言えた義理ではないなと苦笑しつつ、シュレーアは頷く。


「いえいえ。でも、次は私も前へ出ますよ。少しくらい、格好いいところを見せたいですからね」


「はいはい、期待してるよ」


 明け透けな言い草に、思わず輝星は苦笑した。



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