第十六話 二対一、しかし
"カリバーン・リヴァイブ"に向かって、緑色の太いビームが飛ぶ。輝星はフォトンセイバーを抜いたものの、そのまま弾くことなくひらりと避けた。
「ちょっとした艦砲射撃並みだな、正面から受けるのはよろしくないと見た」
そもそも今使っている訓練プログラムが、セイバーでビームを弾くような非常識な挙動に対応しているのかわからない。得意技は封印したほうがよさそうだと一人笑う輝星。
「射撃で足止めします、ヒット&アウェイで仕留めなさい」
「了解!」
戦闘前にはあれほどグダグダと言っていたにも関わらず、サキはシュレーアに抗弁することなく素直に従った。"カリバーン・リヴァイブ"からつかず離れず、全力で加速すればすぐに肉薄できる距離を維持する"ダインスレイフ"。
「牽制とはいえ……!」
肩のブラスターカノンを再び発砲するシュレーア。輝星は軽く躱すが、その移動先にヘビーマシンガンを撃ち込む。曳光弾の束が稲妻のように宇宙を走った。
「……ッ! 流石!」
だが、輝星はこれも見事に避け切った。弾がどこに飛んでくるのか知っていたような、危なげのない最小限の回避運動。そこに、サキが素晴らしい加速で突っ込む。
「ちぇすちとーッ!」
「喰らうかよッ!」
電磁抜刀、紫電が走った。普通ならばとても対応できない神速の抜刀術だが、輝星はこれをフォトンセイバーで斜めから受ける。刀身はスルリと流され、自機の強烈なパワーに振り回されるようにして"ダインスレイフ"の機体が流れた。
「させま……うっ!?」
追撃を防ぐべくブラスターキャノンを向けるシュレーアだったが、輝星はそれに合わせるようにしてブラスターライフルを三発撃った。なんとか回避するシュレーアだが、援護射撃をするタイミングは完全に逃してしまう。
「このっ!」
"ダインスレイフ"に迫る輝星だったが、サキは機体の左腕を"カリバーン・リヴァイブ"へと向けた。その腕に装着された装置から、クナイ型のナイフが射出される。
「ほう!」
機体を反らして避ける輝星だったが、その時には既にシュレーアが大勢を立て直していた。ヘビーマシンガンの射撃が"カリバーン・リヴァイブ"へと向かう。
「射撃は苦手だが……できないってわけじゃないんだぜ!」
サキが腰から小ぶりなショートマシンガンを抜き、片手のまま輝星に向かって撃つ。
「十字砲火! いいな、いいじゃないか!」
すぐさまフットペダルを踏み、輝星はスラスターを全開にした。"グラディウス改"とは比べ物にならない加速で機体はキルゾーンから逃れる。
「ぐ……高性能も考え物だな」
スラスターを吹かしたのは一瞬のみ。だが、強烈な加速Gに輝星は苦しそうな表情を見せた。肉体的に強靭なヴルド人のための機体を十全に操るのは、貧弱な輝星にはかなり辛いものがある。
「だが……ッ!」
いまだ続く両機の射撃をひらりひらりと最小限の加速と動きで回避しつつ、輝星はブラスターライフルをサキに向けた。即座に発砲。
「へっ! 狙いが正確でも豆鉄砲じゃあなあ!」
だが、これはマント装甲に防がれる。防御にも移動にも使え、可動するため攻撃動作の邪魔にもならない。なかなか厄介な装備だった。
だが、輝星の狙いは撃墜ではない。防御したため、ショートマシンガンからの射撃が止まった。これが目的だ。
「やはりそう来ますか」
機体を"ミストルティン"に向けて加速する。サキ機は距離を取れば攻撃手段は少ない。火力の高いこちらを先に墜とすべきだと考えたのだ。
「くっ」
輝星からの射撃をなんとか回避するシュレーア。ロックオン警告音のならない攻撃は、避けにくい事この上ない。なんとか緑の光条を回避し、両足のミサイルポッドを発射した。六発ずつ左右合わせて十二発の中型ミサイルが"カリバーン・リヴァイブ"に向けて飛ぶ。
「その程度の数ならなァ!」
輝星のブラスターライフルと頭部連装機銃が吠えた。ミサイルが次々と撃ち落とされる。残るミサイルはわずか四、輝星はこれを軽々と避けた。
「弾幕が薄かった!? しかし!」
まだ射撃武器は残っている。ヘビーマシンガンを構えるシュレーアだったが、その機体の腹部に緑のビームが突き刺さる。一発では撃墜判定は出なかったが、無慈悲な二発目が同じ場所に着弾した。
「く、完敗……」
モニターに表示される撃墜の文字にうなだれるシュレーア。
「まだだ、まだあたしが居る!」
"ミストルティン"を撃墜した輝星の背中にサキが迫った。紫電がとともに放たれる電磁抜刀。
「知ってるよ!」
が、輝星は機体を宙返りさせてこれを回避した。空を切る刀身のギリギリを避けると同時にフットペダルを踏み込んだ。弾丸のような加速で"カリバーン・リヴァイブ"は"ダインスレイフ"の胸元まで肉薄。パイルがその腹に刺さる。
「……クソ! 二人いても同じじゃねえか!」
停止してしまう自機に、サキは悪態をつくことしかできなかった。





