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7、父と子 2




 居間を奥から出て台所の土間へ下りる。父さんは草履をつっかけた。俺は五、六歩のことだからはだしのまま歩く。



 父さんはそこにいたじっちゃんに剣を渡した。




 台所の奥の風呂場へ着くと、素っ裸になって俺は先に風呂場へ飛び込んだ。


 つかる所は熱そうな湯がいっぱいで、埋めなきゃつかれそうにない。


 まだ外は明るくて、風呂場は窓からの光と燭台の光で薄明るい。




「父さん、背中流してもイイ?」


「ああ。頼む」


 父さんは俺に背中を向けて腰かけた。



 父さんと風呂なんて久しぶりだった。会えるのだって久しぶりなんだから当たり前か。



 背の高い父さんの背中は大きくて好きだ。俺も父さんみたいに大きくなりたい。


 背中に黒いホクロとかトウガラシのツブみたいな赤い小さいのがあちこちにあるのが薄明るい中でも見える。じっちゃんのほうがもっとたくさんあったような気がする。大人は何でこんなのができるのかな。


 それに、斬られたのか傷あとも少しある。



 石けんをつけた手ぬぐいで、そのツブも傷あとも一緒に力いっぱいゴシゴシやる。


 そんなの取れないんだろうけど、洗い流して消してあげたいような気がした。




「ずいぶんと力が強くなったな」


「そうかな。あのさ、父さん。聞きたかったんだけど、何で騎士になったの?」


「父さんは黒騎士であることを誇りに思っている。時の国主様にお仕えするのが男子たる者の務めだからな」


「うん。でもね、俺は武器なんて持つのもイヤだし、人を傷つけたくないよ」


「何を言うのだ、宝の持ちぐされだな。お前には素質がある。その資質を研け。国内外に並ぶ者のないほどにな」



 素質とか資質とか言われても俺にはよく分からない。


 そんなの、その気にさせるためにおだてて言ってるんじゃないのか…褒めたって何も出ないのに。




 話が途切れた。





 水を混ぜてほど良くした湯船の湯で一回二回、背中を流す。


 何を話せばイイのかな。



 聞きたかったこと、聞いてもイイんだろうか。


「ねぇ…母さんはどんな人だったの?俺、覚えてないんだ。キレイだった?優しかった?」


 前にも何となく聞いてみたことがあったけど、父さんはあまり答えてくれなかった。母さんのことが嫌いだったのだろうか。



 そのまま何も言わずに父さんは頭と身体を洗い、湯につかった。



 俺も仕方なく黙って洗って一緒に湯船に入る。


 湯船の口まできていた湯があふれ出た。


 父さんの肩の骨の所にできたくぼみに湯がたまっている。



 そんなに広い湯船じゃないけど、何だか父さんに触れるのがためらわれて、俺は精一杯、隅に寄ってつかっている。



 何気なく父さんの顔を盗み見る。鼻筋が通っていて、眉毛と目が厳しい。めったに見せない歯が白くてキレイに並んでいるのも俺は知っている。なかなかの男前だと自分の父さんながら俺は自慢気に思う。



 でも、俺には何も言ってくれないから、何を思っているのか分からない。何を聞いても、玉ねぎの皮みたいに表面のとこだけしか語ってくれない。


 母さんのことも、父さん自身のことも。




「熱いから、もう上がるよ」


 俺は湯から出た。


「湯冷めしないようにな」


「うん」




 ホントはもっと一緒にいたいのに、どうして逃げ出してしまったんだろう。






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