13、兄弟
アルは走ったりしゃがんだりして、落ちてる物を拾いながら歩いている。きっと小石や棒きれのゴミを上着のポケットに溜めてるんだな。こいつぁ、目についた物は何でも拾うからな。
「君の父上はご家庭ではどんな人なんだね」
レイノルドがいきなり聞いてきた。
それは返事に困るなぁ。ヘタすりゃ王子らのほうが俺より父さんを知ってそうだ。
「あんまし家にいないからなぁ。う~ん…父さんはあまりしゃべらないけど、しつけとかは厳しいかな。どこへ出しても恥ずかしくないようにとか何とか言ってさ、メシ中に手をぶたれたりするし、身だしなみにはうるさいし、ともかくだらしないケジメがないのは大嫌いなんだよ。俺は会うとぶたれてるなぁ」
「私が知るディベテットさんと大差はなさそうだな」
「え? 王子のあんたもウチの父さんにぶたれてんのか」
「大差はないと言っただろう? きっと、ご自分の子も人の子も別け隔てなさらないんだろう」
「イイのかな、王子なんか叩いて。でもさ、ウチの父さんは黒騎士なのに王子みたいなエラい人に教えてるなんて、そういうのはダメなんじゃないの、貴族じゃないとさ」
「私がお選びしたわけではないから確かなことは言えないが、国内屈指と謳われる腕はもとより、私から見た限りではお人柄かな。とても誠実なおかただからだろう」
「ふ~ん。…で、セイジツってどんなこと?」
「平たく言えば真面目だということだな」
「ふ~ん。あ、それとあんた、歳いくつだ?」
「二十歳だが、それが何か」
「いや、俺にさ、あんたと同じくらいの兄ちゃんがいるんだ、っつか、いたんだ」
「兄上は何をされているんだね? 亡くなられたのか」
「いや、五年くらい前に帝国へ行っちゃって、そのあとはよく知らないけど、たぶん生きてると思うよ」
「そうかね」
「あんたを見たら兄ちゃんを思い出したんだよ。ねえ、さっきイボが何だとか言ってたけど、あんたとジェラルドって仲イイの?」
「ご想像に任せるよ」
レイノルドはニタリと笑って大股で歩みを速めた。
「ごまかしてズルいな」
俺はその横に並ぶようについてゆく。
「ねえ、あんたは国王様にはなれないの? ジェラルドよりもイイと俺は思うんだけどさ」
「そう言ってくれるとありがたいが、よほどのことがない限り側室の子はお世継ぎではないという決まりだからな。それに、私は国を治めたいとは思わないよ。こう見えても私は結構、気ままな性質でな」
レイノルドは目を細めて白い歯を見せて笑った。あの変な姉ちゃんらに追いかけられるのが解るような気がする。
「あれ、クェトルにエアリアル。それに兄上」
のんびり声がしたかと思うと、そこにはジェンスがいた。
ここから少し離れた木陰の長イスでさっきの本を読んでやがる。俺たちを見つけて手を大きく振っている。
「どうしたもこうしたも! 説明すんのも面倒だよ。お前が俺たちを放ってゆくからだ!」
俺は長イスの所まで駆け寄った。こいつめ、文句を言ってやるぞ。
「何を怒っているんだい? 僕、何か悪いことをしたかなぁ?」
ジェンスはのんびりとした声で言って首をかしげた。
「だから! ……もうイイ」
つかめない霧みたいなヤツに怒る気もなくした。




