11、ドロボー!
さて、どこへ行きやがったんだ。
廊下が十字路になっててどっちへ行ったのか解らなくなっちまった。あまり俺たちみたいなのが勝手にウロついてると城からつまみ出されそうだ。
「誰か捕まえてください!」
十字路の真ん中でキョロキョロやってると、右の廊下から大声が聞こえてきた。
かと思うと、男がその方向からすごい速さで走ってきて、そのまままっすぐに走り抜けて行った。
ちょっとしてから貴族っぽい服を着た姉ちゃんらが五人、息を切らせてヨロヨロ走ってきた。いかにも足が遅そうだ。
「お待ちになって~!」
何て言うのか、黄色い声ってのか、とてもうるさい。
「ドロボーか?」
俺は姉ちゃんらに聞いた。
「そうよ。ドロボーだわ!捕まえてちょうだい」
やっぱドロボーか!
でも足が速そうだったし、大人だったみたいだから俺なんかに捕まえられるのか?? 逆に捕まりかねないぞ…。
ともかくヘロヘロの姉ちゃんらをその場に置いて、ついでにアルも置き去りにして俺は男の走っていったほうへ走り出した。
顔はよく見えなかったけど、たしか真っ黒の短髪で、青い上着は袖口にカタバミの模様がたくさんあったのを着ていたはずだ。左腰には赤い宝石のついた細剣を佩いていた。
それと、おっさんではなくてあんちゃんだったな。
え~と、廊下を抜けてと…どこへ行きやがったんだ。
あ!いた!
「あ!ドロボーだ!」
廊下の角を曲がった所で男が背中を壁につけて隠れてた。
「し~ッ」
男は俺の口をふさいで廊下の陰へ引き込んだ。
クソッ!ドロボーに捕まった!暴れてみるけど力でかなうわきゃない。どうなるんだ、どうやったら逃げられるんだ…!
「こら、おとなしくしろ!私はドロボーではない」
そりゃそうだ、ドロボーが自分をドロボーって言うわけないだろうが!
「モガモガモゴ!」
俺の口を押さえる指を必死で叫びながら噛んでやる。
「おい、やめろ!痛いな!私は王子だ。ドロボーとは人聞きの悪い」
抵抗をやめてみた。すると男は俺を捕まえる手をゆるめた。
「王子…?」
そいつを見上げる。細くて背の高い、すげぇ男前のあんちゃんだ。たしかにドロボーっていうよりは王子っぽい。
でもさっきの人らはドロボーって言ってたけど。
「王子って、ジェラルドも王子だろ。ジェラルドの兄さんか何かか?」
「ジェラルドを知っているのか?彼とは異母兄弟だよ」
「え?イボ兄弟?デキモノかよ」
「そのイボではない。分かるか、言わばお母さんの違う兄弟なんだ。あちらが正嫡、私のほうが妾腹だがね」
「あんた、ドロボーじゃないの?」
「とんでもない。何も盗ってはいない。彼女たちは私の追っかけだよ。私の姿を見ると追いかけてくるんだ。かなわない」
と、言うか言わないかの時に、あの黄色い声が聞こえてきた。
「わたくしの心をお盗みになったレイノルドさまぁ~! お待ちになって~ぇ」
何だ、盗んだのは心かよ。つまんねぇな。




