02 護身術
ショーゴ・スズキという人物の名前を聞いた時、カワードの頭の中には、自分と同じような転生者なのではないか、という疑いが浮上した。
しかし、身体的特徴が前世における日本人のものと一致しており、それはヌール帝国に住む民族のどれとも合致しない。
つまり、少なくともヌール帝国内で生まれ育ったわけではないということになる。
これに加え、名前に地球の、日本人が使っていたものと同様のものを使っている点も鑑みて、恐らくはカワードのような転生者ではなく、何らかの理由で直接この世界に訪れた日本人であろう、と推測した。
と、ここまで考えた後、カワードはこれに意味が無かったと思い至る。相手が日本人であろうと無かろうと、現状で判明した情報はさほど多くなく、その為カワードが、キャサリンと共に対策可能な部分は少ない。
よって、これ以上ショーゴ・スズキなる人物について考えを巡らせることは止め、現実の脅威、つまり共済組合の構成員によるキャサリンへの襲撃の対策を進めることにした。
最初にカワードが行ったのは――装備の見直しであった。
現状、キャサリンの装備は辺獄での生活中に制作したものを中心としており、その品質は、高いものもあれば、市販の武器に劣るものもある。
ローブについては、人類にとって伝説の魔物でもある地竜リンドブルムを素材に使っている為、十分な品質であると言えるが、武器や、ローブの下に着込む装備については、さほど良いものを身に付けているとは言えなかった。
そこで新たに、現状の資金状況で買い揃えられる範疇で、優れた防具、武具を買い揃えた。
その過程で、カワードはキャサリンに棒術向けの上等な棍を持たせたのだが、これにキャサリンが不満を漏らした。
「……もうちょっと、魔術の威力を高めるのに適した装備がいいんだけど」
「不要だ、標的の無力化、殺傷に必要最低限の威力さえ出せるなら問題は無い。それよりも、近接戦闘を踏まえた装備を整えたほうが、緊急時のリスクを抑えることに繋がる為、有効だ」
というように、あっさり否定される結果に終わったのだが。
そうして――装備を整えたキャサリンを引き連れ、カワードはギルドに併設された訓練場、決闘でも利用した広場に足を運んだ。
ここで、キャサリンに護身の為の技を教え込むためである。
「既に最低限、棒術についでは教えているはずだが、まずおさらいから始めよう。キャサリン、棒の構え方は覚えているな?」
「もちろん、利き手で握った部分は肩に抱えるような位置に置いて、もう片方の手は棒の上に添える」
言って、キャサリンはカワードに教わった通りの構えを取った。
「その通りだ、この構え方なら、例えば正中線を狙われないよう、身体を横に向けても同じ形で構えることも可能になる為、防御もしやすい」
「こんな感じでしょ?」
キャサリンは身体を動かし、カワードに向けて左肩だけを見せるような姿勢を取った。胸を相手に見せない姿勢でありながら、棒を構える姿勢は崩れず、無理なく維持されている。
「そうだ、それでいい。型に固執し、無理に構える必要は無いが、こうして型を覚え、反復し、攻撃への連携を覚えることで、咄嗟の事態にも対応可能となる。そのために、これから毎日、俺を相手に打ち込みをしてもらう」
「ま、毎日? カワードを相手に?」
「安心しろ、俺からは攻撃しない」
この言葉に、キャサリンは全く安心することが出来なかった。俺からは、と言った以上、実際にカワードが自分から攻撃するようなことは無いだろうが、しかし反撃の形になるなら攻撃される可能性がある、という意味にも取れる為である。
「お、お手柔らかにお願いします……」
「ああ、手加減はさせてもらう」
むしろ手加減が無ければ、キャサリンがカワードを相手にした場合、一秒と経たずに膝を付くことになるだろう。




