03 ステータス
「この機械の左右に出てる棒を、それぞれの手で握って貰える? そうしたら、後はこっちで測定させてもらおうから」
「分かった」
カワードはレミリアの言う通り、機材の左右に突出した金属製の棒状部分を握り、測定結果を待つ。
裏側でレミリアは機械のインターフェース部分を弄っているのか、何やら操作を続けており、やがて何らかの測定結果が出たのか、その数値を用意された紙に書き出していく。
そうして数分ほど掛けて数値の測定が終了したのか、レミリアは操作をやめ、用紙に書かれた数値を確認し、ため息を吐く。
「思ってたより酷いじゃないの。こんなの、ギリギリDランクに届く程度じゃない」
言って、レミリアは測定結果を書いた用紙をカワードへと見せつけるように掲げた。
・生命力 125
・運動性 108
・魔法力 96
特殊技能一覧:特になし
その内容を見て、カワードは首を傾げる。
「この数字だけを見せられても、俺には意味が分からないんだ、説明をしてくれないか?」
「ちっ、分かったわよ」
レミリアは嫌々、といった様子でステータスの説明を開始する。
「まず生命力だけど、これは魔力によって生命維持能力がどの程度高められているかを測定した数値よ。傷に対する再生力だったり、そもそも身体が丈夫だったり、あるいは体力が豊富で持久力に優れてたり、そういう人は数値が高くなる」
なるほど、と頷きながら話を聞くカワードに構わず、レミリアは説明を続ける。
「運動性は言葉通り、運動能力や反射神経がどの程度かを数値化したもので、魔法力は魔術なんかを使う上で重要な、魔力に対する操作能力、感応力を数値化したもの。どれも一人前の冒険者――Dランクとして認められるなら100を超えてることが理想とされるけど、アンタの場合はどう見ても魔術師じゃないから魔法力が100未満でも許容範囲内よ」
「なるほど、となれば俺は一人前の冒険者として認めてもらえるのか?」
「バカじゃないの? 普通のDランクならね、どっかのステータスがもっと高くて、得意な部分なら余裕で200とか、そんぐらいあるもんなのよ。そうでなければ、この測定器で測定可能な特殊技能――スキルとか、ギフトとか呼ばれるものを持ってるのが普通だけど、それも無い。規定上はDランク冒険者になるってだけで、アンタのステータスはまともなDランク冒険者には遠く及ばない、最低レベルのものなわけ」
言いながら、レミリアは他のギルド職員に目配せや身振りで指示を出し、ステータス測定器を片付けさせる。測定器を握りっぱなしであったカワードも、それに合わせて手を離した。
「そして、ここはエゼルヘイム。辺獄と接する、この国でも有数の危険地帯なわけ。アンタみたいな雑魚じゃあ、辺獄に入ればすぐに死ぬだけよ」
「なるほど、ギルドの評価については理解できた。登録手続きを続けてくれ」
「はぁ!? こんなステータスで登録なんかしてやるわけないでしょ! 雑魚は雑魚らしく、都市部で他の仕事でも探せばいいでしょ!?」
「いや、俺は冒険者としてやっていくつもりだ。連れともそういう方向で話が纏まっている。規定上、一人前として扱えるなら登録できないということは無いと思うが、違うのか?」
「話、聞いてた? あんたみたいな雑魚にやれる仕事なんかほとんど無いって言ってんのよ」
「問題ない、登録をしてもらえるか?」
「アンタ頭おかしいんじゃないの!?」
話の通じない状況に、レミリアの苛立ちは更に高まっていき、その口論が周囲の冒険者の注目を集め、次第にカワードの周囲には人集りが出来てゆく。
そうしてカワードとレミリアの、噛み合わない会話が幾度か続いたところで、会話に乱入する者が姿を見せる。
「ちょっと、待ちなさいよ! カワードがそんな低いステータスなわけ無いじゃない!」
人の壁をかき分け、キャサリンが乱入する。
「その測定器が壊れてるんじゃないの? カワードはね、私よりもずっと強いし、それに辺獄の魔物だってこれまでに何匹も倒してるんだから!」
「はいはい、運良くゴブリンか、弱ったアルミラージでも倒せただけでしょ。っていうか、アンタ誰よ。見たこと無い顔だけど、冒険者?」
「そうよ。Bランク冒険者で、魔術師のキャサリン。アタシの見立てなら、カワードなら少なくともAランク相当の実力があるわ」
「はぁ……アンタさぁ、吐くならもっとマシな嘘吐きなさいよ。こんな筋肉ダルマが、辺獄で何日も活動できるわけ無いでしょ。それとも、アンタが弱らせた魔物を彼氏にトドメだけやらせて冒険者ランクを無理やり上げるとか、そういう魂胆?」
「はぁ!? ふざけんじゃないわよ! カワードはね、そんな事しなくたって魔物ぐらいボコボコに出来ちゃうんだから! アタシを助けてくれた時もそうだし、ここに来るまでの間もそうよ!」
こうして、カワードとレミリアの口論は、いつの間にやらキャサリンとレミリアの口論へとすり替わる。この状況を面白がった冒険者は、良いぞ良いぞと囃し立て、次第にギルド内での騒ぎが大きくなっていく。
が、ここに来て、この騒ぎを良しと思わぬ者により、仲裁が入る。
「――待ちな嬢ちゃん、それとレミリア。この話、俺が預かる」
そう言って――姿を現した男に、全員の注目が向かう。
「ぎ、ギルドマスター。そんな、お手を煩わせるほどのことじゃあ……」
「だったら騒ぐな。もうちょっと静かに出来ねぇのか、おめぇはよ」
ギルドマスターと呼ばれた男に睨まれ、レミリアは口を噤んだ。また、同様にこれまで周囲で囃し立てていた冒険者達も、決まりが悪そうにして黙り込んだ。
「さて……そこの兄ちゃんの、冒険者登録だったな?」
「ああ、カワードという。登録してもらえるか?」
「当然だ、歓迎するぜ、カワード」
ギルドマスターは、握手を求めてその手を差し出し、カワードもまた応えて手を差し出し、握手を交わした。




