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02 冒険者ギルド




 ――冒険者とは、未踏破地域の探索から治安維持目的の魔物狩り、危険地域での資源採集、はては護衛や警備、迷子探しまでする実質なんでも屋である。

 但し、エゼルヘイムのような実力のある冒険者が求められる土地では、細々とした依頼、それこそ迷子探し等は他のギルドや、個人経営のなんでも屋に任される。


 エゼルヘイムの場合、所属する冒険者はプロ中のプロばかりであり、兵揃いとなっており、一方で実力主義的な面もあるため、一般的な都市における冒険者ギルドと比べれば治安が若干悪い。

 また、辺獄という極限環境下でも長時間、長期間の活動が求められるため、最高のパフォーマンスを維持するために十分な食事、多量のエネルギー摂取が必要な筋肉ダルマとも言うべき肉体の持ち主は少なく、むしろ筋肉は最低限必要なだけ鍛え上げているだけの細身な男が多い。


 これが、傭兵などの場合は逆となり、仕事は護衛や警備が主な依頼となり、休息や補給は十分に確保可能であり、また、より優れた瞬間的な制圧力の高さを求められるため筋肉質な大男が多くなる。

 そして、冒険者が危険な城壁外部、つまり辺獄近辺や辺獄浅層での仕事を主に担う一方で、傭兵は安全な都市部での仕事を担っている為、冒険者から見た傭兵は甘ったれ、チンケな仕事をする小物扱いをされ、ある種差別的な目で見られ、嫌われる傾向にある。狩人や猟師等よりも下と見られ、要するに雑魚扱いをされるのだ。


 そうした理由から――冒険者ギルドに訪れた、身長二メートルの筋肉質な褐色肌の大男、カワードに向けられた視線は、決して好意的なものではなかった。

 誰もが懐疑的、あるいは嫌悪感を隠さぬ視線を向け、カワードという男を見定めようとする。そうした視線を受けていることをカワードも理解はしていたが、しかし直接絡まれるようなことも無い為、無視して進む。


「じゃあカワード、私は死亡届の取り下げをするから向こうで、貴方は冒険者登録をするからあっち。終わったら合流しましょう?」

「ああ、分かった」


 こうしてカワードとキャサリンは、別々の受付窓口に向かい、それぞれの目的を果たす為に行動を開始した。

 カワードはまず、キャサリンが示した受付窓口にて、受付嬢に向かって目的を告げる。


「すまないが、冒険者として登録をしたいんだが、手続きをしてもらえるか?」


 カワードが要求を告げた途端、受付に座っていた受付嬢が――ネームプレートらしきものには『レミリア』という名前が刻まれていた彼女が、露骨に不快げな表情を浮かべた。


「はぁ、冒険者登録ですか。アンタ、冒険者っていうのがどういう仕事をするか分かってる?」

「ああ、一応、連れに話を聞いて最低限は理解しているつもりだが」

「バーカ。まるで分かってないよアンタ。どうせ、魔物相手に闘うぐらい俺なら楽勝、とか思い上がってるんでしょ」

「……確かに、よくいる魔物を倒す程度なら造作も無いが」

「そういう勘違いしたバカ、たまーに居るんだけどね。いちおう忠告させてもらうけど、そういう自惚れたやつは大抵すぐに死ぬし、そうでなくてもやっていけないからってすぐに冒険者をやめちゃうの。わかる?」


 受付嬢レミリアの話は一方的に続けられ、カワードがなにか言葉を返す隙も無かった。


「そんだけ筋肉があれば、そりゃゴブリンなんか武器持って殴れば楽勝でしょうよ。でもね、それは万全の状態で戦えばっていう条件下の話。エゼルヘイムの冒険者はねぇ、辺獄っていう過酷な環境下で、何日も森の中で活動しながら、スタミナも使い切って、疲れて眠くて、身体を動かすのも億劫なぐらいエネルギーが足りてない、そんな状況で戦わなきゃいけないことだって少なくないのよ」


 レミリアの発言に、カワードも胸中で同意した。実際、辺獄という環境下において、完全に安全な場所など存在せず、カワードが拠点として利用していた場所も、時折頭の悪い魔物が侵入し、襲撃してくることがあり、完全に気の休まるような状況など一度として無かった。


「そういう時に必要なのは筋肉じゃなくて技、テクニック。むしろ必要以上の筋肥大は、持久力の低下や極限状態でのパフォーマンスの悪化を招いて致命的なミスに繋がりかねないの」


 鋭い視線と、拒絶するような声色でレミリアは告げ、これをカワードは聞いて、感心したように頷いた。


「よく勉強しているんだな、感心した」

「はぁ?」

「君のような人が仕事をしているからこそ、きっと命を落とさずに済んだ人間が何人も居るんだろう。俺は、君のように仕事を全うする人間を尊敬するよ」

「……何言ってんの、アンタ、褒めたからって、別に扱いを変えてやるつもりは無いんだけど?」

「当然だ、それこそ、この仕事を全うする上で必要な心構えだろう」


 カワードの言葉に、レミリアは調子を狂わされ、顔を顰める。奇妙で理解し難い人間、という評価を下し、それ即ち不快な事である為、不快な人間としてカワードを認定する。

 しかし、カワードが引き下がらない以上、ギルドの受付としては登録の為の事務手続きを続けなければならない。


「ちっ……そんじゃあ、ステータス測定をするから、ちょっと待ってなさい――誰か、測定器持ってきて!」


 レミリアは嫌々ながらも、冒険者としての登録手続き――ステータス測定をするための準備を開始する。

 これに対し、カワードは聞いたこともない言葉、ステータス測定というものに対して興味が湧いた為、質問を口にする。


「すまない、ステータス測定とは何だ?」

「冒険者ギルドの独自規格で、冒険者の能力値を測定して数値にするのよ。見かけによらず、魔力を取り込んで高い能力を発揮する人間だって少なくないしね」

「なるほど」


 この世界には魔術が存在し、魔力も存在する為、人間の肉体もまた魔力の影響を受ける。故に鍛え上げた人間の肉体が、魔力を取り込み、ある種の魔術に近いものを常時発動することによって、通常の人間よりも高い身体能力を発揮することも可能となる。

 この現象を、冒険者はステータスと呼び、そしてステータスを測定することで、ある程度その人物の実力を冒険者ギルドは把握しようとしている。

 魔力による肉体の強化現象については、カワードもキャサリンから聞き及んでいた為、レミリアの説明については難なく理解出来た。


 やがて――レミリアの元へと一抱え程もある機材が運び込まれ、準備が整った。


「さて……自惚れた筋肉ダルマのステータス、見せてもらおうじゃないの」

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