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13 旅立ち




 地竜リンドブルムを仕留めたカワードとキャサリンは、いよいよ辺獄を旅立つ為の準備を開始した。

 人里で生活をする以上、身にまとう服等、必要なものは多く、それらを準備するだけでも日々は過ぎ去ってゆく。

 最低限、隠すところを隠すためのものは毛皮等を利用し、キャサリンが仕立てていたのだが、これを着て人里に降りたならば、蛮族か何かと思われ、刃を向けられる可能性すらある。

 そうした理由から、十分に文化的な服装を用意するために、最終的には二ヶ月程の時間を要した。


 時間をかけた分もあり、二人の装備は確かに十分過ぎるほどに整っていた。服、と言うよりも、冒険者として活動する為の装備と呼んだほうが近い。

 カワードの場合、準備したものは前世の記憶によればジャージに近い形をした服になった。但し、単なるジャージではなく、生地はスケイルベアの皮膚を炙り、乾かし、鞣して作ったものを使用しており、軽く頑丈である。

 また、急所を守るような位置にはリンドブルムの皮から作った膠を使い、強度を増すような加工が施されており、手首や足首、頸、脇腹等が保護されている。


 そしてジャージに使われるようなファスナーは準備が不可能である為、前面を開放するような構造は付いておらず、一般的な服と同様に、頭から被って着るように作られている。首周りは襟が立っており、首を守るような構造になっているが、この部分が留め具によって開閉可能になっており、着る時は留め具を外して頭を通す穴を広げ、着た状態ではこれを閉じて首周りを隙無く保護するようになっている。

 色合いは草木の合間に紛れるような迷彩柄となっており、また、同様の構造で闇に紛れる黒色等、複数のものが用意されている。


 キャサリンの場合は、素材こそカワードと同様のものを使ってはいるが、簡素ながらも一般的な服を見事に模しており、またそれに加えて魔術師らしくローブも仕立て、これを着込むことで、かつてカワードと出会った時に着ていた装備とほぼ遜色の無い装いとなった。


 また――服装だけではなく、辺獄を出る過程で戦闘を行う可能性も踏まえ、多数の武器も準備した。

 一つは六角棍、木材やリンドブルムの骨を削ったものを素材にした合成棍であり、軽くとも頑丈な為攻撃力の高い代物となった。

 同様に、リンドブルムの骨や膠を利用し、点穴針、ブロウガン等の装備を作り、これらをカワードは服の各所に隠して装備。通常の服装であれば、これほど多数の装備を隠すことは不可能となるが、キャサリンの手によって魔術的な処理が施され、内部空間を広げた内ポケット等が備えられている為に可能となった。


 キャサリンもまた、かつて使っていたような魔術師の使うような杖ではなく、近接戦闘を想定して棒術、杖術に向いた武器としての杖を装備している。

 他にも、服装の細部にまで動きやすさを優先した加工が施されており、魔術師でありながら、常に近接戦闘が可能な状態となっていた。


 そうした装備を整えた後は、キャサリン手製の魔法の鞄――内部空間を広げる魔術的な処理を施した鞄に保存食等、必要な道具を詰め込み、いよいよ出発となる。


「――長かったね」

「そうだな、しかし、短くもあったと思う」

「確かに、そうかも」


 二人はこれまで生活を共にしてきた拠点を振り返り、そのように言葉を交わした。そして何かを懐い、じっと拠点を見つめた後、背を向けてようやく歩き出す。


「行こう、カワード!」

「ああ、これからも、宜しく頼む」


 こうしてカワードは、遂に辺獄から外の世界へと向かって足を踏み出したのであった。

 ここまでが第ニ章の内容となり、次話以降、第三章の話が開始します。


 ここまで拙作をお読みいただき、興味をお持ちいただけたなら、宜しければブックマーク、ページ下部にて評価の方をお願いいたします。

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