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10 本物の鬼




 さらに後日、無事スケイルベアとの戦闘についての学習も終え、キャサリンとカワードは更に強敵を求めて辺獄を歩き探す。

 ゴブリンのような弱小の魔物や、猪や鹿などの動物、中型の猛禽類に似た鳥の魔物といったように、狩猟の対象となる生物は豊富であったものの、スケイルベアに続き戦闘技術の教材として相応しい魔物は滅多に存在するものでもない。


 数日程、通常の狩りのみ済ませる日々が続き、カワードは辺獄の深部方面へ足を運ぶことを決めた。キャサリンも、少し奥へと向かう程度ならば問題ないと考え、カワードに付き従う。

 そうして――拠点から深部へと半時間ほど進んだ頃になって、ようやくカワードは念願の標的、キャサリンの教材に適した強さを持つ魔物を発見して足を止める。


「キャサリン、ちょうどいいのが見つかったぞ」


 言って、カワードは前方を注目するように促し、これにキャサリンも従ってよく目を凝らす。すると、森の奥から歩いてくる巨体が確認でき、さらに少し待つと、その姿がはっきりと確認可能になった。


「オーガ、ね……それも、武器まで持ってる」


 キャサリンが言ったとおり、カワードが標的として選択した魔物はオーガ、大鬼などとも呼ばれる、初対面ではキャサリンがカワードがそれだと勘違いした種族である。

 ゴブリンの上位種と同程度かそれ以上の知能を有し、鉄製の武器を製造するほどの技術は持たないが、頑丈な木材を加工して作る棍棒や、石を割って作った刃を使った槍など、原始的な武器を使う場合がある。


 ただ、オーガの場合の問題は武器を扱う知能というよりも、その膂力にある。発達した筋肉から放たれる拳は木々を容易くなぎ倒す程の破壊力があり、これが更に武器を持った場合の破壊力は想像を絶するものになる。

 当然、オーガの膂力に耐えられる武器は少ない為、本格的な戦闘が開始すれば多くの武器が即座に壊れてしまうため、すぐに素手のオーガとの戦闘に移るのだが、それでもオーガの膂力については変わらない為、大幅な戦力ダウンとはならない。


 そうした理由から、オーガは非常に危険な魔物とされており、キャサリンのような魔術師が単独で遭遇した場合、即座に死を覚悟する程の怪物ではあるのだが、しかしカワードに気張るような様子は無く、至って平常通り。


「丁度いい、武器を持った相手との戦い方についても教えられそうだ」


 と言って、カワードはキャサリンにその場で待つよう指示し、そのまま一人で少しばかり前に出る。

 すると、オーガの側もカワードに気付いたのが、唸り声を上げながら近づいてくる。

 その様子を観察しながら、キャサリンはオーガが持つ獲物についてもようやくはっきりと確認できた。


 どうやら、オーガが所有しているのは棍棒のようなものではなく、均一な太さの長い棒、通常は長棍と呼ばれるような武器であった。

 とは言え、人間が扱うような大きさではないため、オーガの二メートル超の体格、そして膂力に合わせて作られているのか、キャサリンの腕よりも太く、そしてオーガの身長以上に長い。


 そんな巨大な長棍を、オーガはいつでも振り下ろせるように中段に構え、カワードへと接近する。

 これを冷静に観察しながら、カワードはキャサリンへと解説を開始する。


「武器を持つ相手を対処する上で、まず考えなければならないのは、相手が有利だということだ。武器の有り無し、リーチの違いは当然有利不利を生むのだから、それを踏まえた上で対処をする」


 言いながら、カワードは自らオーガへと近づいていく。既にオーガとカワードの距離は、一歩踏み込めばオーガの攻撃範囲にあった為、カワードの動きに反応してオーガは長棍を振り上げる。

 しかし――振り下ろすことは叶わず、次の瞬間には縮地法により距離を詰めたカワードによって手元を抑え込まれ、振り上げたままの姿勢で静止してしまう。


「このように、武器を持つ相手には、必ず相手のやりたいことをやらせるところから入るんだ。武器というのは効果的に使うにはある程度決まった動きが必要となる。そのため、自ら弱点を曝け出すようにして、相手の攻撃を誘うことが出来れば、次の行動が極めて読みやすい。そうすれば、こうして相手の攻撃の出処を止めるなり何なりで対処が出来る」


 言い終わると、カワードはオーガを突き飛ばし、距離を離す。体勢を崩しながらも、馬鹿にされたと感じたオーガは、怒りのままに反撃を繰り出す。カワードを狙った、長棍による突き。

 これを、カワードは横に一歩、素早く動くことで回避してみせる。攻撃が成功しなかったことが気に食わないのか、オーガは唸り声を上げながら、そのままの姿勢で長棍を振り上げ、カワードを狙う。


 続けての攻撃を、これもまたカワードは容易く回避、身体を反らして長棍の軌道から逃げる。と同時に、オーガの攻撃が伸び切ったところで長棍に手を伸ばし、掴む。

 握った長恨を、捻るようにしながら強く引っ張るカワード。完全に伸び切った姿勢にあったオーガは、踏ん張ることが出来ず、容易く長棍を引っ張られ、拗じられることによって手放してしまう。

 こうして、長棍はオーガの手を離れ、カワードの手に渡った。


「で、こうして最終的には相手の武装解除が出来れば理想的で、自分が使えるようになれば最高だな」


 言いながらカワードは――この場における、唯一本物の『鬼』は、ニヤリと笑みを浮かべ、キャサリンの方へと視線を向けるのであった。

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