『追放者達』、驚愕する
「お主、多分ではあるし直近で、と言う事でも無いだろうが、妾の血が入っているな?」
その言葉により、元々他に言葉の無かった応接室に沈黙が舞い降りる事となる。
そして、その数瞬の後、爆弾を投げ付けて来たルチフェロを除いた全員、彼女の隣に控えていたアルカルダすらも含めた全員が口を揃える形で
「「「「「「「はぁっ!?!?!?」」」」」」」
と驚愕に満ちた声を漏らす事となる。
「は、ちょっ、陛下!?
それ、僕聞いてないんですけど!?
と言うか、陛下お子様がいらしたのですか!?
いつの間に!?!?
何処の誰との!?!?!?」
「ちょっ!?
流石に近いわ馬鹿者が!
ソレに、妾の血を引いている、とは言え、妾の直系、と言う訳では無い!
そも、お主は妾に子が居なかったのは誰よりも知っている事であろうが!!」
「………………はっ!
そう言えば、そうでした。
突然仰られたので、驚いてしまいましたよ。
てっきり、僕が陛下に仕える様になる前に産まれた子かと……」
「その時の妾が、この姿へと変性してから齢を幾つ数えた頃だと思っている?
直後に孕まされていたとしても、であった頃に腹が膨らんでいないとおかしい計算になるであろうが。
ほら、お主も覚えているだろう?
系統の上では、妾の弟に当たる輩が居たのを」
「……………………あぁ、そう言えば。
陛下の血縁、と言う事で六魔将の末席に就いておきながら、当時の『勇者』と通じたり、我らを裏切って人間側に着こうとしていたりした、あの裏切り者ですか。
それならば、確かに陛下の血統が人間側に流れている、なんて事態も納得は出来ますが……にしても、ちょっと遠すぎませんか?
かなりの世代を経ているハズですから、ほぼ無いに等しい薄まり方をしているのでは?」
「そこは、ほら。
所謂『先祖返り』ってヤツではないか?
偶々、血が濃い目に表に出て来た、とか。
まぁ、妾も実際に見て、嗅いで、味わって漸く、と言った程度には薄い故に、そうそう相対しただけで、なんて事も無かろうよ。
まぁ、味わってみた結果として、どうやらそれだけでも無い、とは分かったがな」
「…………………何が何やら良く分かって無いんだが、更に情報を追加するのを止める、って選択肢は無いのか?」
「妾としては別段止めても構わんが、謎が残る方が良かったか?」
ぐうの音も出ない正論に、どうにか絞り出したアレスの文句は一撃の下に葬り去られる事となる。
そもそも、ルチフェロにはわざわざ説明してやらねばならない理由も義理も無く、また次にいつ会えるのか、そもそもまた会えるのかも分からない相手から、それまで『もしかして何かある?』と思っていた部分に対しての答え合わせまでして貰えている状況を、自ら振り捨てる事は己の起源を持たないアレスとしては、どうしても出来ずに手振りで続きを促して行く。
「さて、本人からも許可が出たから、続けさせて貰おうか。
とは言っても、事態としてはそこまで複雑なモノじゃない。
ただ単に、お主には『勇者』の血も流れている、と言うだけの話さ」
「………………はい?」
「だから、『勇者』の血も流れている、と言ったんだよ。
妾と殺し合いを繰り広げ、その結果何を思ったのか妾にトドメを刺す事もせず、封印するに留めていたあのバカタレの血が、お主には流れている、とな。
まぁ、そちらの方もかなりの代が経っている為にかなり薄まっているし、何より人間であったアヤツの血なんぞ引いているだけならかなりの数になるだろうから、そこまで希少と言う程でも無かろうがな」
今度という今度こそ、驚愕によってアレスが言葉を喪う。
思い掛けない事で明かされた自らの起源と、それに纏わる血統の話に於いて、魔族の血を引いている、と言うだけでもお腹いっぱいな心持ちであったのに、更に加えて伝説の『勇者』の血も引いている、だなんて言われてしまえば、流石の彼であっても情報を処理しきる事が出来ずにフリーズしたとしても不思議は無いだろう。
が、そんな彼の事を尻目に、仲間達は挙ってルチフェロへと質問を投げ付けて行く。
やれ、そんな特別な血統であった割には能力自体はそこまででは無かったみたいだぞ?だとか、少なくとも外見と身体能力は人間の範疇に収まっているが寿命が特別長かったり短かったりする見通しなのか!?だとか、彼みたいな血統上の存在ってかなり珍しいのかい?だとか、そういった好奇心からのモノや切実なモノまで、様々な質問が飛び出して来る事となった。
その結果として、齎された情報が幾つか。
当然、ルチフェロとしても、世の全てを把握している、と言う訳では無いので彼女が口にした情報が全て正しい、とは限らないのだが、それでも嘘では無いのだろう、と判断出来た情報を纏めてヒギンズが口を開く。
「…………えぇっと、となるとつまり?
リーダーの初期『職業』が最底辺だったり、今の域に達するのにかなり時間が掛かったのは、あくまでも血統として齎されたと思われる恩恵が『底上げ』じゃなくて『成長補正』だったから、って事で良いのかなぁ?
それと、珍しさで言えば『双方が合流して欠片であっても表面化しているのは珍しい』けど、そうでなければそこまででも無い、って感じ?
あと、寿命だとかに関しても、そこまで薄まっていれば基本的に人間とそう変わらないハズだから心配するだけ無用、と?」
「まぁ、その認識で概ね間違いは無かろうよ。
それと、お主の性質が次代に、更に次代にまで引き継がれるか、と問われれば、流石に妾にも分からんからな。
その辺が気になるのであれば、オルク=ボルク辺りを頼る事だ。
詳しく調べてくれるであろうよ」
「…………あのマッドに頼れ、とか正気か?
訪ねた結果、二本の足で歩いて戻って来れたとしても、自分の意志で戻って来れる自身が無いんだが?
と言うよりも、そもそも敵である俺が頼った所で受け入れるハズも無いし、何処に居るのかすらも分からんのだから、頼り様がないんだが?」
「まぁ、それに関しては否定出来んが、その辺も含めて一つ提案が有るんだよ」
そこで一旦言葉を切るルチフェロ。
放たれる雰囲気は、少し前までの気安いモノでは無く、【魔王】としての威厳と圧力に満ちた重苦しいモノとなっていた。
そして、僅かな溜めの後に放たれた彼女の言葉は、アレスだけでなく『追放者達』の仲間達全員をざわつかせるだけの威力を、確かに秘めているモノとなっていた。
「なぁ、アレス。
お前、こちらに付かないか?」
「…………………それは、つまり、あんたの下に付いて、魔族の味方として戦え、って事か?」
「まぁ、平たく言えば、その通りだな。
待遇としては、丁度一つ席が空いた事だし、新たに六魔将として迎える事も出来る。
他の魔族との軋轢を気にするのであれば、それは不要だ。
良くも悪くも、実力が基準として見られる世界だから、一度殴り付けてやれば、余程の事がない限りは二度と楯突いて来たりはしないさ。
そちらにとっても、利益は大きいと思うが、どうかな?」
「……………………それは、俺があんたの、魔族の血を引いているから、か?」
「別段、それだけ、と言う訳でも無いさ。
信を置けるかは知らんが、血縁が無かったら誘わなかったか?と言われればそれには『是』と答えるが、だからといって引いていれば絶対に誘いを掛けたか?と問われれば『否』としか答えられんな。
さて、返答は如何に?」
唐突に投げ掛けられた、一つの選択肢。
それは、人類を裏切るか否か、と言う、本来であれば考えるべくも無いハズの問いであった。
…………しかし、アレスは即座に応える事が出来ずにいた。
これまで、人の悪性を無数に見せられ、晒されて来た彼にとって、来る魔族との決戦、と言う命を賭けなくてはならないであろう戦いに、人類を守る側として参加せざるを得ない状態に至るであろう事を、仲間達も強制する形で背中を押す事に、躊躇いを覚えてしまっていたのだ。
暫し、アレスは逡巡する。
そして、ルチフェロへと向かって幾つかの問いを口にして行く。
「………………人類と、直接的に敵対する事も、条件に含まれているのか?」
「その辺りは、要相談、と言う所だな。
何処まで直接的に相対するか、も実は六魔将でそれぞれ条件が異なっているのでな。
君にだけ、全面的に絶対的に従え、とは言わんさ」
「………………保証や保護の範囲は、何処までだ?
俺達が望んだ範囲、人々を確実に守り切れると、そう誓えるか?」
「…………ふむ、まぁ、そこに関しても要相談、と言う感じだな。
そちらが出す条件・範囲に応じて、こちらも責務を課す事となるだろうよ。
まぁ、余程の欲を張らぬ限りは、流石に人を絶滅させて来い、とは言うつもりは無いがね」
「……………………分かった。
なら────────」
そうして、アレスはルチフェロに対して『答え』を口にするのであった……。
さて、彼の出した答えは?
次回、最終回(予定)




