『追放者達』、見て回るが……
アレス達が目的地としていたタウロポロス。
そこは、元住民である彼曰く、罪人達が行き着く最果て、であるとの事。
何でも、大元となる集落を作ったのは、周囲から迫害を受けていた者達であったのだとか。
能力や容姿、果にはただの癖と言った様々な要素から難癖染みた迫害を受け、元々住んでいた場所を追い出された者達が集まり、作られたのがこの集落の始まり。
そして、その中には神職に着いていた者もいた。
その者こそが『タウロポロス』という名前であり、自らが作った教会、並びに孤児院に対してその名前を付け、現在に至る、と言う訳なのだ。
…………尤も、ソレで済んでいたのであれば、彼とて『掃き溜め』だとかの表現を用いて、『罪人』なんて単語は使わなかった事だろう。
では何故か?と問われれば、やはり言葉の通りに元罪人が行き着く最果て、その一つであるから、と答える事になっただろう。
罪を犯した者達は、捕まろうとそうでなかろうと、最終的には裏の社会に零落れる事になる。
が、そう言った裏の社会に於いても、必ず落伍する者やどうにかして抜け出そうと藻掻く者も一定数存在する事となる。
そう言った連中が、抜け出した先に行き着く場所の一つが、このタウロポロスであるのだ。
辺境に位置する、と言う事と、辿り着くには長く険しい道を踏破するか、もしくは文字通りに『命懸け』の運試しに挑み、見事に大当たりを引いて自らの命を払い戻し品として受け取って辿り着くかの二択を迫られる、と言う事もあり、此処まで辿り着いてしまえば、追手として放たれた者も諦めて撤退する、と言う暗黙の了解すら出来てしまっているのだとか。
故にアレス罪人の行き着く最果て、とアレスは表現した訳だが、当然の様に既に住んでいる者達に受け入れられなければならない、と言う条件は付く。
何せ、止むに止まれぬ事情、例えば妻に手を出そうとした不届き者(金持ちの息子)を返り討ちにして追手を出された夫婦は実際に受け入れられ、追手からも保護される事となったが、ギャンブルの為に借金を重ねて逃げ込んで来た小悪党に関しては、寧ろ積極的に突き出されたり、と言う末路を辿る事にすらなっていた事もあったのだから。
と、そんな過去の具体例を挙げながら、閑散としている集落を歩いて回るアレス。
淡々と説明するその姿は、正に『求められたから説明しているだけ』と言った素振りのソレであり、聞かれなければ特に口を開く事も無かっただろう、と確信を抱かせるには充分なモノとなっていた。
当然の様に、微妙な空気となるアレス達。
来る者は精査した上で拒まず、去る者も追わず、な住民達も、流石にどう対応して良いものか、と遠巻きに眺めつつ、彼らが向かう先を確認すると、あぁそう言う事か、と言わんばかりの様子にて頷き、それぞれで散ってしまう。
そうした周囲の反応に、流石にヒギンズを含めたアレス以外の全員が怪訝そうな顔をする。
これから向かう先、目的地である眼の前の建物に、そこまでの意味があるのか、どういった意味があるのか?と疑問が膨らむ事となるが、先導役たるアレスがソレを口にする素振りを見せない為に、問い質す事も出来ずにただついて行くのみとなってしまう。
そうこうしている内に、目的地へと到着する一行。
遠目に見えていた通りに、古びた造りをした教会と、それに付属する形で作られた建物とが視界いっぱいに写り込むが、ソレは決して襤褸同然であったり、一歩間違えば廃墟と呼ばれる、だなんて事は無く、築年数は経っていそうではあったが、確りとした造りの建物である、と見えていた。
石造りで堅牢に建てられた教会は、実際に魔物の群れが集落を襲って来た際には、要塞として機能する様に造られている。
これは、辺境かつ人手が少ないこのタウロポロス特有のモノである、と言えるかも知れないが、実際には彼らが知らないだけで似たような理由で似たような造りになっている建物も、理由が理由だけに存在はしているのだろう、と思われた。
そこから視線を横へとずらせば、併設された孤児院が視界へと飛び込んでくる。
未だに日が高い事もあってか、子供達の高い声が外まで響いて来ているのをセレンを始めとした女性陣が、意外なモノを見た、と言わんばかりの様子にて目を見開いていた。
大方、こんな物資も碌に手に入らない辺境の孤児院なんて、キャパシティの関係でそこまで多くの子供を収容する事は出来ない、とか考えていたのだろうが、寧ろ逆なのだ。
何せ、何をするにも危険が伴う上に、上記した様に裏社会からの逃げ込み先となっている側面が在る。
故に、子供だけでも、と言う者も少なくは無いのだ。
そうした子供達は、追手や面倒事を片付けた親が迎えに来る事も少なくは無いのだが、そうでは無く魔物の襲撃によって親を喪った子供達や、運が良いのか悪いのか、子供だけが集落の近辺にて発見・保護される事も少なくは無い為に、常に一定数の孤児が預けられる事となっているので、やはり必要な施設である、と言えるだろう。
勿論、運営は教会の神父が行っているが、その費用は軽くは無い。
無いが、集落には孤児院で昔世話になった元子供にして現大人、と言う者も少なくない数が所属しており、そう言った手合いは積極的に寄付やらお裾分けの名目にて資金や物資を融通して来たりもする為に、どうにか回して行けている、と言うのが実情であったりする。
尤も、だからといって、そこが天国の様な環境である、と言う訳では当然無い。
現に、訪れたアレスは少し前から苦い顔を隠そうともしていないし、教会の中から現れた人物の顔を見た瞬間、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、腰の得物に手を掛けていた程だったのだから。
「……………………グレッグ……!」
「…………あ?誰かと思えば、お前アレスか?
珍しく冒険者が来てるって聞いたから、ガキの何人か見習いとして引き取って貰えないかと思って出て来たらお前とか、お笑い草だな。
…………見た所、アリサとカレンのお守り二人組は居ないみたいだが、上手い事他の寄生先でも見付けたか?
お前は、昔からそう言う他の連中に守って貰うのが上手かったからなぁ。
自分じゃてんで手も足も出せない弱虫な臆病者の癖に、セコセコと大人や二人に告げ口してくれやがったのは、今でも思い出せるからな」
忌々し気にそう吐き捨てるのは、神父服を纏った青年。
口振りや、アレスが名前を呼んでいた事を鑑みると、恐らくは彼と同期の元孤児であり、成人した事を切っ掛けとして施設の運営側に回った人物かつ、かつてアレスが口にしていた、孤児院で受けていた虐めの主犯格かソレに近しい立場に在った者、と言う事なのだろう。
その証拠に、と言う訳でも無いのだろうが、アレスの事を潜在的に見下し、自らの方が格上である、と示そうと声を荒げていた。
が、ソレに対してアレスが特段反応を返そうともしていなかった為に、萎縮したのか、それとも正論をぶつけられたが為に反論する事も出来なくなった、と認識したのかは不明だが、つまらなさそうに鼻を鳴らすと、今度は女性陣へと視線を移し、瞬時に鼻の下を伸ばしながらアレスをこき下ろし、自分を持ち上げて見せようとする。
やれ、コイツは役に立つ事は全く無いのは予想に難しくは無いが昔からそうだった、だの、コイツ程度の何処にでも居るだろう無能を使ってやってる貴女達はさぞや慈悲深く懐も広い女神の様な方々なのでしょう、だの。
挙げ句の果てに、この様なグズでノロマな使えないゴミは早々に捨て去って、もっと有能で将来への展望が広い、自分の様な人材を採用するのはどうだろうか?と提案に見せ掛けた、相手が断る事を微塵も考えていない『命令』を降してくれていたのだ。
当然、ソレに応える必要の無い『追放者達』は、顔を強張らせてたままのアレスと共に、グレッグと呼ばれた青年の言葉を無視する形で周囲の散策を開始した。
が、そうして返答が無いのを何か勘違いしているのか、自らが受け入れられている、と認識したらしい彼は彼らの後を追い、聞いてもいないのに言葉を続け、挙げ句の果てに反応しないのを良い事に、アレスを排除しようとしてきたのだ。
それは、グレッグ本人としては、幼い頃の延長線の上の事だったのだろう。
が、既に幾度もの死線を越え、人外の域に達してしまっていたアレスに殴り掛かって見せる、だなんて蛮勇が見逃されるハズも無いし、何よりアレス本人が許すハズも無く、難無く繰り出された拳は掴み取られ、その上で足払いを掛けられて倒れ込んだ所に目掛けて固められた彼の拳が飛来する!
一撃で、人の頭骨程度であれば粉砕したであろうその拳は、横から差し出された手によってアレスの腕が掴まれた事で止められる事となる。
直前まで気配すら感じられなかったその乱入者に慌てて視線を向けたアレス達は、予想だにしていなかった人物の登場に思わず
「…………どうしてお前が、ここにっ!?」
との言葉を漏らしてしまう事となるのであった……。




