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追放者達の集い~取り敢えず目標は果たしたので魔王討伐は勇者に任せて魔物討伐に勤しみます~  作者: 久遠
終章・孤児院編

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『追放者達』、遠回りする

 


 当初の予定の通りに、最後にアレスの育った孤児院へと向かいたい。


 そう告げたセレンの言葉に、アレスは顔を顰める事で反応とした。



 …………一応、アレスとしても、可能性としては考えていたのだ。


 だが、彼としては余り良い思い出が多い訳でも、また既に袂を分かった(とアレス本人は思っている)幼馴染二人とそれなりに長く過ごした場所である為に、様々な意味での過去が染み付いている場所、となってしまうのだ。



 なので、正直な事を言えば、彼は期待すらしていた。


 このまま、ドヴェルグの所に直行しよう、と全員が言い出す事で、里帰りの旅路が最後の一箇所を残して終えられる事となる、と言う事を。



 だが、流石にそうは問屋が卸さない、と言うヤツなのだろう。


 信頼する仲間であり、最愛の異性でも在る相手からの問い掛けを無視する、だなんて選択肢がアレスの中に在るハズも無く、表情を険しくさせたままの状態にてセレンへと返事をして行く。




「…………取り敢えず、行くだけなら行けるだろうけど、ここからだとかなり遠回りになるぞ?

 具体的に言えば、このカンタレラを大回りにグルッと半周近くする程度には。

 それと、割りと碌でも無い場所だったから、見て面白いモノが在るなんて事は有り得ないし、泊まる様な場所も無いだろうから普段の野営と変わらない状況になるだろうけど、それでも行くかい?」



「大分嫌そうであるが、ソレを言ってしまえば、当方の実家も大概であったのであるが?

 それに、他のメンバーの内、本当に何処のモノとも分からないタチアナ嬢を除けば、全員分巡っているのであるから、観念するのであるよ」



「そうそう、言っちゃなんだけど、アタシが藻掻いてた何処の何とも知れないごみ溜めよりは、どんな肥溜めでもまだマシよ?

 まぁ、生きるのに必死過ぎて、ほぼ記憶に残ってなんていないから、ぶっちゃけどんな場所だったのかすら覚えてないってだけなんだけど」



「だとしても、今日この日まで生きてこられたんだから、まぁ比較的マシだった、って事なのです?

 少なくとも、言葉すらも知らず、人として生きる術すらも知らず、なんて状態では無いのですから、最低限は学べて生きていられるだけの余地があった、と言う事なのです!」



「…………いや、流石にそこまで最低限の底を割る様な地獄じゃ無かったけどさ。

 それでも、良い思い出なんて欠片も無い様な場所に、わざわざ案内する、ってのも……」



「まぁ、それはそれで良いんじゃないかぃ?

 愛しの彼女さんが、是非とも見てみたい、って珍しくオネダリしてるんだから、叶えて上げるのが彼氏の役割、ってモノじゃないのかなぁ?」




 口元をニヤリと上げて、ヒギンズが誂う様な言葉を口にする。


 普段であれば、リーダーであるアレスを立てる様な事を口にする彼が、半ば挑発じみた言葉を口にするのは珍しく、思わず『どういうつもりだ?』との意味合いを込めてアレスも視線を送る事となってしまう。



 だが、そこに待っているのは、普段浮かべている草臥れた様な苦笑いでは無く、純粋に若者を誂っている中年男性の笑み。


 大方、いつもは助けてやっているのだから、偶には自分でどうにかしろ、とでも言っているのか、それともハシゴを外されてアタフタしている姿を拝んでやろうか、と意地の悪い心が顔を覗かせる事となったのだろうな、と見当を付けたアレスは、形勢不利を悟って溜め息と共に両手を掲げ、降参の意を表明して見せる。




「…………まぁ、そこまで言われては行くのに否やはもう言わないけど、それでもどうするんだ?

 さっきも言ったけど、こっち側からだと大外回りで半周近くする必要が在るんだけど?」



「それはさっきも聞いたけど、実際問題そうしなきゃならない理由とかって何かあるのかぃ?

 地理的には、ここから反対側、って感じなんでしょ?

 だったら、オジサン的には真ん中を真っ直ぐに通り抜けて行けば良い、と思うんだけど、それじゃダメなのかぃ?」



「幾らアタシらが有名人になり掛けてる上に、特大の爆弾持ちだ、って言ったって、主要都市に入れば即座に補足されて、とかの心配はまだしなくても良いんじゃないの?

 まだバレてないんだし」



「いや、流石にそんな犯罪者だとか世捨て人ルートで物事考えてはいないから。

 単純に、中央側からだと行けないんだよ、あそこ」




 二人からの質問に答えたアレスが地図を取り出す。


 それは、カンタレラ王国の内部を比較的詳細に記したモノであり、かつアレス手ずからによって作成された代物であったが、その内の東側の端に近い場所を製作者自らが指差して行く。




「取り敢えず、今俺達が居るのがこの辺り。

 カンタレラ王国から出入りする以上、余程変な手段に訴えない限りはここを通る事になる。

 それは良いよな?」




 頷き、何を当たり前の事を、と若干呆れた様子を見せる五人。


 そんな彼らに対してアレスは、そこから真っすぐに指を走らせ、ほぼ反対側の西の端に近い場所まで引っ張ると、その周辺に描かれている地形を示す記号等を指差して行く。




「で、位置としては我らが懐かしの『アンドレアルフス大森林』の近くを通る西の街道の先の先まで進んだもっと先、って感じなんだが、如何せん周囲の地形がアレ過ぎてな。

 結論から言うと、街道からだと辿り着くのがクソ程に面倒臭い事になる。

 下手をすれば、通るだけで人死が出るレベル」



「……………………マジで?」



「マジマジ、大マジ。

 んで、そのクソ程に面倒臭いルートを通らず、かつ安定して通れる道は何処かに続いていないのか?って言われると、目的地の近くに聳えてる山脈の尽くをグルッと回り込む形で回避する必要が出てくるんで、侵入しようとするとこの辺りから回り込み始める必要が出てくる、って訳なのよ」




 そう言って、指差していた記号を順に示して行く。


 それらは『断崖』であったり『危険地帯』であったり『迷宮』であったり『山脈』であったりと様々なレパートリーが取り揃えられる事となっていたが、決して愉快なモノでは無く、寧ろそれらに囲まれてまでそこに住む価値とは何ぞや?と住民達に問い詰めたくなるモノとなっていた。



 指し示していた場所から指を動かし、今度は現在地近くへと向かわせるアレス。


 示された場所から、少し前に聞いた通りに山脈沿いに半ばカンタレラ王国の外周部をグルリと回る形にて進める事により、先に示された危険な記号の数々を迂回する形にて、目的地までは到達出来る、と彼は示して見せていた。



 故に、仲間達は腕を組み、唸り声を挙げながら考え込む事となる。


 安全性を取り、かつ既に急ぐ様な時期でも、野営して危険が伴う時期でも無いと言えば無い為に、ユックリと時間を掛けてでも大回りで行くのか、それともこれから増加し、かつ彼らに回されて来るであろう数々の依頼を鑑みて、それらが殺到するよりも先に事を済ませるべく、危険を承知で最短ルートを選択するのか、を。



 正直な話をすれば、彼らにとってアレスが挙げた『危険性』はその大半を無視する事が可能であった。


 常人であれば近付くのも危うい様な場所であったとしても、既に人の域を脱している彼らからすれば己の身を守るのは容易い事であるし、並大抵の魔物に襲われた所で、余程特殊なモノと出会す様な不運に見舞われる事でも無ければ、基本的にピンチに陥る事の方が難しい、と言えてしまうだろう。



 故に、最短ルートを突き進む事も可能ではあった。


 が、ソレをするには一旦アルカンターラを通り抜ける必要があり、かつ例の情報は『そう』と分かる人には分かる程度にアレス達は実績があり、かつ名声を望んではいない、と周知されている為に、気付いた者によって足留めを喰らう可能性も捨てきれない為に、その手の面倒事を厭うのであれば、遠回りするのも吝かでは無い、とすら思える程であったのだ。



 そうして、双方共にメリット・デメリットが出揃った状況であっても答えは出ず、結局メンバー内で投票を行い、多数決によってルートを決定する事となったのであった……。




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