閑話 魔王軍幹部と追放した者達の今
────六魔将の一つが斃された。
その報せを聞いた時、『勇者』として活動していたシカノスケは、まるで頭を鈍器で殴られたかの様な衝撃を受ける事となった。
余りの衝撃に、報せを聞いて蹴りたった椅子へと、再び腰を落としそうになりながらも、流石に周囲の視線と自らの扱い、と言うモノを薄々理解し始めていた彼が、自らの醜態を晒すまい、としてどうにかその場に踏み止まると、情報を持って来たグズレグへと問い掛ける。
「…………それで、俺様が挙げるハズだった手柄を横取りしやがったのは、何処のどいつだ!?
工匠国の、英雄王とやらか?
それとも、聖国の切り札、とか呼ばれてた部隊長か!?
いったい、何処のどいつなんだよ!?なぁ!?!?」
「…………残念、ながら……不明、となって、おります……」
「……………………………はぁ???」
問い詰める程の勢いにて迫ったシカノスケであったが、齎された答えに気の抜けた様な言葉を漏らす。
とは言え、それも当然と言えば当然の話。
何せ、こうして『勇者』として戦線へと赴いているシカノスケの耳へと入ってくる程である。
それ程に広まっている話の主役、これからの立身種か、もしくはそれまで以上の富と地位とが約束されているそんな存在の名前が広がらないハズが無く、またそういった意図が無いのならば、そもそも話しは広がらないから、だ。
なのに、そこに主役たる者の名前が無い?
それは、最早『有り得ない』と呼ぶべき事態と言えてしまうだろう。
まるっきり、理由が分からん、と言う顔をしているシカノスケ。
同じく、パーティーを組んでいる、と言う関係上、部屋を共にしていた他のメンバー達も暫し似た様な表情を浮かべていたが、タイミングは異なれども皆一様に同じ様な表情を浮かべ、納得した様な素振りを見せて行く。
その様子に、違和感を覚えたのか首を傾げるシカノスケ。
彼ら彼女らが納得した様子を見せている、と言う事は、彼らと面識が有りつつ、それでいてその偉業を成し遂げるだけの実力が有りながらも、かつ自らの名を上げる事を良しとはしていない、なんて人物に揃って心当たりがある、と言う事であるが……と考えた彼の脳髄に、一つの稲妻が落ちる。
そう、心当たりならば、彼も持ち合わせているのだ。
だが、その『心当たり』に思い至ってしまったが故に、シカノスケの拳は限界を超えて握り締められ、骨が軋む音と共に、喰い込んだ爪によって生じた傷から血が溢れ出し、床へと滴って行く。
「…………巫山、戯るなよ……!?
あの連中、それだけの手柄を挙げておきながら、最低限の情報だけ流しやがった、って事か!!
巫山戯やがってチクショウが!?
俺様が、俺様が最初に成し遂げるハズだった偉業を、名声を、その手にしておきながら、自分達は雲隠れを続けやがるつもりだと!?
クソッ!クソクソクソクソクソクソクソクソクソッ!!!!クソッタレがぁぁぁぁぁあああっ!!!!!」
目を血走らせ、歯を剥き出しにし、食い縛った故に裂けた口の端から血を溜らせながらシカノスケが咆哮する。
自らが求めて止まないモノ、絶対の地位を確立したであろうソレを、『英雄の地位』を不要と断じ、必要最低限のモノに絞りつつ確度の高い情報として流し、魔族との戦闘に支障が出ない様に、との調整すらされているのである。
これを、『勇者』として召喚され、戦闘にも慣れてきたが故に戦力の中核に近い運用をされる様になってきた彼に対する侮辱に他ならない。
故に、そうして発狂する寸前な有り様にて叫ぶシカノスケの姿を目の当たりにしながらも、パーティーメンバーとしてその場に居合わせていた者達は、それぞれで納得した様子で頷いて見せたり、苦虫を噛み潰した様な素振りを見せたり、呆れた様に溜め息を吐いて見せたりしていたが、その内で誰もシカノスケを慰めたり止めたりする者は居らず、結局騒ぎを聞き付けて人が来たのを切っ掛けとするまで、シカノスケの半狂乱は治まる事が無かったのであった……。
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一方その頃、シカノスケ達と同じ様に、『とある情報』によって集まり、顔を突き合わせている集団がもう一つ。
当然の様に、噂の大元となった部分であり、信憑性を確かめる為に、と急遽収集された、魔王軍幹部である六魔将達、だ。
以前の会議の際に使っていた円卓へと、集う六魔将。
だが、その席は五つしか埋まっておらず、時間厳守絶対、と同時に通達されていたにも関わらず、規定の刻限を大きく過ぎた現在も、最後の席が埋まる事は果たされていなかった。
「…………ふぅむ?
これは、もしかしなくても確定、ですかねぇ?」
「…………それ、は……間違い、無い、だ……ろう。
ヤツは、尊大……で、あり、大言を……良く吐いて、いた、が……不思議と、時刻、に……だけは、正確で、あった、から……な」
「じゃあ、レオルクスちゃんは倒された、って事で話を進めるけどぉ、問題は『なんで』と『誰が』なのよねぇ。
『なんで』は置いておくとしてもぉ、私達としては『誰が』の部分には、ちょ〜っとばっかり心当たりがあるんじゃないかしらぁ?」
「まぁ、それはそうでしょうねぇ。
私としても、少し前に彼らの現在地をレオルクスさんから問われましたが、特に何があった訳でも無いので、そのまま伝えておきましたからねぇ。
ちなみに、筆頭殿からの接触厳禁令が出る前、の事でしたので、私に痂皮はない、と思っているのですがねぇ」
「であれば、最早彼奴を討ち取ったのが誰なのか、は自明であろう!
よもや、かつての大戦の処り、彼の『勇者』によって幾度か同胞にして同格の六魔将達が討ち取られた事もあったが、その域に遂に達した、と言う何よりの証左であろうな!
…………で、あるというのに、陛下は敵討ちすらもお許しにならない、と?」
「えぇ、そういう事です。
陛下からの命は変わらず、接触厳禁、陛下が直接見定める、との事でした。
まぁ、確かに仲間の敵討ちに、と逸る気持ちは理解出来ますが、今回は攻め込まれた結果の討ち死にでも、奇襲を仕掛けられての無念の戦死、でもありません。
どちらかと言えば、禁じられた事に手を出して返り討ちにあった犬死に、と言った方が状況に則している、と言えるでしょう。
現に、陛下からの命を無視して単独で行動、接触を図り、こうして返り討ちに遭っているのですから、ね?」
この状況であっても、何故に陛下は意見を変えないのか!?とスルトがアルカルダへと問い詰める。
六魔将の筆頭であり、かつての勇者との戦闘、と言った要素によって幾度も代替わりを果たしている中で、唯一最初期からその席を守り続けていた怪人、として魔王からの信が最も篤いアルカルダであれば、とスルトも考えたのだろうが、ソレに対して返って来たのは、ある意味嘲笑とすら取れる様な、そんな言葉であった。
勝手な行動を取り、その上で弱かったから負けて死んだだけ。
結果を見れば、確かにその通りである、と言わざるを得ない訳だが、だからといって仲間であり、一応は同格、としての地位を持っていた者に対する言葉では無いだろう!?と思わずスルトも反撥しそうになる。
が、ソレをアルカルダがバッサリと斬り捨てる。
「そもそも、陛下が自ら見定める、と仰られていたのですよ?
それを、手柄を目当てに自分の意志で単独行動し、陛下の意思に叛いて敗れて勝手に死んだのですから、一体何処を讃えろと?
寧ろ、その様な背信行為、私自らが処刑してやっても良かった所を、敢えて『戦死した』と言う形に落ち込めてやったのですから、感謝して欲しい位なのですけど?」
至極冷たく、仲間に向けるモノとは思えない視線と言葉。
それにより、熱り立ちそうになっていたスルトも水を掛けられた様に静まり返る事となり、結果的に会議の結論として『魔王陛下が見定め、その後に決を下すまで彼らに対しての接触は引き続き厳禁』と改めて定められる事となるのであった……。
次回から終章となります
そこまで長くはならない予定なので最後までお付き合い頂けると幸いですm(_ _)m




