『追放者達』、応戦する・5
────アレスがレオルクスの腕を切り飛ばしてから、少しばかり時間が経過した頃。
漸く、と言っても良いであろう程度に手間と時間を掛けた結果、アレス達は凡その範疇であったがレオルクスの能力の詳細と条件、そして上限を探り当てる事に成功していた。
先ず能力の詳細に付いてだが、コレは先に予想として挙げられていた『ダメージを受けた分だけ魔力と身体能力が強化される』と言うモノで、ほぼ間違い無いだろう。
何せ、これまでの戦闘でもそうであったが、アレスが腕を切り飛ばした直後から、それまでとは段違いな動きを見せ始める事になった上に、その後も与えたダメージと比例する形で力を強めて行ったのだから、やはり間違い無く『そう』なのだろう。
また、条件に関しては、恐らくだが『相手から受ける事が必要』とかになる、と思われる。
人間が修得出来るスキルの中にも、特定の条件を満たせば発動出来る、という類いのモノも存在しており、その手のモノに限って強力だったりするのだが、一方で正規の方法以外で条件を満たそうとしても絶対に発動はしてくれない、というモノも当然存在しており、レオルクスの能力もその類いだろう。
何故そうなるのか?と言われてしまえば、答えは一つ。
そうでなければ強力過ぎるし、また予め強化していなかった理由が無くなるから、となるだろう。
これは、三つ目の上限にも抵触するのだが、レオルクスの強化には時間制限か、もしくはある程度で解除される、との条件が付けられている可能性が高い。
先にも軽く触れていたが、そうでないのならば、これまでの戦闘にて培った強化分が解消され、恐らくは未強化状態にてアレス達に戦闘を吹っ掛けて来る様な事はしなかったハズだ。
また強化幅に上限があるのでは?との点に関しては、現状ではダメージを与えてもほぼ強化された様子が見られないから、という点に尽きる。
何せ、検証の為にアレス達が追加でもう一本腕を落としたが、特に劇的な強化が見られたか?と問われれば『否』としか返答は返されなかった事だろう。
尤も、検証の為に、とは言え、そこまでのダメージを負わせる際にアレス達も余裕綽々で、という訳には行かなかった。
寧ろ、数多の犠牲を払い、半ば死にものぐるいに攻め立てて漸く、と言った結果であり、彼らの現状が事の難易度が決して易いモノでは無かった、と語っていると言っても良いだろう。
何せ、無事で居られているメンバーは、たったの一人を於いては他に無く。
アレスとガリアンはそれぞれ左腕と右腕を一回ずつ奪われているし、接近し過ぎた時にタチアナは腹部を蹴られ、ナタリアは顔を爪が掠める結果となった為に、一時的に片や内臓を損傷して文字通りの血反吐を地面へとぶち撒ける事となり、片や一時的に視界を喪い完全に戦力外と成り果てる事となった。
また、それらを回復させていたセレンも、無事では済んでいなかった。
回復役こそ真っ先に潰さないと不味い、とは流石に脳筋気味なレオルクスでも理解していただけでなく、セレンの事こそを最も狙っていた様子で、彼女が治療の為に前線へと上がって来たタイミングを狙って強襲を仕掛け、抵抗の意思を削ぎつつ脅しを掛ける為にか、片足を掴んで逆さ釣りにする、なんて事件が発生したのだ。
当然、そんな事をすれば、セレンの白く長く程度に肉付きの良い足が露わになり、そこへレオルクスが好色な視線を殺し合いの最中であるにも関わらず、舌舐めずりと共に向ける事となった。
が、それを甘んじて受け入れるセレンでは無く、同時にそれをいつまでも許しておくアレスでも無かった為に、反撃も兼ねて身を捩って杖を脇腹へと叩き込むと同時に、刃を胸へと突き立てて内臓を掻き回してやる事に成功していた。
勿論、それらの攻撃に対して、何の代償も無しに、とは行かなかった。
その攻撃の為に、強く掴まれていたセレンの足は砕け、殴り飛ばした際に爪が引っ掛かったのか大きく裂かれる事となり、回復無しでは歩行が覚束ないどころか、意識を保つのすら難しかったであろう重傷を負う事となったし、アレスもその攻撃の為に無茶をしたので離脱が間に合わず、先にも述べた通りに左腕を喪う事となってしまっていた。
…………斯くして、多大なる犠牲と諸々の消耗とを経て得た結果が、能力の情報と追加で腕一本、という状況となっている現在。
そこだけを見るのならば、圧倒的にアレス達が押されており、レオルクスが勝利する形で勝負が決する────と思われるかも知れないが、寧ろ情勢としては彼らの方こそが優勢であり、ボロボロであるにも関わらず、相手を圧倒しているのもまた彼らの方こそであった。
それは、何故か?
ヒントにして答えは至極単純、先に述べられたメンバーの内、唯一挙げる程の負傷を受けておらず、またそれと同時に彼らへと優勢を齎している張本人が存在していたから、である。
「…………しぃっ!!!」
鋭い呼気と共に、アレスがレオルクスへと目掛けて刃を繰り出す。
足へと向かって繰り出されたソレを、回避も防御もせずに受ける……事はせず、ギリギリダメージと呼べる程度に受け取るながら、本格的に命中する事をレオルクスは避けて行く。
が、それでも現在、アレスが彼の手の届く範囲内に居る、という紛れも無い事実を前にして、残されていた二本の腕を翻し、短剣の様な爪を用いてその背を切り裂こうとする。
尤も、それはアレス達の方こそが良く知っている状態であり、また『本命』の為の『前座』でもあったアレスが『その後』を知らぬハズも無く、特に防御や回避と言った余計な真似をする様な動作を取る事も無く、寧ろさらなる攻撃の為にこそ意識を集中させていた。
そうして、レオルクスの刃が振り下ろされる。
その寸前にて、変哲も無い槍の穂先が突きこまれ、アレスが切り裂いた足へとの傷口と寸分違わない箇所へと追加の一撃を繰り出される事となる。
流石に脳筋気味なレオルクスも、それまでも幾度となく繰り返されたパターンから、その流れを読み取っていたらしく、必死に攻撃を取りやめて防御でも無く、無防備に受けるでも無く、攻撃そのものを『回避』しようと試みる。
が、その必死の抵抗も虚しく、ヒギンズが体得している超絶技巧によりその穂先は、まるで物理的に伸長したかの様に受け取れる様な動きを見せ、寸分の狙い違わずにアレスが付けた傷口を、その上から抉り取って見せた。
その痛みに咆哮を挙げ、太腿の半ばまで喰い込んだ負傷により、力無くその場に膝を突くレオルクス。
動きが止まったのならば、と至近距離にて準備を十全に終えていたアレスが追撃の刃を放ち、更に周囲へと血飛沫を広げる事となったが、流石に二の刃として用意していた魔法に関しては、是が非でも回避しなくてはならない、との気迫すら感じる程の妄執により、地を転がる勢いにて無理矢理に回避されてしまう。
荒い吐息を繰り返しながら、土と泥とに汚れた毛皮の向こう側から、ヒギンズを鋭く睨み付けるレオルクス。
対して、特に気負った様子すら特に見せる事も無く、普段と変わる事も無く飄々とした表情を浮かべながらも、仲間の現状に対しては申し訳無さそうな素振りを見せているヒギンズ。
片や優位に立ち、周囲を気にする余裕すらも覗かせている一方、片やどうにか負傷を癒やし能力を発動させる為に時間を稼がんとして土に塗れている。
両者の差がここまで大きく出る原因となったのは何なのか?と問われれば、それこそが『聖槍』の能力であった、と応えるしか方法は無いであろう、とその場にいた全員が、心の内にて呟く事となったのであった……。
中途半端ですがタネ明かしは次回




