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追放者達の集い~取り敢えず目標は果たしたので魔王討伐は勇者に任せて魔物討伐に勤しみます~  作者: 久遠
第六章・龍人族編

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『追放者達』、応戦する・4

 


 周囲に、轟音が響き渡る。


 ほんの少し前に響き渡ったのと同じ、金属質なモノを使って、水分を多く含んだ生肉の塊へと叩きつけた様な、そんな湿った音。



 しかし、それによって齎された結果は、ほぼ真逆のモノ。


 先の衝突では、見ている者が呆気に取られる程に抵抗無く吹き飛ばされ、下手をすればそれで死んだか?と思える様な状態となっていたハズのレオルクスが、今回はその四本の腕を以てして、自らの足で地面に立ったままガリアンのチャージタックルを受け止めてみせたのだ。



 勿論、それを無傷なままでも、不動のままでも行った、という訳では無い。


 受け止めた腕の半数は関節が明後日の方向へと拉げているし、そうなった腕のモノを含めて指で無事なモノは無い様にも見える上に、今にも砕けそうに震えている両の足は地面にめり込み、二本の轍を深々と刻み込む形となっていた。



 …………だが、結果だけを見るのならば、最早真逆と呼べるモノ。


 ほんの少し前は無様に吹き飛ばされるしか出来ていなかった一撃を、負傷しながらも真正面から受け止める事に成功していたのだ。



 受け方を工夫したとか、状況的にまともに対応出来る状態だった、なんて事では無い。


 自らの膂力と頑強さによって無理矢理真正面から受け止め、そして耐え切ってみせた形となるソレは、本来であれば()()()()()()()()()()()であったのだ。



 本来、身体能力強化を使っていなかった、仲間から支援術を受けていなかった、と言ったシチュエーション以外、その場で爆発的に身体能力が向上する、と言った事は基本的には()()()()()


 基礎的なトレーニングや戦闘経験による筋力の最適化により身体能力が向上し、結果的に前回よりもより強く、より重い攻撃を受け止める事が可能となる、という事はあるし、身体能力強化に関してもある程度までは出力を調整出来るので、強化具合の強弱を付ける事も不可能な事では無い。



 が、前者に関しては結果が現れるまでに間違いなく時間が掛かる為に、同じ戦闘中に、という事はあり得ない。


 後者に関しても、精々が数段階に分けて調整するのが限界であり、また加減するにしても手を抜き過ぎて殺される可能性を加味してみれば、やはり限界値に近い所で普段は使い、いざという時に暴走寸前までの出力で行使する、という形となるのが通常のソレである為に、全開にすればドラゴンに踏んづけられても無事で済むが、普段は武具を持ち上げて振るう程度に強化するのみ、みたいな極端な形での行使は基本不可能に近い行為である、と言えるだろう。



 故に、レオルクスのやってのけた行為はアレス達が驚愕するに値する行為であったし、能力にしてもそうだと言える。


 同じ事をしようとすれば、それこそ身体が内側から崩壊する程の魔力出力によって身体能力強化を掛けるか、もしくは一般的にはご禁制の品物であり、下手をしなくても一回の使用で廃人と化す可能性のある薬物をキメる事でも似たような結果は出せるだろうが、そういった反則級の行為を抜きしての現状は、やはり驚愕に値すると言っても良いハズだ。



 そして、レオルクスの持つ能力が、彼らの予想の通りであれば、更に厄介な事になる。


 当然といえば当然な予想を裏切る事無く、先程と同じく白煙を上げながら元々の形へと戻ろうとしている腕や指がガリアンの盾の縁へと掛かり、負傷した事で更に高まった身体能力によって彼へとその魔の手を伸ばそうとする!




 …………が、ソレに先んじる形にて、振り下ろされる刃が一振り。


 空中にすら銀線を刻む程に鋭く、鮮やかなその太刀筋により、ガリアンの兜へと目掛けて伸ばされようとしていた腕が、断ち切られて宙を舞う事となる。




 先ずは一人!とでも思っていたのか、それとも自身に対して最もダメージを与えてくれていた対象が、最も早く落ちる、という状態に嗜虐心を掻き立てられていたのか、口元を釣り上げる形で歪めていたレオルクス。


 しかし、その目論見が寸での所で途絶えただけでなく、自らの肉体の一部とは言え喪失する羽目になり、また遅れて来たのであろう欠損の激痛によりガリアンの盾を離し、身体を丸めつつ切断された腕を抱えながら叫び声を挙げて行く。



 咆哮にも等しいその叫びは、周囲の木々を揺らし、間近に居たアレス達の鼓膜にも少なくないダメージを与える程の声量であったが、かなり大袈裟に騒いでいる様にも見えていた。


 少なくとも、過去に対峙した魔族の中で、スルトが片腕を喪った時は愕然とはしていたが、それでも戦いを諦めていた訳では無かったし、絶望はせずに生存の目を探して周囲を探り続け、結果的には逃げ果せるまでして見せた。



 だが、一方このレオルクスはどうだろうか?


 咆哮による全方位攻撃を使って結界と酷似した効果を発揮して見せている、と言えば聞こえは良いが、傍から見ている限りでは痛みを耐えられずに泣き叫んでいる様にしか見えないし、よくよく見てみれば涙も浮かべていれば鼻水も流している様にも見える。



 哀れみすら漂うその姿は、正しく『手足を喪失した事実に泣き暮れる子供』と言った風体であり、現に女性陣は何とも言えない様な、まるでやり過ぎたか?と言わんばかりの表情すら浮かべていた。


 …………が、そんな女性陣とは裏腹に、残心の姿勢のままに僅か数秒程の観察を終えたアレスと、陽動の為に比較的至近距離に居たヒギンズは、迷う事無く得物の切っ先を蹲るレオルクスへと向けて突き出し、容赦無く追撃を仕掛けて行く。



 すると、自らの身体に刃先が喰い込む寸前で、レオルクスがその場から跳躍し、攻撃を回避してしまう。


 咄嗟に、ガリアンが投擲した手斧も、六本から五本に減じた手足を地面に突いて、這い回る様にして回避されてしまい、結局空振りに終わる事となってしまった。



 油断無くアレス達を睨み付けるその眼差しには、既に苦痛による屈折は見られず、顔面こそ涙と鼻水の跡で汚れてはいたが、それらは既に止まっており、赫怒や殺意を放つ余裕すらも見せていた。


 そんな、両極端を行き来する様なレオルクスの変わり様に女性陣は動揺を隠せずにいたが、男性陣、特に荒っぽい連中と接する機会が育ちの関係上多かったアレスからして見れば、あそこで大袈裟な迄に泣きを入れて見せた事は違和感しか生じていなかった。



 そもそもの話として、あそこまで極端な自信を覗かせ、予め勝利宣言までして見せる上に、能力の詳細こそ分かってはいないながらも、相手からダメージを受ける事が大前提となっている者が、腕の一本程度落とされた程度で痛みに耐えかねて泣き崩れる?それは、あり得ない。


 あれだけ、相手に対してマウントを取りに行った、自らに対して自信しか無い自分こそがルールだ!と億面も無く言い切れるヤツが、自らの弱みになる様な事を、敵対している相手に対して開示するなんて事は死んでもしないし出来もしない、寧ろそれをする場合は、今回の様に隙を作って反撃の切っ掛けとする為、位のモノだろう。



 現に、女性陣は引っ掛かって手を止めてしまっていた。


 スルトの回復力が異常なだけであったのか、それともヤツであっても欠損までは自然回復では修復出来ないのかは不明だが、それでも鼻先が拉げて腕がそれぞれ明後日の方向を向いていたとしても僅かな時間で治癒する様な連中なのだ、それが腕一本落とされた程度で、本気で泣き喚くハズも無いだろう。



 半ばまでしか確信としては抱いていなかったが、それでも間違ってはいなかった事に若干ながらも複雑な心境に至りつつ、早くも傷口からの出血が止まり、肉が盛り上がって来ている様子を見せている腕の断面を確認してしまったアレスは、舌打ちを一つ零してから刃を構え、術式を展開しながらレオルクスへと迫って行くのであった……。




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