悪用上等
壁に着地して一瞬状況確認とクールタイム回復。
重力が働く前に壁を蹴り、スキルを発動して移動ベクトルを上方へと向ける。
そのエルメルの常識を度外視した挙動を、エルメル本人の背中から見ていた†フィフィ†は、
「ムッムホァイ! ムッムホァイ!」
自分の知っているその動きとよく似たキャラクターの発する鳴き声を口にすると。
「別に上に落ちてる訳じゃないからそのかけ声やめろ」
ネタを理解しつつも、一緒にするなとエルメルに静かに言われ。
「というか、俺よりあっちの方がそのかけ声合ってるだろ……」
と指さす先には――。
「[瞬身][縮地][翡翠][フラッシュバック][瞬身][縮地]!!」
体力を犠牲に、硬直とクールタイムを無視しながら上を目指すごまイワシの姿が。
「いやぁ、あっちはまぁ……うん」
まるで途中にでも足場があるのか、と間違うほどに、スキルを撃つたび下降をキャンセルして上空へと飛び上がるごまイワシの姿に、†フィフィ†は困惑しつつ、コメントは控え。
「うん? エルたそ! ちょっとこっち来るでござるよ!」
そうこうしているうちに天井が近づくと、何やら見つけたのかエルメルより上に行っていたごまイワシがエルメルを呼ぶ。
「なんぞや」
壁を蹴る瞬間に[羽々斬り]を発動し、より上空への勢いをつけ、ごまイワシとある程度々高さに並ぶとそこには――。
明らかに何かありそうな、真っ赤に塗られた扉が見えた。
……ただし、
「いかにもな扉だが、問題はその前よな」
「でござるねぇ」
その扉の前には、甲冑を着て、武装した蟻たちがざっと十体。
しかも扉の前は広場にはなっているものの、少なくともエルメルたちが存分に動き回れるほどのスペースはなく。
はっきりと言ってしまえば、間違いなくその広場で戦いになることは分かるものの、そこでは戦いたくないというジレンマが共存していて。
「どうする? 行く?」
と、思わずエルメルがごまイワシに尋ねるくらいには、躊躇われる光景だった。
「行くしかないでござろう。モタモタしてたら落下するだけでござるし、何より追いつかれるでござるよ」
それに対してのごまイワシの回答は、とりあえず行こう、であり。
発言の内容通り、スキルで無理矢理上った都合上、スキルを継続して撃ち続けなければ落ちるのは必然。
敏捷の恩恵によりクールタイム自体を短くしているエルメルはまだしも、体力を消費してスキルを連打しているごまイワシには明確な制限時間が存在し。
何なら、今現在の待機を続けている間にも、スキルは撃ち続けているわけで。
それを考えるならば、まだ戦闘を行う方がいいと考えた。
だから、スキルを発動し、移動を扉の前の広場へと向けた――瞬間。
ズガン!!
と大きな音が頭上から響く。
「何事でござる!?」
「ごま!! 上!!」
辺りを見渡すごまイワシだが、異変に先に気付いたエルメルにより視線を頭上に。
すると、
「聞いてないでござるよ!?」
視線の先には、しっかりとごまイワシを狙っている巨大な砲口が。
どうやら、広場という範囲に入ったプレイヤーを狙う、塔のギミックらしかった。
――が、狙われて焦るごまイワシを尻目に、エルメルは。
「ごま! もう一個上行けるぞ!!」
砲口が自分を向いていない為か、状況をしっかりと確認しており。
砲口の脇から、空間になっていることを確認。
つまり、天井だと思っていた部分が、入り込めるようになっていることを指摘する。
「了解でござるよ!」
その報告を受け、さっさと広場を蹴って再度空中に躍り出たごまイワシだったが……。
ドゥンッ!!
スキルを放つより、砲弾を撃たれる方が早く。
「うわぁぁっっ!!」
明らかに直撃するとわかり、ごまイワシよりも、背中にしがみついているマンチの方が悲鳴を上げるが。
「[クロスポイント]! [フラッシュバック]! [滑転]!!」
砲弾が放たれたことで砲口が跳ね、砲手の姿が見えた瞬間に。
その砲手をターゲットに[クロスポイント]を発動。
自身の分身が出現した瞬間に[フラッシュバック]によってスキル行動と硬直を中断し、空中で発動すると即座に地上へと移動して転ぶ[滑転]を使用することで砲弾を回避。
さらに、[クロスポイント]の特性である、自身と分身の位置を入れ替えることを選択し、エルメルよりも先に砲台の置いてあるスペースへ入り込む。
「すっげぇ無茶苦茶な動きしてんな」
一息遅れてスペースへと入り込んだエルメルがごまイワシへと声をかけると……。
「拙者絶対に落ちたと思ったでござるよ! もう無理だと諦めたでござるぅ!!」
「こっちの台詞だバカ!! お前に分かるか!? しがみついてる相手がいきなり地上に降りたと思ったら転んでる姿見る気持ちが!!」
ごまイワシと、それにしがみついていたマンチが早口かつ大きな声で先ほどのシーンを振り返り。
「まぁ、普通に入り込めたからいいんじゃない?」
「だよな」
その二人に対し、まぁ無事なんだし、となだめる†フィフィ†とエルメル。
ちなみに、砲手の蟻はそんなことをしている四人に片手間で倒されていたりする。
「おわ、めっちゃチャットが盛り上がってるでござるよ」
「いや、そりゃああんなトンデモな動きしたら盛り上がるだろうよ」
どうやらごまイワシの配信では、先ほどの動きに対するコメントがものすごい速度で流れているようで。
「あ、ギフトは落ち着いたらまとめて読むでござるよ! とりあえず感謝でござる!」
もはや読み切れないと悟ったごまイワシは、早々にギフトコメントを読み上げるのを諦めて。
「さて、ごまイワシ君」
「はいでござる」
「ここにはとても大きな大砲があるね」
「そうでござるね」
「これ、プレイヤーも使えたりしないかね?」
「……やっちゃうでござる?」
もの凄く悪い顔をしながら、エルメルとごまイワシは大砲の砲口を、赤い扉前の広場から、扉を守る甲冑蟻達へと向き調整。
「先生! 弾拾って来ました!」
「でかした!!」
周囲に落ちていた砲弾を拾い、敬礼して報告をした†フィフィ†とマンチに敬礼を返した二人は。
「今週の~びっくりドッキリメカ~!!」
「南斗人間砲弾!!」
思い思いの言葉を叫びながら、甲冑蟻達へ向けて、砲撃を放つのだった。




