越えられない壁
「荒れ狂う力の奔流。それを御する力をその身へと授け給え。[烈火の構え]!」
「静かに待て。さすれば、千載の機が訪れるであろう。[忍耐]!!」
「強欲なる仕手を担うは其の心。どこまでも欲す際限なき悪食をここに具現せよ。[貪欲な恩恵]!!」
ごまイワシの言う通り、希望するプレイヤーに強化魔法を施しているエルフ達。
そのエルフ達に魔法をかけてもらったエルメルとマンチは、
「ども」
と短くだけお礼を言ってその場から立ち去ろうとする。
もちろん、レイドボスである『森の支配者』の下へと向かうためで、それはエルフ達の望みでもあるグリーンフォレストの解放へと繋がっていることなのだが……。
「待て」
二人を引き留める声が、その場に響いた。
「何?」
「どうだ?」
「?」
引き止められてエルメルが振り返れば、引き止めたエルフからは感想を求められ。
何のことかピンと来ていないエルメルは首を傾げる。
すると、
「強化魔法の事だ。俺らの魔法はアグラディアのものより優れているだろう?」
と。
落ちこぼれだと言われていたアグラディアよりも、自分たちの方が勝っているだろう? と。
他者を見下すために、エルメル達の評価を聞こうとしていた。
……ただ、その行為は聞いた相手が悪いとしか言わざるを得ず。
およそ一般的なプレイヤーに当てはまるはずのソレが、当てはまらないプレイヤーも時には存在する。
例えば――エルメルのような。
「別に? まだ試してねぇけど、なかなかアグラの魔法越えるの難しいと思うぞ?」
「何だと?」
「かけてもらったのは攻撃アップと防御アップの追撃追加。……なるほどなるほど」
まずは率直な感想を述べたうえで、改めて自分にかけられている魔法の効果を確認。
その上で、
「攻撃アップはまぁ腐らないだろうけど他の火力極プレイヤー達より伸び率低いだろ?」
「防御アップもなぁ……。俺は多少攻撃喰らうけど、こいつに関してはマジで当たらなければどうということはないを地で行くやつだからなぁ」
「追撃追加はおっとは思うけど……素で追撃持ってるし」
「アグラの移動速度アップって、装備でもスキルでも補えないから強いし便利なわけで。あんたらの魔法みたく何かしらで同じ効果を得られるわけじゃない無二性があるから……」
と評価。
もちろん、それらの効果をNPCであるエルフから受けられるという点は当然評価すべき部分なわけであるが、どうしても速度という部分を重視するエルメル達からしてみれば評価は覆りようがない。
「あ、ただ、使えないって言ってるわけじゃねぇぞ? アグラの魔法が便利すぎるだけで、あんたらの魔法も十分恩恵はあるっつー話」
「これは俺らの考えだから、他の奴らに聞けば評価違うんじゃね? 知らんけど」
そう言うとエルメルとマンチは今度こそその場を後にし、森の支配者の方へと向かう。
悔しさからか、拳を握りしめたエルフ達を残して。
*
「じゃじゃーん。呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃーん」
「あ、エルたそ。あの鳥逃げるところでござるよ?」
エルフ達からのバフを受け、『森の支配者』の所へと急行したエルメル達にもたらされた報告は、対象が絶賛逃亡中という報告。
「遅かった?」
「ていうか戦闘から結構経ってたでござるからね。んで、移動方向はどうやらビンゴみたいでござるよ?」
「ビンゴとは?」
「アグラに確認したら、飛んでく方向に蟻塚があるってさ」
「なる。本能で餌のある方に向かってる感じか」
はるか上空を飛び去る『森の支配者』を追いかけながら四人は今後の展開を予想する。
「斥候蟻倒して餌だらけにしたら食い過ぎで倒せたりしねぇかな」
「そうなると喰いきれなかった分が俺ら襲うことにならね?」
「とりあえずは蟻塚に入るために火器を何とかしなきゃならんのでござるよ。一番は鳥に蟻塚を壊してもらえると助かるんでござるが……」
「ていうか天敵が来たんならそっちにヘイト向くんじゃない? その間にプレイヤーで工作する必要ありそうじゃない?」
追いかけながら、マンチは[オーラブレード]で追撃を試みるも、その攻撃は見えない何かで弾かれて。
他のプレイヤーの攻撃も同様に、何かしらによって弾かれるエフェクトによって『森の支配者』へは攻撃が届いていない。
「倒されるとまずいから防いでる感じか?」
「あるいは上空に何かしらの仕掛けがあるのか。最も、あの高さまで飛べないと検証出来ないでござるが」
その光景を見ながら感想を言うと……、
「いえ、あの高さまで上がれませんでしたよ。見えない壁に阻まれている感じですね」
「!!?」
と、見たことのある鷹がいつの間にか並走していて。
「ギルメン運んでくれてありがとねー」
その背中には、ゴツイスナイパーライフルを担いだプレイヤーが座って手を振っていたのであった。




