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ショートショート5月~

あれは、いいですねぇ。

作者: たかさば
掲載日:2020/05/21

祖母が入院した。


認知症がすすんだ祖母は、膀胱炎をこじらせて入院することになった。


実家に寄り付かなくなって15年。


久しぶりの対面。



15年ぶりに会った祖母は、脳みそのしわがつるっつるに伸びてしまったようだ。


私のことを微塵も覚えていない。



「おばあさん、こんにちは。」


「こんにちは。」


こんなおだやかな会話をしたことなど、一度もない。



「気分はどう?」


「いいですよ。」


私の言葉に肯定の言葉を返してくるなんて。



「ここはどうですか。」


「いいですよ。」


いいですよしかいえないのか?



「何がすきなんですか。」


「何でも好きですよ。」


繰り返すのかな?



「海は好きですか。」


「あれは、いいですねえ。」


「なにがいいんですか。」


「とても、いいですよ。」


ああ、名詞が出てこないんだ。



「空が綺麗ですね。」


「ええ、いいですね。」


空を見上げていっている。



「ごはんはおいしいですか。」


「ええ、よろしいですよ。」


ご飯の器を見ている・・・のか?



人というのは、こうして老いて逝くのかと、しみじみ、思う。

20分ほど、同じような会話をし、病院を去った。

散々私を苦しめた苛辣な人が、あんなにも穏やかになるとは。



あれはいいですねえといった海は。


私が小学生の頃泳いだ海のことだろうか。

私が生まれる前に、嫁ぎ先で見た海のことだろうか。

祖母の思い浮かべた海は、どの海だったのだろうか。





祖母を知る私だけが。


「あれは、いいですねえ」


この言葉に壮大な物語を感じる。




…言葉を失った人との会話だったというのに。


おかしなことに、私の中には、物語があふれた。

祖母を知る私だからこそ埋めることができる、単語の消え去った物語。





いまだなお、壮大な物語は、続いている。



祖母の残した、「あれは、いいですねえ」の、物語。



完結することなく、私の脳みそがつるっつるになるまで、続く、物語。

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― 新着の感想 ―
[一言] 年取ると幼児退行っていうか、丸くなるよね。
[良い点] 想像力が豊かで読んでるほうも想像力が掻き立てられます。 [気になる点] いいですねぇ [一言] あれ、あれだよあれ。なんだっけ?
2020/05/21 20:08 退会済み
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