第98話 沙崙の決断
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8月最初の投稿です!
いじめ問題によって揺れていた大谷津学院だったが、遂にその事件に終止符が打たれた。沙崙の両親も交えた話し合いで、真樹が制服に小型カメラを仕掛けたことによって金町、茉莉奈、裕也の反省や罪悪感のなさはバッチリと録画され、追い詰めることがだ来たのだった。その後、沙崙一家は茉莉奈や裕也の両親とも交渉を行い、心の傷を負わされたことによる慰謝料を請求。結果、八広家からは日本円で500万円、大和田家からは300万円の慰謝料の支払いが決まり、更に金町からも虐めを無視して加害者生徒に加担していたことから500万円の慰謝料を請求することができた。話し合いの翌日、真樹は立石に職員室に呼び出されて話をしていた。
「湯川君。あなたのお陰で学校の闇を一つ解決で来たわ。ありがとう。」
「呼び出されたと思ったらそんな話ですか。別に大したことはないですよ。」
「もう、少しは愛想よくしたら?って言っても無駄か…。」
相変わらずツンツンしている真樹に対し、溜息交じりにそう言った立石。しかし、立石には一つ疑問があった。
「あと、湯川君。一つ聞いていい?」
「まだあるんですか?」
「ええ。あなた、鬼越さん以外の女子は嫌いって言ってる割に、どして陳さんを助けようと思ったの?あんなリスクを背負ってまで。」
普段から慶以外の女子とは険悪になっている真樹だが、沙崙に対しては最初こそがっかりしたものの、結果的に味方をして彼女の力になっていた。真樹は少し間を置いてから答える。
「実は、俺も良く分かんないんですよね。ただ、陳さんと話していても嫌悪感みたいなのは感じなくって…オニィと初めて話した時と似ているような…やっぱり分かんないっす。敢えて言うなら、八広をとっちめたかったって言うか…。」
真樹にも答えが分からなかった。しかし、立石は微笑みながら真樹に言った。
「まあいいわ。あなたのお陰で一人の命と学校生活が救われたんだし。教師としてありがとうと言わせて。」
「そんなのいいっすよ。じゃあ、後何もなければこれで。」
そう言って真樹は教室に戻り、立石は自分の仕事に戻ったのだった。
その後、沙崙虐めに加担した者たちには遂に処分が下された。まず、茉莉奈は暴行や言葉による嫌がらせがあまりにも悪質と判断され、数人の取り巻きも含めて退学処分となった。当の茉莉奈もネットで首謀者であることが特定され、一家そろって地元にいられなくなり、遠方へ逃げるように引っ越して行ったのだった。金町の方も、留学生を受け持つ国際科の担任でありながら沙崙を雑に扱い、加害者ばかり贔屓していたこと、更に「たかが生徒」発言が決め手となり、懲戒解雇となってしまった。裕也も頻度こそ少なかったものの、茉莉奈達から暴行を受けていた沙崙を助けようともせず、逆に暴行に加担したとして、1カ月の停学処分を受けた。更に、これだけでは終わらなかった。この事件はアジア全域だけでなく、欧米諸国にも拡散されて猛烈に批判を浴びた。そして、この事件を知った大谷津学院の交換留学先である英語圏の学校から「留学生を虐める学校には任せられない」というクレームと共に協定校契約も打ち切られてしまった。結果、今年の夏休みの短期留学は中止になった。これだけにとどまらず、茉莉奈、金町、裕也等沙崙虐めに関わった生徒に関して、台湾総領事館が怒りをあらわにしており、「台湾や台湾人に対する明確な偏見や敵意がある」とみなされ、全員に10年間のビザ発給停止及び入国禁止措置を取ったのだった(台湾の場合、観光であれば90日以内の滞在はビザ無しで渡航可能)。勿論処分が厳しすぎると抗議の声が上がったが、真樹の映像が証拠になっているので、もう言い逃れはできない状態だった。それから少ししたある日、飯田は成田を訪れて、沙崙一家と真樹と共に喫茶店でお茶を飲んでいた。そして、沙崙一家に優しく声をかけた。
「やりましたね。記事の評価もうなぎ昇りだし、虐めを暴いて首謀者達を追放することができた。記事のコメント欄でも陳さんを応援する声がたくさん来ているよ。これでもう、堂々と学校に通えるんだよ。」
「はい、ありがとうございます。飯田さん!」
沙崙は飯田にお礼を言った。飯田は首を振りながら続けた。
「いやいや、全ては湯川君が情報提供してくれたおかげだよ。むしろ僕も助けられたくらいだ。」
「俺は別に難しいことは何もしてませんよ。」
真樹はそう言ったが、健豪と玉華は深々とお礼した。
「湯川君、本当にありがとう。娘の笑顔を取り戻してくれて、本当に感謝しかない。」
「この学校にあなたみたいな生徒がいてくれてよかったわ。ありがとう!」
「あ、いや…。どういたしまして。」
普段褒められ慣れていない真樹は照れ臭そうにそう返した。そして、誤魔化すように別の話題を持ってきた。
「所で陳さん。今君には3つの選択肢があるぞ。」
「選択肢?どういうこと?」
真樹の言葉に首をかしげる沙崙だったが、真樹はそのまま続ける。
「今後の事だ。台湾に帰るか、本来行くはずだった岡山の高校に転校するか、うちに残るかだ。立ち直ったとはいえ、心の傷のいやしは必要だろうから、この3つの道があるんだが、陳さんはどうしたい?」
真樹は決して沙崙を追い出したくてこの選択肢を用意した訳ではない。痛めつけられて、嫌な思い出と共に大谷津学院で過ごすより、一度全てをリセットして心の傷を治した方が沙崙の為になるだろうという理論に基づいてこういう提案をしたのだった。しかし、沙崙は迷うことなく答えた。
「そんなの決まってるじゃない。私は大谷津学院に残るわ。」
「陳さん、それでいいの?まあ、首謀者は一掃されたけど…。」
飯田も心配そうに沙崙に聞いた。しかし、沙崙は堂々と続ける。
「確かに最初は嫌なことばかりだったけど、この学校にも良い人達はいて私はそれに助けられた。湯川君や公津君も良くしてくれたし、慶や美緒と遊んだのは楽しかったし…。みんながいるからもう怖くないわ。もっと仲良くなりたいし。」
沙崙の話しに、健豪と玉華は頷きながら言った。
「お前がそうしたいなら、私は応援する。湯川君、他の子達も娘を頼んだと伝えてくれ。」
「私も応援するわ。でも、辛いことが当たらいつでも連絡頂戴。」
「ありがとう、父さん、母さん!」
沙崙は笑顔で両親にそう言った。その様子を飯田と真樹が笑顔で見ている。
「よかったね、湯川君。捨て身の戦法だったけど上手くいって。」
「はい。飯田さんも俺みたいな子供の相談に乗ってくれてありがとうございました。」
「全然大丈夫。ジャーナリストはどんな人からの情報も大事にしないとね。僕は湯川君に感謝しているよ。」
「そ、そんな。どうどういたしまして…。」
真樹は照れ臭そうにそう言った。後日、沙崙は成田空港から台湾へ帰国する両親を見送り、メディアを通して「確かに虐められて辛かったが、味方になってくれた人もいた。首謀者は処分されたし、親切にしてくれた人の恩返しも含めて、引き続き大谷津学院で頑張りたい。」というコメントを残した。そして、立石の計らいによって沙崙はA組に引き取られることになった。こうして事件は解決し、平和な方向へ向かって言ったのだった。ある朝、真樹が成田駅の改札に着くと、慶が話しかけてきた。
「おはよう、真樹!」
「おう、オニィおはよう!」
「良かったね、沙崙。元気を取り戻せて。」
「八広や金町、大和田が処分されたからな。スカッとしたわ。」
「そうだね。僕も沙崙が来てくれて良かったと思ってるよ。話していると楽しいし。」
「ああ。良い留学生活を過ごせることを祈ろう。」
そう話しながら二人は学校へ向かい、この日もいつもの1日が始まる。
放課後。野球部の練習前。
「おい、真樹。これはどういう事だ?」
「ちょっとびっくり何だが。」
「いいじゃねーか。本人が志願したんだから。」
武司と伸治が真樹にそんなことを聞いていた。顧問の関谷は練習前に部員前任をベンチ前に集めた。そして、関屋の隣にはジャージを着てストップウォッチとバインダーを持った沙崙が立っている。そして、関谷が話し始めた。
「えーみんな。多分ここにいる全員は顔見知りか…。今日から陳さんがうちの野球部の臨時マネージャーを担当することになった。仲良くしてやってくれ。陳さんも宜しく。」
「はい!改めまして陳沙崙です。台湾も野球が盛んで、私の地元の台南にも台湾リーグのプロチームがあります。なので私も野球好きですし、一度野球部の皆さんに迷惑をかけたので今度は貢献したいです。宜しくお願いします。」
沙崙が挨拶すると、部員たちが拍手をした。そして、関屋が言った。
「陳さん。気になることがあったら遠慮せずにどんどん教えて欲しい。」
『分かりました、任せて下さい。」
「よーし、まずはランニングからだ。準備運動しとけ!」
関屋がそう言うと、部員たちはストレッチを始めた。沙崙は真樹近づいてきて言った。
「ありがとう、湯川君。取り合ってくれて。」
「気にすることはないよ、陳さん。」
元々野球好きな沙崙は、野球部のマネージャーになりたいと真樹に話した。そして、二人で職員室に向かって関屋にその事を伝えたところ、関屋は笑顔で承諾してくれた。こうして、臨時マネージャー陳沙崙が誕生したのだ。
「それとさ、私の事は沙崙って呼んでいいわ。だから、湯川君の事を真樹って呼んでもいい?」
「別にいいぜ、沙崙。」
「ありがとう、真樹。」
そんな話をしているうちに、野球部の練習が始まった。部員は勿論、臨時マネージャーの沙崙も笑顔でいることから、本当の意味で彼女の楽しい留学生活が始まったのだった。
こんにちわ!
「留学生を救え?!」は終了です。
次回から新章です。
お楽しみに!




