第90話 作戦決行の朝
こんにちわ!
そろそろ本格的な反撃が始まります!
沙崙と同じ団地に住む山田四朗が、日頃から彼女にしつこく付きまとったことが原因で逮捕されたことはすぐに各メディアによって報道された。真樹は、そんな山田の情報を夕方のニュースで知ることなる。日曜日の夕方、家でくつろいでいた真樹は夕方のワイドショーを見ていた。
『同じ団地に住む女子高生にしつこく付きまとい、逆らうとひどい目に遭わせるなどと脅迫したとしとして、千葉県成田市の職業不詳、山田四朗容疑者(34)が逮捕されました。調べによると、山田容疑者は、今年の4月から同じ団地に引っ越してきた10代女子高生に対し、しつこく交際を迫り、断った際はただじゃおかないという因縁をつけて脅迫した模様です。調べに対し山田容疑者は「彼女の引越し時に優しい笑顔を見せたので、自分に気があるのだと思った。自分より先に他の人と仲良くなることが許せなかった。」と容疑を認めている模様。尚、山田容疑者は以前から近隣住民との金銭トラブルも相次いでおり、警察は余罪も含めて調査している模様です。』
山田が逮捕されたきっかけとなったのは、やはり沙崙がこっそり隠し撮りした映像だった。慶、美緒と遊びに行く前に、3人は再び警察署を訪れてスマホで隠し撮りした映像も提出した。動かぬ証拠を前に流石の警察も何もかも知らないと言う訳にはいかず、令状を発行して即時逮捕に踏み切った。自宅にてそのニュースを見ていた真樹は、少し安心した様子で煎餅をかじりながら言った。
「よし、あのストーカー野郎は無事に逮捕された。後は八広達だな。」
真樹は入学当初から元々茉莉奈の事が好きではなかった。そして、茉莉奈の方も真樹の様な非モテで陰キャな男子は初めから仲良くなれると思っていなかった。普通科と国際科とういう差があるので、普段から両者が接する機会は少ないのだが、茉莉奈は女性としての自信があるだけではなくて真樹の様な暗い性格の男性を極端に嫌っていた。まずは沙崙への牽制として山田が逮捕いされるように作戦を企てたのだが、それでも真樹は茉莉奈への反撃を諦めていなかった。
「とりあえず、山田の野郎は逮捕で来たけど、問題は次だな。いかにあいつらにバレない様に成敗するかが重要だ。全ては明日だな。」
真樹はそう言いながらテレビのニュースを見続け、その後多恵に言われて風呂や夕飯の準備を進めたのだった。沙崙を救い、茉莉奈に天罰を下す為の真樹の作戦はまだ終わってはいなかった。
翌日の月曜日の早朝。真樹は普段よりも1時間早く成田駅に到着していた。当然ながら時間帯的に大谷津学院の生徒はおらず、駅を行きかう人々の数もまばらである。そんな早朝の駅の改札で真樹が立っていると、寝起きの慶が改札から出てきた。
「ふあぁ…おはよう真樹。」
「おはよう、オニィ。こんな朝早くに呼び出して悪かったな。」
「いや、別に大丈夫だけど…。それにしても、今日は何をするの?」
「決定的な証拠をつかむんだ。まぁ、もう少し待っていれば分かる。それと、一昨日は警察署に言ってくれてありがとうな。」
「全然だよ。僕もあの山田って人から沙崙を助けたいと思ってたし。あの子がスマホで隠し撮りした映像のお陰で警察が動いてくれて助かったよ。」
2日前、沙崙は慶と美緒と一緒に出掛けた時に山田に絡まれた。その時にこっそりスマホのカメラを起動させて山田の行いを記録しており、遊びに行く前に警察署に立ち寄ってその映像を警察に提出した。結果、それが動かぬ証拠となり、以前提出された被害届もあって正式に令状が発行され、山田は逮捕されたのだった。しばらく待ていると、大谷津学院の制服を着た沙崙が現れた。
「おはよう、湯川君。慶。」
「おう、陳さん。朝早くに悪いな。」
「沙崙おはよう。よかったね、山田が逮捕されて。」
沙崙は真樹と慶に挨拶をした。茉莉奈達からひどい仕打ちを受けた直後はすっかり元気が無くなっていたが、真樹達が味方についてからは徐々に元気を取り戻しつつある。沙崙は少し微笑みながら真樹と慶と会話を続けた。
「うん。もう大丈夫かも。問題は一つ解決したし、私の為にここまで協力してくれる人がいる以上、私もそれに応えなくちゃいけないわ。だから気にしないで。」
沙崙がそう言うと、少し離れた所から息を切らせた男性の声が響いてきた。
「はぁ、はぁ…ごめん、遅くなって。作戦考えた僕が一番遅くて申し訳ない。」
走ってきたのはオリエント通信の台湾担当である専属ジャーナリスト、飯田である。飯田は今回の作戦を決行するにあたって前日の夜から成田市内のホテルに宿泊していたのだった。
「おはようございます、飯田さん。あ、紹介します。僕の友達で同じクラスの鬼越慶さんです。」
「初めまして。鬼越慶です。宜しくお願いします。」
真樹は飯田に慶の事を紹介した。すると、飯田の方は何かを思いだひたような表情で言った。
「初めまして、飯田です。あ、もしかして君は北千住でひったくりをした声優の浦賀美優を捕まえた子だよね。ニュースで見たよ。お手柄だったね。」
「そうですけど…なんか恥ずかしいですよ。」
飯田に浦賀美優を確保したことを言われて照れる慶。そして、飯田は真剣な表情になり、真樹達に言った。
「今は人が少ないとはいえ、ここじゃ怪しまれる。場所を変えよう。」
そう言って4人は駅舎を出て、人気が無い物影に場所を移した。そこで、飯田が再び説明を始める。
「前にも話したかもしれないけど、記事にするには決定的な証拠が必要だ。今日一日、陳さんには我慢して貰うことになるけど、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。私も覚悟はできています。」
沙崙のその言葉を聞いて飯田は頷きながら言った。
「分かった。じゃあ、陳さんにはこれを付けて学校に通ってもらうよ。」
そう言って飯田は沙崙に何かを手渡した。それは先端に小さなレンズが付いており、その下からは細長いケーブルが伸びている。合計で3つ、その謎の機械を渡された沙崙に飯田は説明を始めた。
「それは超小型カメラだ。僕達は仕事上危険なスラム街や、マフィアのアジトへの潜入捜査も行うから、そういった時にばれないようにするための必需品なんだ。かなり頑丈にできているし、防水加工も完璧だからちょっとやそっとじゃ壊れないから安心して。これで証拠映像を撮って、いじめっ子達にお灸をすえてやろうよ。目立たない所に仕掛けておけば大丈夫だから。」
「分かりました。じゃあ、仕込んできます。」
沙崙はそう言うと、近くにある公衆トイレに向かった。しばらくすると、仕込みを終えた沙崙が戻ってきた。
「お待たせしました。これでどうですか?」
小型カメラを仕掛けた沙崙はそう言った。見たところ、どこにカメラを仕掛けたのかぱっと見では分からない。
「うん、いいね。これならバレることは無いと思うよ。」
飯田はそう言い、真樹と慶はカメラがどこに仕掛けられているか分からず、戸惑っている。
「全然分からねぇ。カメラどこ?」
「僕も分からない。参った、お見事だよ…。」
「えっとね。ここと、ここと、ここよ。」
沙崙はカメラを仕込んだ場所を指差した。因みに仕込んだ所はブレザーの襟の左側、制服のリボンの中央、スカートのウエスト部分の中央の3か所である。見た目からは、とてもカメラが搭載されているようには見えなかった。飯田も微笑みながら言った。
「よし。後は学校で自然に過ごして、いじめっ子達の証拠映像を撮れれば完璧だ。捨て身の作戦になるけど、協力お願いします。」
「分かりました。大丈夫です。」
沙崙は力強くそう言った。こうして、茉莉奈達を成敗するための作戦が決行されることとなり、真樹、慶、沙崙の3人は普段通り学校へ向かい、飯田は再びホテルに戻って待機することとなったのだった。
こんにちわ。
いよいよ、占有作戦が始まります。
茉莉奈達に制裁を加えることができるのか?
次回をお楽しみに!




