第64話 年明けへの準備
おはようございます!
今年最後の投稿です!
皆さん、よいお年を!
「はい、カット!皆さん、お疲れ様でした!」
アニメのアフレコスタジオで、大門は大きな声でそう言った。年明けが段々と近づいているが、この日もダイノイドの収録は行われた。そして、この日の収録は特に問題なく順調に進み、ダイノイドのキャスト、スタッフはこれで今年の仕事納めと言うことになる。
「ふぅ、今年も終わりか…。」
智子はヘッドフォンを外しながらそう呟く。仕事が無く、唯一の準レギュラーも終了したことにより、声優から足を洗った状態で年末を過ごすと当初は思っていた。しかし、弟の後輩である真樹によって大門と知り合い、実力を見込まれてこうして今、アニメでレギュラーを獲得して仕事に励んでいる。
「湯川君には、感謝しかないわね。」
無名声優である自分の事を良いと言ってくれただけでなく、偶然だったとはいえこうして大門を紹介してくれた真樹を智子は嬉しく思った。そんなことを考えながら智子は台本を閉じ、ブースを出て身支度を始めた。
「智子さん、お疲れ様です!いやぁ、気合いっぱいでしたね!僕も、戦闘シーンであれくらい感情こめられるようになりたいです!」
そう声をかけたのは若い男性声優だった。彼は寺野勝。ティラノイド役の声優で、年は智子の一つ下。彼もまた主要キャラを担当した実績は無かったが、オーディションで大門に見込まれて役を勝ち取った。
「寺野君、ありがとう。でも私もまだまだよ。こんな長いセリフ、今までやった事無かったんだし。」
智子は微笑みながら謙遜した。すると、他の声優陣も智子の所に集まってきた。
「そんなことないですよ。智子さんが来てくれたおかげで、みんな本当に助かっているんですから。」
長髪に眼鏡をかけた男性声優がそう言った。彼は日野海人。スピノイド役の声優で、年は智子の2つ上。主に吹き替えをしているが、大門がオファーをかけて今回アニメ初レギュラーとなった。
「僕も智子さんと一緒だと、やりやすいですね。アフレコ中は本当にデリジノイドと直接やり取りができてるようで、自然とセリフが出てくるんですよ。」
そう言ったのは色黒で濃い顔立ちの男性声優だった。彼は生田雄一。年は智子の一つ下で、今回はイグアノイドの役を担当している。彼も大した実績は無かったが、事務所主宰の声優朗読劇を見に来ていた大門に直接スカウトされた。
「智子ちゃん、最初デリジノイドの役が決まらなかった時はどうなるかと思ったけど、智子ちゃんになってよかったと思うわ。安心して京太郎になりきれるの!」
ショートカットの女性声優が笑顔でそう言った。彼女は正田里香。主人公である小学生の少年、京太郎役である。メインキャスト最年長の33歳で、主のゲームやナレーションの仕事をしているが、少年役の上手さが大門の目に止まり、主人公に抜擢された。
「みなさん…いえいえ!まだまだ経験不足なんで、今後も頑張ります!でも私も皆さんと収録で来て楽しかったです!」
すっかり現場に打ち解けた智子は他の声優陣とも仲良くやっており、日々切磋琢磨している。和気藹々な感じで話していると、大門が智子たちに声をかけた。
「みなさーん。準備できましたか!この後はお待ちかね、忘年会ですよ!」
今年の収録が全て終わり、大門はこの収録後に忘年会を企画していた。身支度を終えた智子たちは、大門達と共に楽しい忘年会を過ごし、来年に向けてリフレッシュしたのだった。
ある日の朝。
「よーし、雨は降ってない!ランニングし甲斐があるぞ!」
時刻はまだ朝の5時前だが、慶は自室の窓から外を見ると、元気な様子でそう言った。そして、寝まきからトレーニング用のジャージに着替え、軽く準備体操をすると部屋を出た。すると、隣の部屋から慶の両親である進と悠が起きてきた。
「慶…どうしたんだ?こんな朝っぱらに…。」
「まだ5時よ。ゆっくり寝てていいのに。」
慶が部屋で準備体操していた時の物音で目を覚ました両親は、眠そうにそう言った。しかし、慶は首を振りながら言う。
「今からランニング行って来る。年明けまで練習ないし、身体が鈍るの嫌だから動かさないと。」
それだけ言うと、慶は玄関に向かって歩きだした。陸上部は年内の練習をすべて終えた為、こうして慶は自主トレをしている。そんな慶に、両親は声をかけた。
「暗いから、足元気を付けるんだぞ。」
「寒いから、くれぐれも風邪引かないようにね!」
「うん。分かったよ、父さん、母さん!」
それだけ言うと、慶は家を出た。12月末の早朝と言うだけあって日はまだ出ておらず、空気もかなり冷え込んでいる。しかし、慶はそんなことは気にせずに軽くアップを済ませると、暗い道路を走り始めた。走りながら慶は、ふとある事を思い出す。
「そう言えば、真樹が苦手だって言ってたトライスターズの子とうちのお母さん、名前一緒なんだよね。うーん…まぁ…たまたまなんだけど。」
トライスターズの大津悠と自分の母親の名前が同じであることに気付いた慶は、終業式の日に真樹と杜夫の3人でアニメの話をしたのを思い出した。真樹は勿論、智子が出ている大門のダイノイドを支持していたが、杜夫はトライスターズ3人が出ているハーモニーエンジェルを推していた。
「僕も正直、トライスターズの良さがよく分かんないな。何もかもが中途半端な感じがして。」
慶も真樹と同意見だった。音楽番組でトライスターズの歌を聞いた時も、アニメでの演技を見た時も慶の心に刺さるものは一つもなかった。そして、真樹から大津悠の中学時代の悪行を聞いたこともあり、良い印象を持つことができなかった。
「でもまぁ、来年のアニメじゃ智子さんが出ているダイノイドが楽しみだな!智子さん、頑張ってほしいな!」
慶はそう言うと、走るペースに加速をかけた。ようやく朝焼けが見え始めた年末の街を、慶は楽しそうに走り抜けたのであった。
一方、真樹はと言うと。
「ああ…。今年も終わっちまうな。時間過ぎるの早いな…。」
「そうだな。俺はいろんな事件に巻き込まれすぎて、余計時間過ぎるの早く感じたわ。」
昼過ぎのゲームセンターで、佳久と共に過ごしていた。1年を振り返る佳久に対し、真樹はやや自虐的にそう言った。
「いやぁ、翔真のあれは凄まじかったな。あの状況作っただけじゃなく、バレずに対処するなんて。」
「どうだ佳久?あれから平和になただろ?うちも市川に鉄槌下せて、あいつのせいで学校来れなくやった奴も戻ってきたよ。」
「まぁ、そうだな。間違いなく治安は良くなった。」
格闘ゲームで対戦しながら二人はそんな話をしていた。実際翔真が退学になってから佳久の方も機嫌がよく、学校で楽しく過ごしているようだ。対戦を続けながら、真樹は佳久にある質問をする。
「なぁ、佳久。」
「ん、どうした真樹?」
「お前、大津の事覚えてる?」
二人は中学の同級生なので、当然悠は佳久とも顔を合わせている。最近やたらトライスターズを色々な所で見かけるので、佳久に悠の事を聞いてみたら彼は頷きながら言った。
「勿論だ。忘れる訳ねぇだろあんな奴。」
「最近よく見かけるからな。まぁ、肝心の実力はお察しの通りだが。」
「あいつ、デビューしてから欠席や早退が増えたじゃん?何回ノートを勝手に取られて、揚句の果てにボロボロにされた事やら…。」
「あったな、そんなことも。しかも、あいつ今人気だからって自分が若手ナンバーワンだと勝手に思ってるみたいだしな。いつ見ても気に入らねぇ。」
真樹だけでなく、佳久もやはり悠に対してはいい印象を持っていなかった。しかし、そんな二人の評価と反比例して、悠たちトライスターズ3人が出演するハーモニーエンジェルはネット上でかなり期待されていた。世間的には杜夫の様に、出演する声優で見るアニメを決める人は一定数いるみたいであった。
「そりゃぁ!そこだ!」
「えっ?!ちょ…わぁー負けた!」
佳久のキャラクターが切り札となる必殺技を決め、真樹のキャラクターをノックアウトした。結果は佳久の勝利である。
「へへへ、どうだ?」
「参ったな…。完敗だ!」
「真樹、この後どうしようか?」
「うーん…スポーツ用品見に行く?」
「お、良いね!」
そう言って二人はゲームセンターを後にし、スポーツ用品コーナーへ足を向けた。今年が終わろうとしている中、それぞれが来年に備えて、年末を過ごすのであった。
ダイノイド紹介
イグアノイド
・イグアノドンのDNAが組み込まれた3号機。一言でいえば脳筋その物だが、不器用で口下手な所もあるなど、どこか人間臭さが垣間見える。単純な馬力だけならダイノイドの中でもトップクラスで、強敵相手でも怖気ずに突っ込んで行く。メインカラーは黄色。
デリジノイド
・デリジノサウルスの遺伝子が組み込まれた4号機。採取したDNAが雌の物だったので女性型の人格を持っている。しっかり者の姉御肌と言った性格で、いざという時ダイノイドのまとめ役になることもある。他のダイノイドに比べてパワーは無いが分析力に優れ、近接戦闘よりも遠隔攻撃が得意。メインカラーは緑。




