第40話 嬉しいのかな?
こんばんわ!
暑いですね。
夏バテに気をつけましょう!
思春期である10代半ばになれば、恋人が欲しくなる人も出てくるだろう。特に少女漫画などに多くみられるのが10代の若い男女による学園内での恋愛模様だ。そういう影響もあるのか、高校生、早い者では中学生から彼氏彼女が欲しいという考えが芽生え始める。しかし一方で、恋人が欲しいのにモテなすぎて恋愛とは無縁な生活を送らざるが得ない者もいる。そして、モテず、異性から好かれない生活に不満を抱く者も一定数存在する。今回の例をあげれば杜夫がそうだ。彼は痩せ形の体に角刈り頭、色白すぎるというお世辞にもモテ男とは程遠い見た目の上、運動神経も皆無で勉強も常に最下位位争いをするほど苦手だ。しかし、彼は恋人が欲しいという気持ちだけは一人前であり、女子の比率が高い大谷津学院で常に出会いを求めている。体育祭の時は自分の活躍を見せて女子の目を引こうとしたり(結局大した活躍はできずに失敗に終わったが)、今回は謎の手紙を自分へのラブレターと解釈し、手紙に記されていた連絡先を登録し、ユキと名乗る女性とやり取りをしたことですっかり浮足立っていた。そんな杜夫を見て真樹は勿論、慶ですら不自然さを感じていた。杜夫は女の子と親しいやり取りを二日間も続けたことで、自分に春が来たと完全に頭の中がお花畑になっていた。真樹はそんな杜夫を見守っていたが、嫌な予感が拭いきれないでいた。
(クソぉ、ユキの正体さえ分かればそこから潰すこともできるのに手掛かりゼロか…。)
そんな真樹は今、放課後の野球部の練習に参加している。杜夫は手紙をもらってから3日立っても尚、ユキとやりとりをしている。そして、こんなこと話したとかユキちゃんはこんな子なんだとかそういう話ばかり真樹は聞かされているが、真樹はこれこそ手紙の送り主の狙いなんじゃないかと読んでいた。真樹は幼少期に様々ないじめを受けていたが、一度喜ばせておいて後に地獄へ突き落されるという経験も嫌と言うほど経験した。なので真樹は直感で今回の件がただ事ではないと踏んでいた。ランニング中にそんなことを考えていると、隣を走っていた中山伸治に声を掛けられた。
「おーい、真樹!」
「ん、どうした?」
「いや、ずーっと深刻な顔して走ってたからまた何かあったのかなーって思って。」
「まぁ、少し考え事をな…。」
「そうか。悩みなら聞いてやらんでもないが…。」
「じゃあ、後で聞いてくれるか?」
「お、本当なのかよ?!」
そんなやり取りをしながらランニングは終了。続いて腹筋や腕立てといった筋力トレーニングをこなし、素振りを終え、キャッチボールに入る。真樹は大体伸治とキャッチボールを行うことが多いのだが、この日もそうだった。伸治は先程真樹が言っていたことが気になって声をかけた。
「なぁ、真樹!お前何悩んでんだよー!」
ボールを真樹に投げながら質問する伸治。真樹はボールをグラブに収めると、持ち直して投げ返しながら答えた。
「伸治ー、お前女子から手紙をもらったら嬉しいかー?」
伸治にボールを投げ返しながらそう質問した真樹。伸治は真樹からそんな言葉が出ると思っておらず、びっくりして一度グラブに当たったボールを落としてしまった。
「は、はぁ?真樹、お前、何言ってんだ?」
「いいから質問に答えろ!後、ボールよこせ!」
伸治は戸惑いながらもボールを拾う。そして、真樹に投げ返しながら答えた。
「そりゃ、嬉しいぜ!ってゆうか、お前以外の男なら女子から何かしらのプレゼント貰ったら喜ぶのが普通だぞ!」
伸治の投げた球を受け取る真樹は、その返答を聞いてなるほどと思った。このくらいの年齢の男子は女子からもらいものをするのを喜ぶ人が多いと実感した。と、同時にだからこそ騙されてしまう男も多いのだと実感した。こうして真樹は深刻な顔のまま伸治とのキャッチボールを続け、相手の伸治からは不思議がられたのだった。
野球部の練習はそれから問題無く進み、最後のフリーバッティングの時間になった。そして、真樹は自分の打つ番を待っていたが、先に打ち終えた伸治が打席から戻ってきて真樹に問う。
「なぁ、真樹。さっきの意味って何だ?」
伸治としては恋愛に興味のない、ましてや極度の女嫌いの真樹がそんなことを聞いてくることが信じられなかった。一体何があったのか気になっていた伸治だが、真樹は冷静に話し始める。
「実は…もしかしたら聞いているかもしれないが、杜夫が謎の女性から手紙もらったって話しは知っているか?」
「ん?ああ、聞いた聞いた!いいなぁ!ユキちゃんだっけ?俺も女子からラブレターもらいたい!」
伸治も杜夫がラブレターをもらったと思い込んでおり、羨ましがっていた。真樹はそんな伸治の様子を見て呆れながら溜息をついた。
「はぁ、そんなことを聞いてるんじゃない。本当にそれ以外何とも思わないのか?」
「どういうことだよ、真樹?」
伸治は首をかしげながら真樹に問う。
「大和田みたいに見た目が抜群にいいとかならともかく…友達の俺が言うのも失礼だが杜夫に何の面識もない他校生の女の子がいきなりラブレター渡してくるなんて不自然だと思わないか?しかも、あいつが彼女欲しいなんて言いまくってる時に。」
伸治は真樹にそう言われて何か引っかかることがあったのか「確かに…。」と頷きながらそう答えた。そして、伸治は真樹に一番聞きたかった事を聞いたのだった。
「真樹はどう思うんだ?杜夫のラブレター。」
「あくまで推測でしかないが、何か裏がある。もしかしたら杜夫を嵌めようとしている誰かがいるのかもしれない。」
真樹のその言葉を聞いて伸治は唖然とした。大抵の男性は女性から物をもらうということは、自分にもしかしたら気があるのかもと考えてしまうかもしれない。ただ、そんな男性の気持ちを弄ぶ者がいるとしたら恐ろしい事である。結婚詐欺がいい例だろう。そんな話をしていると、『一人の野球部員が話しかけてきた。
「伸治に真樹、何二人で深刻な顔してるんだよ?」
話しかけてきたのは真樹達の1学年上の先輩部員である堀切だった。堀切はかつて、真樹が丘ユカリに濡れ衣を着せられた際、真樹の無実の証言をしてくれた一人だ。打撃練習を終えて心配そうに近づいてきた堀切に対し、真樹は正直に話し始める。
「あ、堀切先輩。実は…。」
真樹は堀切に杜夫のことを説明した。堀切は真樹の説明を聞きながら「フンフン、なるほど。」と相槌を打ち、真樹が説明を終えると難しそうな顔をしながら言った。
「うーん。確かに変かも。それに、なんか回りくどいような気もするし…。大体、手紙を託されたって子は真樹と同じ1年生なんだろ?何で名乗り出ないんだ?」
「やはり、変ですよね。」
「まぁ、怪しいな。名前がばれたらヤバいのかもな。」
「でしょうね。何とかそのユキとか言う女の正体を暴きたいんですけど、なかなか手掛かりがつかめません。もう一度説得して杜夫に連絡をやめさせるしかありませんね。」
杜夫はもうすっかり手紙を恋のキューピットの贈り物だと信じ切っていおり、真樹は早いうちにその正体を調べたいと思っていた。しかし、ユキの手がかりがつかめない以上、騒動を起こさないためには杜夫にもうユキと連絡を取らないよう説得させる以外にないと思った。
「おーい、湯川!次お前の番だぞ!」
「あ、すいませーん!聞いてくれてありがとうございました、先輩。」
真樹は堀切に礼を言い、フリーバッティングのためにバッターボックスへ向かった。とんでもないことに巻き込まれそうな森をお心配しつつ、何とか危険を回避できないか考えながら、真樹はバットを振り続けたのだった。
こんばんわ。
果たして、真樹は杜夫を説得できるのでしょうか?
次回もお楽しみに!




