第303話 大和田家の秘密
こんにちわ。
今月最後の投稿です。
大和田裕也。彼は大谷津学院高校の3年生の男子生徒である。プロのモデルや俳優ですら怖気づくほどの容姿端麗の美少年であり、勿論学校中の女子からはモテモテである。学力においては同学年の真樹や美緒には及ばないものの、常に学年の10位以内に入っており、高い水準を維持している。部活はサッカー部に所属し、エースとして今年度もチームを関東大会に導いた。これだけ聞くと完璧な人物に思えるが、唯一の欠点を挙げるとするならば、完璧であるが故のプライドが高すぎる性格である。自身のお気に入りにはyく接する一方、気に入らない、邪魔者と判断するならば徹底的に痛めつけたり暴言を吐くなど、教師ですら手に負えないことも日常茶飯事だ。そんな彼の実家は、世界的大財閥の大和田コンツェルンなのだが、裕也は現在自宅で両親と共に夕飯を食べようとしていたのだった。
-19:00 大和田家の食卓-
「お帰りなさいませ。旦那様、奥様。」
大和田家の執事である山本が、壮年の男女を丁寧な姿勢で出迎えた。それに対し、夫婦と思われる男女が答える。
「ああ、ありがとう。」
「裕也が待ってるわ。早く夕飯にしましょう。」
そう言って男女は上着を山本に預け、食卓の椅子に座った。すると、その数分後に裕也がドアを開けて現れた。
「お。親父にお袋、帰ってたんだ。」
「ああ、仕事が上手くいって時間通りに帰れたんだ。」
「裕也もお帰り。さ、お腹すいたから一緒にご飯にしましょ。」
まるでヨーロッパの王室の様な広々とした食卓で、そのように話す裕也たち。そう、この男女こそ裕也の両親である。スーツを着て口ひげを生やしている男性は大和田圭一郎。裕也の父親だ。代々続く大和田コンツェルンの現当主であり、世界中の政治家や大企業の社長を手玉にとれるほどの影響力を持っている。そして、眼鏡をかけたロングヘアの女性は大和田美千代。裕也の母親である。若い時は主に海外で女優やモデルとして活動していたが、大和田家主催のパーティーに招かれたことで圭一郎と知り合い、そのまま結婚に至った経緯がある。そう話しているうちに夕飯の準備が整い、山本と執事の仲間が大和田親子に料理を運んできた。
「皆様、お待たせいたしました。本日の夕飯はフランスから取り寄せました、高級鴨肉とキャビアをご用意いたしました。」
「山本、私に赤ワインを持ってきてくれないか?」
「私もお願い!」
「かしこまりました。」
圭一郎と美千代がそう言うと、山本はすぐにボルドー産の最高級赤ワインとワイングラス2人分を持ってきた。因みに裕也はぶどうジュースである。そして、広々とした食卓で大和田親子は食事を始めた。
「裕也、学校の方はどうだ?」
優しい口調で圭一郎が裕也に尋ねると、裕也は不満そうな顔で話し始めた。
「それがもう最悪だぜ。うちの学校に超問題児がいたんだけど、そいつのせいで理事長と校長が追い出されて、学校が水戸大学に身売りされちまったんだ。」
「な、何だと?」
圭一郎は驚いて思わずワインをこぼしそうになった。そして、残念そうに言った。
「大谷津学院は古くからうちの取引先として、融資もしてきたが…。それじゃあ、結びつきもなくなる。残念だ。」
「何よ、その問題児って?たかが一生徒が理事長と校長先生を追い詰めた上に、そんな田舎の三流私立大に身売りさせるなんて、頭がおかしいのかしら?」
母の美千代の方も、息子の学校が身売りされたことに関しては不満を持っている様だ。裕也は更に続ける。
「そいつ、湯川真樹って言うんだけど、今まで学校で揉み消せる問題をほじくり返して、そのせいで学校が赤字経営になっちまってよ。せっかく学習塾から来年の生徒を裏口入学させて黒字に戻そうとしたのに、この仕打ちはあんまりだぜ。」
「それは酷い。裏口入学など探せば色々な者がやっている大した問題じゃないのに、暴露して追い出すのはやり過ぎだな。何事も金と力。上手く隠せば罪にはならないし、バレそうになれば金を積んで黙らせればいい。」
そう言った圭一郎。圭一郎も金に物を言わせるタイプなので、今まで金の力で大物議員や海外の高官などを手下に置いてきた。母の美千代も続く。
「こんなに可愛いうちの裕也の学校生活を邪魔するなんて、なんて生意気な生徒なのかしら!裕也、いざとなったら徹底的に潰しなさい。何かあったら、お母さんたちが揉み消すから。」
「ありがとう、お袋!にしても、鴨とキャビア美味ぇー!」
裕也は嬉しそうに夕飯を食べている。すると、山本が圭一郎の所にやって来た。
「旦那様。ライバル企業の坂田工業が新技術を開発して特許を取ろうとしているとの情報が入りました。」
「それはマズいな。よし、社長を追い詰めて、会社も特許も全部うちの物として買収しよう。」
大和田家は一筋縄ではいかないようである。
別の日。この日は野球部の練習日だった。練習前に関屋が集合を掛ける。
「よし、みんな。集まったな。練習前に一つ報告だ。今日から新入部員が来る。彼らにとってここでの初めての練習だから、1年生の練習の手伝いを今日はしてもらいたい。」
関屋は真樹達にそう伝えた。これに喜んだのは2年の丈と登戸だ。
「俺たちに後輩が出来る。」
「先輩って呼ばれるのが楽しみだな。」
そして、武司もボソりと呟いた。
「何人入ったんだ?うちがあんなランキングに載っちゃったけど…。」
雑誌記事の事を気にしていた武司。そんな中、関屋が再び口を開く。
「うむ。じゃあ、早速新入部員に来てもらおう。入っていいぞー!」
「「「「はい!」」」」
そう言ってぞろぞろと入ってきた新入生たち。伸治はその人数を数える。
「1234…19,20。に、20人も!やったな真樹!これでいつもメンバーギリギリで冷や冷やしていた思いからはおさらばだな!」
嬉しそうにそう言った伸治。真樹は真顔のまま話す。
「ああ。行きたくない学校ランキングに載って誰も来ないと思ったが、心配いらなかったみたいだな。」
大谷津学院は週刊誌の『行きたくない学校ランキング』と『親が子供を通わせたくない学校ランキング』でワースト1位となった。そして、今年度も定員割れとなっていたが、それでも前年の甲子園での活躍を見て入学してきた新入生はいたのだった。
「よし。じゃあ、練習を始める。まずは準備運動とランニングだ。その後の事は2,3年生が1年生に段取りを教えてやってくれ。」
関屋がそう言って練習は始まった。そんな中、新入生は昨年特に活躍した真樹と伸治に声を掛ける。
「湯川さん。僕、湯川さんの甲子園のホームラン見てここに入学したいって思いました。」
「中山先輩。僕、ピッチャーやってるんで後で色々教えてください!」
そう声を掛けられて微笑む二人。身売りされてからの野球部のスタートは概ね良好の様だ。
こんにちわ。
裕也の家族が初登場です。
これからどうなるのか?
次回もお楽しみに!




