第292話 どっちも大ピンチ
こんばんわ。
ゴールデンウィークももう終わりですが、投稿させて頂きます。
大谷津学院は、現在2年連続で店員割れとなった事で深刻な赤字経営になってしまった。主な原因は度重なる学校内での問題が主に真樹の手ですべて暴かれたことにより、悪評が広まって入学希望者が大幅に減少したことによるものだった。ほとんどが学校が碌に対策も取らず、中には加害者を擁護するようなことも明るみになったことによって世間からの批判が殺到。校長の日暮里と理事長の上野は、真樹のせいで問題が揉み消せなくなったことに焦り、彼を学校運営の邪魔になると判断して退学処分にする意向を固めたのだった。
-大谷津学院理事長室-
「立石先生、関屋先生。あなたたちを呼んだのは他でもありません。」
ある日の朝。校長の日暮里は立石と関屋に対してそう言った。さらに、日暮里に続けて理事長の上野が口を開く。
「あなたたち先生方がクラスや部活動で受け持っている湯川真樹。彼が今まで余計なことをしてくれたせいで、我が校の評判が地に落ちました。これは立派な威力業務妨害。犯罪行為になります。」
いきなりそのような事を言われて、立石と関屋はポカンとしていた。そして、それぞれ戸惑いながら聞いた。
「あ、あの…。仰っていることが良く分からないんですが…。」
「彼は勉強も頑張ってますし、野球部の立派な主力です。犯罪者呼ばわりはさすがに…。」
そう言う二人に対して、上野は厳しい口調で言った。
「あなた達がそうやって甘やかすから、湯川真樹は調子に乗るのです。彼が余計なことばかりするせいでうちは赤字経営です。本来なら損害賠償してもいいくらいですよ。それに、そんな生徒を甘やかしたあなた達にも責任があります。」
あまりの言い分に言葉を失う立石と関屋。更に、校長の日暮里が続ける。
「湯川真樹は我が校の癌細胞です。彼のせいで、どれだけ我が校の名誉が傷つけられたか。もう彼は退学処分にする以外にありません。大和田君や、大部分の女子生徒もそれを望んでおります。」
理不尽すぎる言い分に、立石と関屋はさすがに反発した。
「ちょ、ちょっと待ってください。確かに湯川君は無茶ばかりしますけど、彼に助けられた生徒もいます。いきなり退学だなんてひどすぎます。」
「そうですよ!彼は苛められてた陳を助けて野球部に招き入れ、そして共に甲子園出場に大いに貢献しました。学業も優秀ですし、退学はさすがにやり過ぎではないでしょうか。」
そう反論した二人に、理事長は冷たく言い放つ。
「いいえ。彼は退学にします。我が校のモットーは、人を愛し、人から愛される人間です。いくら優秀でも不愛想で人から嫌われ、目上の者に反発する湯川真樹は我が校に相応しくありません。」
更に校長もそれに便乗するように続ける。
「これはもう、決定事項です。湯川真樹は存在するだけで我が校の可愛い生徒達を不愉快にするものです。私が裁判官なら、問答無用で死刑宣告したいくらい不愉快な存在なんです。もし、彼の味方をするようならあなた達の教員免許を剥奪するつもりです。もし、今後彼に我が校への服従の兆しが見られないようであれば4月中に退学処分にしますので。今回は特別に猶予期間を与えます。本日はそれだけをお二人にお伝えしましたので。」
一方的にそう言われて、呆然とする立石と関屋。2人は「少し考えさせてほしい」とだけ告げ、理事長室を後にした。
「どうしましょう、関屋先生。さすがにこれは酷いんじゃないかと…。」
「僕もそう思います。僕としても、湯川が退学になるのは納得できません。そんなことを平気でするような学校なら、こっちから辞表を叩きつける覚悟です…。って言いたいところですけど野球部のみんなを考えると…。」
「私もです。やっぱり、こんなことを考えさせる学校経営陣って、おかしいんですよね?」
2人も、真樹の退学には納得がいかないものの、どうすればいいか分からずに困っていた。
翌日。昼休みの屋上にて。
「よし。誰もいないな。今のうちに…。」
真樹は一人晴れた日の屋上に現れ、そう呟いた。そして、誰もいない事を見計らってどこかに電話を掛けた。
「もしもし、湯川です。」
「もしもし?湯川君、元気してた?」
「飯田さんこそ、お元気そうで何よりです。」
電話の相手は、沙崙のいじめ問題の可決に大いに貢献したオリエント通信のジャーナリスト、飯田であった。飯田は真樹に対して尋ねた。
「どうしたの?もし取材の依頼がるなら快く引き受けるけど。」
「実は、そういう訳にもいかなくなって…。飯田さん、ジャーナリストですよね。弁護士の知り合いっていますか?」
「弁護士?何でまた急に…?」
「実は…。」
ここで真樹は、新学期に入ってからの出来事を全て飯田に話した。校長と理事長に目を付けられていること。不祥事を暴露する厄介者扱いされていること。学校から退学処分されること等を正直に話すと、飯田も驚いていた。
「そ、そんな…。湯川君は色々な人を救ったのに…退学は酷いな…。」
「うちは校長と理事長が法律なんです。外面さえよければ、殺人や窃盗ですら褒め称えられるような環境なんです。つまり、どんなに正しいことをしても、あの二人の機嫌を損ねれば死刑囚扱いされるんですよ。僕みたいに。」
あんまりすぎるワンマンで独裁的な経営に対し、飯田が言葉を失っている中、真樹は続けた。
「このままじゃ、僕が学校を除籍処分されるか学校が倒産するか、或いはその両方が降りかかります。でも、もしそうなったら何の罪もないオニィ達を路頭に迷わせますし、陳の思い出の場所を消してしまうことになります。失礼を承知ですが、お願いします。もし、弁護士のお知り合いがいましたら僕に紹介してください。」
大谷津学院の散々たる現状を真樹から聞いた飯田は、少し間を置いた後にやさしい口調で真樹に言った。
「分かった。僕も聞いてて許せなくなったから、協力するよ!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「弁護士なら伝手があるよ。学校経営に詳しいのが一人いるから頼んでみる!」
「分かりました。じゃあ、もうすぐ午後の授業が始まるので失礼します。連絡待ってます!」
「うん。多分大丈夫だと思うから心配しないで。それじゃあね。」
そう言って、二人は電話を切った。真樹は屋上を出て、教室に戻る階段を下りながら呟いた。
「とりあえず、時間との戦いだな。俺の退学が決まる前にどうにかしなくちゃな。」
真樹の退学が先か、彼の反撃が先か…。新たな戦いが今始まったのだ。
こんばんわ。
今回はなるべく早めに話を動かしたいと思っております。
次回もお楽しみに!




