第280話 再会と約束
こんにちわ。
番外エピソードももうすぐ終わります。
真樹達大谷津学院野球部は21世紀枠で春の選抜高校野球の出場を決め、現在甲子園にいる。1回戦では長野の湯田中に競り勝ち、2回戦は伸治が好投したことで富山の雨晴商業に勝利。そして、いよいよ準々決勝まで進んだ。相手は大谷津学院が前年夏に初めて甲子園で対戦した、京都の強豪である洛陽高校。今年も超高校級のアイドル投手である三条知明も健在だ。大谷津学院と洛陽の試合はこの日の第4試合になっており、すでにベスト4のうち3校が決まっている。勝った方が準決勝最後の駒に進めるのであった。
『さあ、お待たせいたしました。本日最後の試合。勝った方が準決勝進出です。今年のドラフトでは複数球団が一位指名確実と言われるエース三条率いる京都の洛陽。対するは昨年夏に甲子園初出場し、その洛陽に勝利。今回も21世紀枠ながら大健闘している千葉の大谷津学院。洛陽にとってはリベンジマッチ、大谷津学院にとっては甲子園初優勝へもう一歩前進したい所。今大会最も注目のカードと言えるでしょう。』
実況のアナウンサーがそう伝えた。グラウンドではすでに両チームの選手たちが成立している。そして、その時に真樹の前に立ったのが丁度洛陽のエースの三条知明だった。
「久しぶりやな湯川。また試合できてうれしいで!」
「俺もだ。だが、今回も勝ちは譲らん。」
三条と真樹はお互いにそう言葉を交わした。そして、いよいよ試合が始まる。
「両校、礼!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
整列を済ませ、先攻の大谷津学院は一度ベンチに下がり、後攻の洛陽ナインが守備に付く。そして、大谷津学院の応援スタンドでは慶が大声を張り上げていた。
「真樹ー!頼んだよー!頑張れー、大谷津学院!」
慶は真樹が再び甲子園に行く事を誰よりも喜んでいたが、勝ち進むにつれてどんどんテンションが上がっていた。そして、美緒も大健闘している大谷津学院にかなり感化されていた。
「みんなー!気を引き締めてー!ファイト、ファイト!」
そんなこんなで大谷津学院の攻撃が始まった。
『1回の表、大谷津学院の攻撃は、1番レフト前原君。』
コールされた武司がバッターボックスに向かう。打席に立った伸治は気合一杯だった。
「もう、去年の俺じゃねえ!成長した姿を見せつけてやる!」
武司は去年の洛陽戦はノーヒットだった。しかし、今回は妙に自信満々である。三条につーストライクと追い込まれたが…。
「おりゃぁ!」
「しまった!」
三条の抜け球を武司は見逃さずに振りぬいた。打球はレフト線を破り、2塁打になった。
「よっしゃー!俺だってやればできるんだ!」
2塁に着いた武司はそう声を上げて喜んだ。その後、登戸が送りバントを決めて1アウト3塁。そして…。
『3番、ファースト湯川君。』
真樹がコールされた。真樹は今大会打率4割3分と打ちまくっており、打順も3番に上がった。
「いきなり勝負か。打てるもんなら打ってみぃ!湯川!」
「悪いが去年みたいな野次がない分、俺は集中しているぜ。」
三条に対し真樹はそう言った。真樹は前会の対戦で三条からホームランを打ったことで女性ファンから物を投げ込まれたが、運営が警備を強化したことで今のところそのようなことは起きていない。三条は真樹を簡単にツーストライクと追い込んだが…。
「そこだ!」
真樹は内角低めを思い切り振りぬいた。打球は三遊間を破り、武司がホームに帰ってきた。
『打った!湯川のタイムリーヒット!今年は大谷津学院が先制しました!』
アナウンサーも興奮気味に実況した。ベンチだけでなく、大谷津学院の応援組も盛り上がっている。
「よっしゃー!いいぞ真樹!流石だぜ!お前の活躍、ばっちりカメラに収めたぞ!」
と、興奮気味に言ったのは杜夫。その隣で、慶と美緒が抱き合いながら喜んでいる。
「やった、やった!うちが先制した!行けるぞー、みんな!」
「最高の出だしね!いいわよーみんな!」
その後、チャンスは続いたが三条は後続を2者連続三振に抑え、追加点はならなかった。そして、マウンドには伸治が向かう。
『大谷津学院、守備位置を発表いたします。ピッチャー、中山君。』
ウグイス嬢が守備に付く大谷津学院の選手をアナウンスする。伸治は気合一杯でマウンドに立った。
「よっしゃー!今回も全力投球で行くぜ!」
気合一杯でそう言った伸治。伸治は前回の洛陽戦では登板が無かったので、今回初めて洛陽相手に投げる。そして、伸治の名前がコールされた途端、一人の少女が大声を上げた。
「お兄ちゃーん!頑張れー!思いっきり投げてー!」
そう言ったのは伸治の妹である優奈である。すでに高校受験を終え、4月からは県立高校に通うことが決まっている。そして、伸治の両親である美子と祐三も大声で応援した。
「伸治ー!リラックス、リラックス!」
「父さんたちが見守っているぞ!頑張れ!」
中山家は全員が甲子園に駆け付けたのだった。1回戦から長男の投げっぷりを暖かく見守ってあり、今回も応援に熱が入っている。そんな中、優奈が横を見ながら言った。
「それにしても…。まさかここでリオリオに会えるなってびっくりした。」
1,2回戦は慶や美緒たちと少し離れた所に座っていた中山家だったが、今回は隣同士である。優奈の隣には彼女がよく視聴しているリオリオこと菅野莉緒がいるのだ。
「まさか、お兄ちゃんの同級生の菅野さんの妹だったとは…。いつも見てまーす!」
「ありがとうございます。ここで会えたのも何かの縁ですね。」
莉緒は丁寧な口調でそう言った。年齢は莉緒の方が一つ下なので、動画の時よりもかなりかしこまっている。
「お兄ちゃん…いえ、うちの家族は湯川さんのおかげで助かったので、兄と共に応援したかったんです。
」
「うちもです。湯川さんが体を張って姉を助けてくれて、なので感謝の意を込めて姉と共にここに来たんです。」
そう話す優奈と莉緒。その横で話を聞いていた美緒は心の中で呟いた。
(本当に…憎まれてるけど同じくらい人も助けてるのよね、湯川君って。私も助けられた身だし、最後まで応援したいわ。)
各人がそれぞれの思惑に浸る中、試合は続けられた…。
そして、試合は9回の裏になった。
『さあ、試合もいよいよ9回の裏。先制した大谷津学院でしたが、3回に洛陽打線が息を吹き返し、現在3-2。洛陽1点リード。現在2アウト1塁で打席には湯川が向かいます。』
そう実況したアナウンサー。大谷津学院は先制こそしたものの、1回戦から一人で投げ続けている伸治はさすがに疲れが出始め、3回に三条に3ランホームランを打たれてしまった。その後、大谷津学院は1点を返し、伸治も力投したものの、三条をとらえきれないままここまで来てしまった。そして、真樹が打席に立つ。
「ここまで来たんだ。まだ勝機がある中、諦めるわけにはいかん。」
「俺だって負けるわけにはいかんのや。真剣勝負頼むで!」
真樹に対し三条はそう言った。まだ諦めていない真樹は何とかファールで粘りながら、7球目。三条は渾身のストレートを投げ込んだ。
「くっ…。」
苦い表情を浮べながら真樹はバットを振りぬいた…。しかし、虚しくもバットが空を切った。
『空振り三振!ゲームセット!洛陽高校、準決勝進出!リベンジを果たしました!大谷津学院は初のベスト4にあと一歩届きませんでした。』
真樹は三振に倒れ、大谷津学院の春の甲子園は終わった。そして、両校が整列した。
「礼!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
大谷津学院と洛陽の選手が互いに握手した。三条は試合開始前と同じように真樹に話しかける。
「今回も楽しい試合やったで。強なった大谷津と戦えて、光栄や!」
「見事だった、三条。ここまで来たら、優勝頼んだぞ。」
そう言って握手し、真樹と三条はお互いを褒め合った。一方、伸治はがっくりと肩を落としながら関屋に連れられてベンチに戻る。
「ごめんなさい、先生。俺がバテたせいで負けて…。」
「謝るな、中山。お前が投げてくれたおかげでまた甲子園に来れたんだ。また夏に頑張ろう!」
関屋は伸治をやさしく宥めながらベンチに戻っていった。真樹の方もベンチに戻るや否や、沙崙にもし分けなさそうに言った。
「すまん、優勝できなかった。」
「いいのよ。相手が強すぎたわ。真樹もよく頑張りました。」
沙崙は優しくそう話した。だが、真樹も本音で言えばかなり悔しかった。
「ここまで来たからには優勝したかったが、残念だ。」
「ううん。私はね、みんなの役に立ってそれが甲子園って結果につながった。それだけでもすごく、嬉しかったの…。それに…。」
沙崙は少し間を置いて、また話し始める。よく見ると、目には涙が溢れていた。
「こうして1年間、留学して野球部のみんなとここまで頑張れて…帰国前にこうして甲子園来れた!本当に嬉しかった!だから、本当に感謝してるの…ありがとう、真樹!」
沙崙の涙がマネージャーとして1年間やり切った嬉しさなのか、負けた事への悔しさなのか、真樹にはわからない。そんな沙崙を連れて、真樹も球場を後にしたのだった。
こんにちわ!
次回で今月の投稿及び、番外エピソードはラストです!
お楽しみに!




