第267話 一体どうして?
こんにちわ。
1月ももうすぐ終わりますね!
季節はもうすぐ2月を迎えようとしている冬。この時期、多くの高校生は受験シーズンに入る。3年生にとっては卒業後の進路が決まる、最も大事な時期と言えるだろう。そして、ここ大谷津学院にも受験を控えている者がいた。
「ふぅ…。受験前って学校でも家でも落ち着かないわね。」
休憩時間中、そう言ったのは眼鏡をかけ、おさげの髪形をしたとても真面目そうな女子生徒。木下希美である。彼女は昨年度まで杜夫が所属する写真部で部長を務めあげ、高校卒業後はもっとカメラを専門的に学うべく、芸術大学の映像や写真に関わる学部への進学を希望している。第一志望は地元である千葉芸術大学で、筆記及び実技試験に向けて準備をしていた。そんな時、彼女の携帯電話がふと鳴った。
「ん、何かしら?」
木下はかかってきた電話を取った。すると、男性の声が聞こえてきた。
「もしもし、木下希美さんの電話でお間違いないでしょうか?」
「そうですが。」
「私、関東大学芸術学部の入試担当の者ですが。」
関東大学とは、神奈川県に本部を置く総合大学で、芸術学部が存在する。この大学の芸術学部カメラ学科は木下の第2志望である。電話をかけてきた担当者に木下は問う。
「あの…どのようなご用件でしょうか?」
「先日ご提出していただいた、お写真の件でお電話させてもらいました。」
関東大学の芸術学部の入試は千葉芸大とは異なり、筆記試験のみで実技試験を行わない。その代わり、筆記主権受験後に出願時に提出した作品に関して、試験官にプレゼンを行うというスタイルを取っていた。木下も勿論このことは知っていたので、千葉芸大とは別の写真を提出していたのだ。
(もしかして、褒められる感じ…?)
木下は内心そう期待した。しかし、担当者からの言葉は全く別の者だった。
「木下さんが提出していただいた写真なんですが、それと全く同じ物が1日前に提出されたばかりなんです。」
「…。はい…?」
担当者の言葉に木下は耳を疑った。彼女が提出した写真は晴れた日の河川敷を撮ったものなのだが、撮影当日彼女の周りにいたのは、ジョギングをする男性や犬と散歩している女性等で木下以外に撮影に勤しんでいる者がいなかったのを彼女自身がよく覚えていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!たまたま似ているとかじゃなくて、全く同じってどういうことですか?何かの間違いでは?」
「我々も最初そう思って、詳しく調べましたが…影の向きや映っている人物や雲の位置まで完全に同じなんです。」
「そんな馬鹿な!あの時あの場所で私以外撮影していなかったんです!別の人が全く同じ写真を撮れるはずがありません!」
木下は訳が分からなくなりつつも、必死で反論した。しかし、担当者からの聞こえてきた言葉は木下に重くのしかかってきた。
「そう言われましても…。申し訳ないですけど…こういう場合、先着順になりますし、下手をすると盗用疑惑がかけられる可能性もあります。残念ですが、木下さん。お互いの今後の為にも、本校の本試験の辞退をお願いいたします。」
「そ、そんな…。」
突然の事に木下は頭が真っ白になった。いくら第2志望とはいえ、試験に向けて準備していた木下にとってあまりにも残酷な出来事であった。木下はその後も別の物を提出するので受験辞退を取り下げて欲しいと頼み込んだが、書類の期限が既に過ぎていたこともあり、認められなかった。
「な、何でよ…。一体何が起こったっていうの?」
受験前の彼女を襲った突然の悲劇。本試験を受験して落ちたのではなく、受験前に実質的な失格を言い渡されてしまうという前代未聞の出来事に、木下は段々と悲しくなってきた。休憩後も授業が行われたのだが、その日彼女は何も頭に入らなかったことは言うまでもない。
別の日。真樹と杜夫は休憩中に飲み物を買うべく、外にある自動販売機に向かって話しながら歩いていた。そんな時、杜夫がふと言った。
「そういえばさ、真樹。」
「どうした?」
「写真部行った時に、とんでもないことが起きていてさ。」
真樹は最初、いつもの大したことない雑談だと思った。しかし、杜夫の表情が少し暗い所に違和感を抱く。杜夫はそのまま続ける。
「うちの前部長だった木下先輩が、芸大受験するんだけどさ。そのうち1校の入試担当から電話が来たんだ。その学校、出願時に作品を提出して、筆記の後に試験官に作品のプレゼンやるんだけど、先輩が出したものとそっくりな物がその前日に出されてたんだ。どう考えてもおかしいと思ってな。」
杜夫の話を聞いた真樹はふと足を止めた。芸術に疎い真樹でさえ、杜夫から聞いた話に違和感しか抱かなかったのだ。真樹は真顔で杜夫に言う。
「ただ少し、似ているだけではないのか?その先輩はどうなった?」
「先輩も最初はテーマ被りだと思ったんだけど、入試担当者が検査したら影とか映っている人とかも完全に同じだったんだとさ。結局、先着順にされて大学は先輩に本試験の受験を辞退してほしいって言ったみたいなんだけど…。意味わかんないよな。先輩に会った時声もかけらんないくらい落ち込んでて…。」
話を聞いた真樹は厳しい表情で考え込んだ。そして、少し間を開けて杜夫に言う。
「杜夫。何がどうしてそうなったのか、今は俺にもわからん。だが、放置した場合とんでもないことになるのは間違いなさそうだ。」
「えっ…。そ、そんな…。何で…?」
「今までの人生で散々な目に遭った俺の、経験から読み取った直感だ。」
曇った表情の杜夫にそう言った真樹。そして、彼の予想通りこの裏には碌でもない事実が隠されているのである。
こんにちわ。
今回は受験がテーマですが、もし読者さんの中に受験生の方がいらっしゃいましたら頑張ってください!
私も執筆頑張ります。
それではまた次回。




