第215話 大食い怪獣襲来
こんばんわ。
11月ももう半分ですね。
練習試合終了後、丈は彼女である宮下とベンチでメッセージのやり取りをしていた。しかし、彼の周りにいた千葉や登戸、幕張ら1年生部員たちが難しい表情をしていたのを不審に思い、沙倫、真樹が声をかけた。そして、丈が見せた写真付きのメッセージを見て二人は首をかしげる。
「何これ?フルーツタルト?」
「宮下じゃないぞ。齧り付いているが…。」
丈のスマホには宮下からの愚痴と共に、巨大なフルーツタルトを頬張る少女の写真が送られてきていた。沙倫と真樹はこの少女が誰だか分らなかったが…。
「あれ、こいつ大野じゃん。」
千葉が指さしながら言った。
「知っているのか?」
「はい。同じクラスです。まぁ、そんな絡みはないんですけど。」
真樹の問いに千葉が答える。すると、丈の方は首をかしげながら言った。
「変だな。今日郁美は中学の同級生とスイーツ食べ放題行くって言ってたけど、大野とは違う中学のはず。」
「じゃあ、なんでこいつがいるんだよ?」
登戸が丈に聞くが丈の方もわからないでいた。
「とにかく!もう試合終わったんだから、みんな早く帰るわよ!」
沙倫が皆に帰るように促す。1年生たちは帰り支度をはじめたが、真樹はふと沙倫の方を見て聞いた。
「なんだったんだろうな、あれ?」
「わからないわ。でも、宮下さんにとって歓迎できないことみたいね。」
「その、大野とかいう奴のことは知らんが、糞みたいなのだけはわかった。」
「相変わらず辛口ね、真樹。」
そんなことを話しながら真樹と沙倫も帰り支度をし、武司や伸治らほかの部員たちと共に八街を後にした。
翌日。この日、真樹は完全にオフだった。自宅でTVゲームを楽しんでいた真樹だったが、その時突然スマホの通知音が鳴る。
「なんだよぉ、いい所なのに。」
文句を言いながらスマホを見ると慶の名前が表示されていた。
「オニィか。自主トレの誘いか?」
そう思ってメッセージアプリを開くと、真樹の予想は外れていた。
『真樹~、助けてよぉ( ;∀;)』
見るからに悲痛な叫びが慶のメッセージから伝わってきた。真樹は何が何だかわからず、慶に聞く。
『お、おい。どうしたんだよ?』
『実はね…。』
慶はその詳細をメッセージに書いてくれた。
少し前。千葉駅前にて。
「あ、鬼越先輩!」
「すみません。遅くなりました。」
先に来ていた慶に二人の少女が話しかける。一人はメガネがトレードマークの吹奏楽部所属の1年生である大神愛、もう一人は同じく吹奏楽部の1年生である津田翔子というショートカットの少女だった。
「全然大丈夫だよ。僕もさっき来たばっかりだし。」
そう微笑みながら言った慶。共に甲子園に応援しに行った縁もあり、親交があるとはいえこの組み合わせは珍しい。
「すみません、わざわざお休みの中。」
「鬼越先輩も好きかなって思ったので、お誘いしたんですが。」
大神と津田の言葉に慶は優しく返した。
「いいのいいの!パスタ好きだし、誘ってくれて嬉しいよ!」
実はこの日の1週間前に新しいパスタ専門店が千葉駅の駅ビル内にオープンした。リーズナブルな値段で尚且つ量も多いということで、若い女性を中心に瞬く間に人気なった。二人は他の吹奏楽部も誘ったが都合が悪くて来られず、慶を誘ったところ彼女は二つ返事でOKしたのだ。
「じゃあ、行こうか。」
慶がそう言って大神と津田もその後に続く。そして、店に着いた時にそれは現れた。
「遅いじゃない!待ってたわよ、大神さんに津田さん!」
その声を聴き、目の前にいた人物を見た大神と津田は眉を顰めながら言った。
「なんで大野さんがいるのよ?」
「呼んだ覚えないんだけど。」
そこにいたのは何と前日宮下を困らせていた大野だった。大野は二人の問いに呑気な様子で返す。
「私抜きで美味しいパスタ食べようとしたんでしょ?抜け駆けはずるいわよ。」
二人は嫌そうな表情をしていたが、大野は全く悪びれていない。
「ぼ、僕は一人くらい増えても別に…。」
慶は違和感を感じながらも大野の同行を許可した。しかし、後に彼女はこの判断を下したことを後悔することとなる。4人は入店し、それぞれ好きなものを頼んだ。そして、最初に慶が頼んだバジルのパスタが運ばれてきたのだが…。
「パスタは出来立てが一番おいしいよね。運ばれたらすぐ食べなきゃ!」
大野はそう言って慶が食べるよりも先にフォークを突っ込んで勝手に食べ始めた。これを見た大神と津田が怒り出す。
「ねぇ、いくらなんでも失礼よ!」
「自分のが来るまで待ちなよ!」
「えー、別にいいじゃん。何が悪いの?」
大野はまるで反省していなかった。慶は突然の出来事に頭が全く追いついていない。
「な、何なの…これ?」
大野の傍若無人な振る舞いに呆然とする慶は、その後食べたパスタの味が分らなくなるくらい困惑している。その後、大野は懲りずに大神や津田が頼んだものが来ると本人よりも先にフォークを突っ込んでさらに怒りを買い、それでも懲りずに誰かがトイレに言った隙を見て盗み食いをするなどまるで怪獣の如く暴走していた。完全に殺伐としたテーブルの雰囲気に耐えかねた慶は思わず真樹にSOSを発信したのだった。
「やばい…うう、誰か何とかして。」
呻くようにそう言った慶。その後、大野の身勝手な振る舞いは続き…。
「あ、ごめん。この後別の予定遭ったの忘れてた。じゃあね!」
挙句の果てに1円も払わずに自分の分の支払いも慶たちに押し付けて先に帰ってしまった。そんなことがあり、大神と津田は怒りが収まらず、慶の方も精神的にすっかり疲れ切ってしまったのだ。
こんばんわ。
さあ、またもや強烈なエピソードでした。
次回はどうなるのか?
お楽しみに!




