第145話 元気が無い慶
おはようございます。
今日も暑いですね。
近頃、慶の周囲で不可解な事件が頻発していた。ある日の帰り道では美緒と共にバイクに轢かれかけ、そしてこの日は自宅にゴミの放棄と罵詈雑言が落書きされていた。あまりに悪質すぎる事態に慶と、迎えに来た母親の悠は事態が全く飲み込めないでいた。すぐさま警察に通報し、事情聴取を受ける慶と悠。すると、そこに父親である進が帰宅してきた。
「ただいまーって、何だいこれは?」
「あ、お父さん!」
「お帰りあなた…実は今大変で。」
慶と悠は元気無さ気に説明した。そして、警察官も進に言った。
「お父様ですか。じつは、ご自宅に悪質ないたずらをされたと通報がありましたので、事情を聞いていたのです。」
警察官からも説明も受けたが、全く身に覚えのない進むも困惑していた。そんなこんなでモヤモヤしたまま事情聴取は終わった。
「では、我々は失礼します。もしまた何かありましたらご連絡下さい。」
「ありがとうございます。」
「お願いします。」
「お騒がせしました。」
慶、悠、進の3人は警察官に礼を言い、自宅に入って荷物を置いた後リビングのテーブルに座った。すると、暗い顔で慶が頭を下げながら言った。
「二人ともごめん。なんか、多分ターゲットは僕なんだけど、本当に身に覚えが無いし、犯人にも心当たりが無い。なのに巻き込んじゃって…。」
落ち込む表情で二人にそう言う慶。だが、両親は慶を宥めた。
「お前が気にすることは無い。何かあったら、父さん達に任せろ。」
「そうよ。あなたはもうすぐ大会なんだから、そっちを頑張んなさい。」
優しくそう言った両親だったが、それでも慶の心は完全に晴れることはなかった。しかし、今大会に掛けていた慶はそんな両親の思いを踏みにじることはできなかった。
「ありがとう、父さん、母さん。僕、頑張るよ!」
スッキリはしなかったが、何とか鬼越毛はその後何事も無く1日を終えた。
翌日。駅の改札に真樹が現れた。
「あいつ、大丈夫だったのか?」
真樹は心配そうな表情でそう呟いた。真樹もさすがにあの後のことが心配になり、慶にメッセージを送ったが、変身どころか既読すらつかなかった。何かあったのだと察した真樹はその後特に何もしなかったが、それでも慶のことを気にかけていた。そして、改札を出てすぐに慶が現れ、真樹に声をかけた。
「お、おはよう…真樹。」
「おはよう、オニィ…って大丈夫か?元気ないぞ。」
現れた慶は顔色が悪く、表情が少し暗かった。真樹もさすがに心配になっている。
「うん、実は昨日、襲われはしなかったんだけど家が大変な事になってね。」
慶は歩きながら、昨日自宅に悪質ないたずらをされたことを説明した。これには真樹も驚きを隠せなかった。
「何だよ、それ?最低だな!」
「うん。でも、犯人に全く心当たりが無くって困ってるんだ。」
「ん~。恐らくだけど、オニィをバイクで轢いてきた奴と同じかもしれないな。」
「もしかしたら、そうかもね?でも一体誰なんだろう?参っちゃうよ。」
慶は疲れ切った表情でそうぼやいた。その後、学校に到着し、先に到着していた杜夫、美緒、沙崙にも昨日のことを話した。
「は?何だよそれ?逆恨みにしても、達が悪すぎだろ!」
と、怒ったのは杜夫だ。そして、正義感が強い美緒も怒りをあらわにした。
「私は結局あの後何も無かったから、ターゲットは慶一人だったのね。でも、こんなことするなんて最低すぎる!」
沙崙もあまりの悪質さに怒りが込み上げていた。
「全く、どこのどいつがこんな酷い事を!犯人引きずり出して、同じことして仕返ししてやりたいわ!」
皆がそう言っている者の、犯人に見当がつかずに困っている。そんな時、真樹がふと何かを思い出した。
「そう言えばさ、変な事が起きたのってあれ以降じゃないのか?ほら、オニィに突っかかってきた姫宮とか言う奴。」
真樹の言葉に慶は少しハッとした。だが、悩ましい表情で答える。
「ま、まさか…。確かに姫宮さんに絡まれてからおかしなことが起こるようになったけど、春日部学院はここから遠いし、運動部は全寮制だし、可能性は低いんじゃないかな?」
慶はそう言ったが、真樹は鋭く指摘した。
「確かに、あいつは直接手を下せないだろう。だが、もし外にいる仲間に頼んだとしたら?あいつはオニィの隣町出身だから、知り合い経由で大谷津学院に通ってることや、家の場所を調べることもできなくはない筈だ。」
真樹の言葉に、慶は難しい表情を浮かべた。すると、杜夫が言った。
「姫宮真依って、テレビで若き天才ランナーとか言われてる奴だろ?もし、それが本当なら大スキャンダルになるじゃん。」
美緒も続く。
「同じ運動部の者として、こんなこと考えたくはないんだけど、上手い人でもライバルを蹴落とそうとする人はいるわ。もし姫宮さんがそういう人だとしたら、大会も注意が必要ね。」
沙崙も難しい表情で言った。
「嫉妬よ、嫉妬。慶も有力選手だから、自分より注目集めそうなのが許せなかったのよ!さっさと天罰下って欲しいわ。」
皆、同じクラスの友人が酷い目にあわされているのが許せない様子だ。慶は少し呼吸を整えてから、真樹達に言った。
「みんな、心配ありがとう。でも、僕は平気!何があっても明日からの大会頑張ってくるから!」
心配してくれている友人たちの気持ちを裏切れない。そんな思いがより強くなった慶だった。
同日。埼玉県の春日部学院にて。
「おー、お腹いっぱい!大会近いからいっぱい食べなきゃね!」
学食で日替わり定食の大盛りを平らげてそう言ったのは、天才女子高生ランナーの姫宮真依だった。姫宮は、昼食を終えて学食を出ると、トイレに向かった。トイレに誰もいないのを確認すると、個室に入ってどこかに電話をかけた。
「あ、もしもし?昨日はどうだった?」
「うん、上手くいった。案の定、騒がれたけど犯人が私達なのはバレてない。」
電話の相手はそう言った。そして、姫宮は不敵な笑みを浮かべながら続けた。
「そうなんだ。じゃあ、今日で止めさしちゃおうか。これでさすがのあいつも大会どころじゃなくなると思うから。」
姫宮は、電話の相手に何やら説明し、電話を切って何事も無かったかのように教室に戻って行った。
おはようございます。
最後、不穏な終わり方でしたがどうなってしまうのか?
次回もお楽しみに!




