第127話　予想外の騒動

　真樹達大谷津学院野球部は、遂に甲子園初試合を迎えたのだった。しかし、試合は序盤から相手校である洛陽のペースであり、大谷津学院は1点も取れないまま9回を迎えた。そして、2点ビハインドでツーアウト1,2塁。真樹の打順だ。真樹は大谷津学院のエースである三条の初球ストレートを振り抜き…。

「おらぁぁ！」

「あっ！」

『打った、いい当たりだ！打球はセンターへ！どうだ?!』

　真樹の打球はどんどんセンター方向へ伸びていった。洛陽高校のセンターは必死で打球を追いかけて行ったが…。

『入ったぁ！逆転、サヨナラ3ランホームラン！決めたのは2年生の湯川です！大谷津学院、甲子園の歴史に名を残しました！初出場、初勝利です！』

　何と真樹の打球はそのままセンターバックスクリーンに吸い込まれ、サヨナラホームランになってしまった。マウンド上で唖然とする洛陽のエース三条。一方で、真樹は塁を回りながらガッツポーズをして喜んだ。

「よっしゃぁ！勝ったぁ！」

　珍しく大声で叫んだ真樹。そして、ベンチも大盛り上がりだ。

「す、すげぇ！真樹の奴、マジでやりあがった！」

「よっしゃぁ！ナイスだぞ、真樹！」

　伸治と武司は喜びながらベンチを飛び出す。一方沙崙は嬉しさのあまり、思わず涙をこぼした。

「うえーん、勝ったぁ！真樹ありがとう！信じて良かったよぉ！」

　丈達1年生達は喜びながらも、夢で見見ているのではないかという感覚だった。

「湯川先輩…。」

「サヨナラホームラン。」

「俺達が…。」

「甲子園で勝った…？」

　監督の関谷も嬉しくて、拍手をしながら真樹を讃えた。

「よし、よし！ナイスホームランだ真樹！文句なし！嬉しすぎて言葉が見つからん！」

　喜んでいるのは大谷津ベンチだけではない。スタンド上で応援していた杜夫達も大はしゃぎだった。杜夫は嬉しすぎて、喉が枯れそうな勢いで叫んでいる。

「やったぁ!!!!!真樹が勝った！うちの歴史的勝利！シャッターチャンスだ！」

　慶と美緒は抱き合いんがら喜び、二人とも涙を流している。

「真樹が、大谷津学院が甲子園で勝ったぁ！どうしよう、僕？嬉しすぎてなんて言ったらいいか分からないよ！」

「うん。私も感動しちゃった！見に来てよかったわ！」

　教師である立石も涙を流している。

「うう…湯川君、みんな。おめでとう…。ああ、私こんなに感動して泣いたの久々かも！」

　吹奏楽部の大神とチアリーディング部の宮下達も大喜びだった。

「きゃぁぁ！勝ったぁ！」

「うん、うん！やっぱり反対押し切って遠征したの正解だったわ！」

　その様子を、オリエント通信の飯田が冷静に撮影していたが、心の中では喜びの言葉を発していた。

(大谷津学院の勝利だ。陳さん、こんなにいい仲間と学園生活できてよかったな。まぁ、これもほぼ真樹くんのお陰か。)

　一方、相手校である洛陽高校サイドはほぼ全員が何が起こったのか分からないと言った表情だった。真樹に打たれたマウンド上の三条を、彼の同級生部員が宥めに来ていた。

「さ、三条…。」

「打たれてもうたわ。」

「…。」

「まぁ、あれ打たれたら、しゃぁないで！とにかく戻ろうや。」

　彼はすぐに冷静さを取り戻していた。そして、大人しく他の部員達と共にベンチに引き揚げ、整列の準備をした。

「両校整列！」

　主審が整列を告げると、すぐに大谷津学院と洛陽の生徒が揃った。

「礼！」

「「「「ありがとうございました！」」」」

　両校が挨拶し、互いの選手が握手をする。真樹は三条と握手をしたのだが、その時に彼に声をかけられた。

「完敗や。ナイスバッティングやったで！」

「ありがとう。やっぱり洛陽強かったわ。ナイスピッチングだ。」

　互いに勝負を讃えて、大谷津学院の校歌が初めて甲子園球場に響く。そして、校歌を歌い終えた真樹達がベンチに戻ろうとした時だった…。

「痛っ！」

　ベンチから何かが飛んで来て、真樹の頭に当たった。よく見ると、飲みかけのペットボトルだった。更に、生ゴミやらメガホンが真樹の所に複数飛んできていた。そして、スタンドからは口汚い罵声が真樹にかけられる。

「お前、空気読めよ！」

「三条君の活躍もっと見たかったのに！」

「台無しにした！」

「死をもって償え！」

「この田舎者が！」

「私達の交通費全額返せ！」

「千葉に帰れ！」

　何と、三条のファンである若い女性達が怒りにあまり、真樹に物を投げながら口汚く野次をかけていたのだった。次第に、野次や投げ込まれる物も増えていき、真樹以外の部員達も巻き込まれるようになった。

「うわっ、やめろ！何なんだこいつら！」

「おい、何しやがんだ！危ねーだろ！」

　これにはさすがの武司と伸治も怒っている。実況のアナウンサーも何が起こったか分からないという感じだった。

『どうした事でしょう？スタンドにいる大勢の女性が、サヨナラホームランの湯川めがけてゴミなどを投げ込んでいます！聖地甲子園で、このような事が起こって良いのでしょうか？』

　暴徒化の勢いがどんどん増していくスタンドの若い女性客達。そんな彼女たちを、真樹は怒りの表情でただ睨みつけていたのだった。