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50.愛憎の果て。

***前回のあらすじ***

ロンバートは夜会を前に真相に辿り着いた。夜会の当日、シェリナはクリスティアナの兄、ヒースクリフを伴って。クリスティアナはセドリックを伴って出席をする。令嬢達の嫌がらせを受けるシェリナは堂々と令嬢達に立ち向かう強さを得ていた。やがて夜会は閉会の時間を迎えたが、ずっと口を閉ざしていたロンバートが動き出す。ロンバートがは、自分に毒を盛ったのが王妃である事を明かした。

「──は……、はは……。何を言っている、ロンバート!?フローティアはお前の実の母ではないか!そのフローティアがお前を殺めようとするなどと!お前が毒に倒れた時、寝ずに付きそって看病をしたのはフローティアだぞ?お前の事もとても可愛がっていたではないか!その母に向かいお前は何という事を!」


 最初は驚きのあまり、乾いた声を発していた王のその声は、段々悲鳴の様なものに変わる。


「ええ。確かに、私は母上の子です。ですが──」

「……や……めて……」


小さく漏れた王妃の言葉に、王は目を見開く。


「ですが、私は──」

「やめて!!やめなさい!ロンバート!!」


 血を吐く様に言葉を続けるロンバートの声を遮ろうとする様に、王妃は立ち上がり、金切声を上げる。その態度が、ロンバートの言葉が真実だという事を伝えていた。王妃はロンバートを止めようと王座の壇を駆け下りて来る。王は呆然とそんな王妃を眺めて居た。


「私は、──父上の子ではありません」

「やめてえええぇぇぇ!!」


 王妃はロンバートに掴みかかり、そのままずるずると床に崩れ落ちた。


***


 当時、まだ先王が健在だった頃、現国王であるエルネストは、長く城を開けた事があった。その遠征は数か月に及んだ。政略結婚ではあったが、フローティアはエルネストを愛していた。長引く遠征に寂しさを募らせていたフローティアは、1度きりの過ちを犯す。不貞を働いたのだ。その不貞によって生まれた子が、ロンバートだった。


「……相手、は……」


 呻く様な父の言葉に、ロンバートは肩越しに後ろを振り返った。残らせておいた参列客の中の一人に、その視線が向けられる。


「王弟ヴァレンティン=クェレヘクタ卿。叔父上です」


 王妃の肩がびくりと跳ねる。王弟、ヴァレンティンは、感情の読めない無表情のまま、じっと静かにロンバートを見つめ返した。


 現国王エルネストの1つ違いの弟ヴァレンティンは、王ととても良く似ていた。王は髭を蓄えているのに対し、ヴァレンティンには髭が無い。ぱっと見は似ている様には見えないが、その瞳も眉も鼻筋も口元も、髪の色も、双子と言って遜色が無い程よく似ていた。

 だから、誰も気づかなかった。国王によく似た第一王子が、不貞によって生まれた王弟の子だなどとは。


 ヴァレンティンは王妃に好意を持っていた。だから、王の不在の間、王妃フローティアに近づき、甘い言葉を囁き続け、酒に酔わせて抱いたのだ。

 我に返った王妃は自らの不貞を恥じ、ヴァレンティンを遠ざけたが、その1度の過ちが悲劇を生んだ。

 王妃は身ごもった事を知り、自らの罪に怯えた。


「──母上は、私が国王陛下の子でない事を恐れた。父上の子でない私が王位を継ぐのはどうしても許せなかったのですよね? だから貴女は縋ったんだ。この子は生まれて来てはいけない子だ。悪魔の子を身ごもってしまったと。──貴女にずっと付いて来た侍女、オリヴィエに。オリヴィエは薬学の知識があったそうですね。毒薬にも詳しいわけだ」


 ロンバートの目が、騎士によって連れて来られていたオリヴィエに向けられる。彼女の顔は覚えがあった。ロンバートの執務室にいつも居た侍女だ。オリヴィエは真っ青になって震えていた。

 ロンバートの言葉に、顔を覆って泣き崩れていた王妃が、うそ、と小さく呟き、視線をオリヴィエに向ける。


「母上は父上と幼い頃に婚約し、父上と母上、叔父上は仲が良かったそうですね。母上付きの侍女だったオリヴィエとも。身分が違い過ぎるから、貴女は気づかなかったのでしょう? オリヴィエがずっと叔父上に密かに想いを寄せていたことを。だから貴女はオリヴィエが私の殺害に加担してくれていると信じて疑いもしなかった。叔父上の手の内だとは気づかずに。母上はオリヴィエの用意した毒薬を使い、私を消そうとした。まさか私が赤子の頃からずっと世話係をしてきてくれたオリヴィエが私に毒を盛った張本人だとは、俄かには信じがたかったですよ。私を襲ったのはモンテーニュ男爵。貴方ですね? 貴方の犯した不正は既に掴んでいる。不正を暴かれたくなければと脅されましたか」


名前を上げられたモンテーニュ男爵はひっと悲鳴を上げ逃げ出そうとする。直ぐに騎士に取り押さえられた。


「判らん……。だが毒を盛られたのは私もだぞ?何故ヴァレンティンがお前を殺すことに加担をする?」


「父上に毒を盛ったのは叔父上の手の者です。毒を盛った調理場の男は既に異国の地で死亡が確認されました。元より叔父上と直接繋がりなど無かった男でしたから、随分探すのに苦労をしました。私に盛った毒を用意したのは叔父上の息の掛かったオリヴィエです。叔父上は私を殺す気など無かったのですよ。私に使った毒薬は致死には至らない毒だった。叔父上の狙いは母上に私の暗殺を目論ませ、母上を失脚させ、同時に父上を亡き者とし、私を王位に据える事でした。自分の子である、この私を。そうですね? 叔父上」


「──私は、フローティア様をお慕いしていた。」



ぽつりと声が落ちる。その声は王にとても良く似ていた。カツ、コツとゆっくりした足音を響かせ、王弟、ヴァレンティンが王の前へと進み出る。王妃は床に崩れ落ちたまま啜り泣いていた。ヴァレンティンが近づくとびくりと肩を震わせる。ヴァレンティンは、その王妃の横で足を止める。冷たい視線が王妃に向けて落とされた。


「兄上よりもずっと、私の方が貴女を愛していたのに。私ならば、貴女を一人になどしなかったのに。たった1年、私よりも早く生まれたというそれだけで、何の苦労も無く貴女も王位も手中に収める兄上が憎かった。──貴女に判るか? あの夜私がどれ程幸せだったかを。ずっと望んで、手に入れる事の出来なかった貴女をこの腕に抱いた喜びが如何ほどだったかを。それなのに貴女は──この私を退けた。一度は私に身を委ねたというのに、目を合わせてさえくれなくなった。この私をケダモノだと罵った。私がどれ程打ちのめされたか、貴女に判るか?」


 語る口調は感情の浮かばない、淡々としたものだった。王妃に向ける視線は、ぞっとするほどに冷たい。


「私のものにならないのなら────貴女など、死んでしまえば良い」


 ──可愛さ余って憎さ百倍。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

ご閲覧・評価・ブクマ・誤字報告有難うございます!真相はこんな感じでした。ちょっとややこしいですね;王妃>ロンバートを殺そうとしている 王弟>殺すと見せかけて実は死なない様にしていた オリヴィエ>王妃の為に殺害をしようとするふりをして死なない程度の毒を盛っていた ←こんな感じです。語彙力ェ…。次はもう1本、深夜に投稿します!

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