47.白い髪の少女。
***前回のあらずじ***
婚約から時が流れ、季節は春から夏へと移り変わっていた。ある日赤の騎士団の元に、コンフォートからの早馬が着く。ダグラスらしい男を見たという者が見つかったという。クリスティアナは、セドリック、エルヴィエ、チェスターと共に、一路コンフォート砦へと馬を走らせた。
──夜通し馬を走らせる。コンフォートの砦へとたどり着いたのは深夜になってからだった。砦に着くと以前世話になった懐かしい顔が出迎えてくれる。
コンフォートのとある村に案内をするから詳しい事は後ほどと、一旦私達は部屋で休息を取らせて貰う事にした。正直エルヴィエとヘロヘロになるまでやりあってすぐ徹夜で馬を走らせるのは流石にしんどい。セドリックが途中何度も気遣ってはくれたが、私は一刻も早くダグラスの詳細が知りたかった。体を流さねばとは思うものの、到着して直ぐに手足を拭かせて貰っただけで、眠気に勝てず、私はそのままベッドに転がった。
ノックの音で目が覚める。やばい。寝すぎてしまった。慌てて体を起こす。そろそろ村に向けて出発をするらしい。私は顔を洗い、急いで髪を整えて部屋を出る。セドリック達は既に準備を整え、扉の前で待っていた。
「ごめん、遅くなった」
「いや、大丈夫だ。疲れたんだろう。夜通しだったものな。もう大丈夫なのか?」
「うん。平気」
多少だが、疲れは大分マシになっていた。私達は騎士の案内で馬車で砦から少し離れた村へと向かう。丁度私達が討伐を行った森の西側の外れにある村だ。エルヴィエは手を祈る様に組んで「どうか見つかったのがダグでありますように」と呟き、チェスターも口には出さないが組んだ手を額に押し当て、じっとうつむいている。私は期待と不安でいっぱいだった。セドリックが私の手を黙って握りしめてくれる。
──生きていて。お願い。どうかダグでありますように──。
私もセドリックの手を握り、必死に神に祈った。
村に着くと、村人が一か所に集まっていた。私達が到着すると一斉に村人が道を開ける。村人たちの中央には、コンフォート砦の駐在の騎士と共に、一人の少女が居た。目深に被ったフードのせいで顔は良く見えないが、多分私と変わらないくらいの女性。彼女は私達に気づくと、ゆっくりと立ち上がり、此方に顔を向けた。
私は思わず息を飲んだ。フードから零れ落ちた彼女の髪は絹の様な純白で、その瞳は真っ赤だった。セドリックの瞳も赤だが瞳孔は黒なのに対し、彼女は虹彩も瞳孔も鮮やかな赤だった。何て美しい子だろうか。まるで絵本の中から抜け出したかのような美少女だった。
エルヴィエもチェスターも驚いている様だった。セドリックは一瞬目を見開いた後、彼女と騎士の元に歩み寄る。私達もそれに続いた。
「お待ちしていました、セドリック団長」
「彼女が?」
「はい」
騎士へと確認を取ると、セドリックは少女に視線を向ける。
「ダグラス=ルトラールをご存知か?」
「……」
彼女は黙ったままだ。私はセドリックの肩を叩いた。セドリックが訝し気に私へ視線を落とす。私はにこっとセドリックへと笑みを向け、彼女の前に進み出た。彼女の視線が私へと向けられる。
「私は、クリスと言う。ダグラスの── ダグの友人だ」
ほんの僅かに、彼女の目が見開かれた。
「あ、俺はヴィー!」
「チェスターだ」
私は名乗りを上げたエルヴィエとチェスターへ一度視線を向けてから、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
「私達はダグと同じ時に騎士になったんだ。彼はその騎士団の団長。いきなり怖い顔でダグを知ってるかって言われたら怖いよね。脅かしてすまなかった。私達は数か月前、森に巣くう魔物の討伐を行う為にコンフォートに来ていて、その討伐の際に崖から落ちてしまったダグをずっと探していたんだ」
私は彼女の目を見つめたまま、あの日起こった事を話して聞かせた。彼女はじっと私を見つめていた。
「── 大事な、友人なんだ。だから、彼の生死だけでも、ただそれだけも判れば良い。生きていて欲しい、それだけなんだ。だから、もし貴女が何か彼の事を知っているのなら────」
「────知っています」
────!!!
私達は顔を見合わせた。エルヴィエがチェスターの首に抱きつく。駐在の騎士達が、おぉ!っと歓喜の声を上げ、ばしばしと叩き合った。セドリックが、私の肩に優しく手を置く。
やっと、ダグを知るものを見つけることが出来た。私は胸が震え、目頭が熱くなる。
彼女が、ゆっくり口を開いた。
「彼の所へ……案内、します」
***
彼女は、ユスと名乗った。彼女の案内で、森を進む。以前と同様、この辺りにも瘴気の気配は見当たらない。木漏れ日から落ちる日差しはきらきらと輝き美しい。
「森で、倒れているのを私が見つけました。私が見つけ、今まで森で二人で暮らしていました。多分、落ちた時の衝撃なのかもしれませんが、彼は記憶を無くしていました。彼が覚えて居たのは、ダグ、という名前だけです」
彼女は、その特異な姿から、滅多に村には行かないらしい。魔物も出るというコンフォートの森の中に一人で住んでいる彼女を、村人たちは魔女だと言って恐れたという。誰も彼女に関わろうとはしなかったそうだ。発見が遅れたのはその為らしい。偶々森に狩りに来た男が、彼女が男と居るのを見て、もしやあれがコンフォートの騎士の探していた男ではないかと気づいたそうだ。
彼女がずっと口を開かずに居たのは、騎士達が彼を探す理由が判らなかったことと、やっと理由を聞けても焦っていた為か強い口調で詰め寄られてしまった為、本当はダグラスを捕らえるつもりなのではと警戒をしていたらしい。
彼女が進んだ先、小さな丸太小屋が見えて来る。
あそこに、ダグが居る。私は手が震えた。きっとダグは私の事も忘れているだろう。見知らぬ者を見る目で、誰だと問われるのだろう。それでも、生きている姿をこの目で見たかった。忘れられてても良い。ただ、彼だという確証が欲しかった。
「此処です」
彼女が振り返り、扉に手を掛ける。ギィ、と扉が軋んだ音を立てた。
ご閲覧・評価・ブクマ評価有難うございます!やー、書いた書いた。流石に眠いので今宵は此処まで。続きは昼前後には投稿出来るかな?後ちょっと、がんがん行きまーす!




