46.コンフォートからの知らせ
***前回のあらすじ***
無事正式にウィンダリア伯爵家に挨拶を済ませ、待ちわびた婚約の日が訪れた。家族と共に神殿へと向かったクリスティアナは、神官と家族が見守る中、婚約の宣誓を交わす。幸せを噛みしめるクリスティアナとセドリックは、晴れて婚約者となった。
セドリックとの婚約が正式なものとなり、私はやたらと気力が充実していた。婚約したせいで腑抜けたなどとは誰にも言わせたくない。いつも以上に鍛錬に励み、いつも以上に訓練もガンガンに攻め込んだ。力がみなぎり、今ならドラゴンが出ても倒せそうだ。
「クリスってほんっと普通の令嬢の真逆行くよね。普通さ、婚約決まると結婚までの間に肌焼かない様にしたりダイエットに励んだり綺麗になろうって努力するんじゃない?男らしさに拍車掛けてる気がする」
呆れた様に笑うエルヴィエ。だけど私は騎士だから。セドリックが愛してくれたのは、着飾って上品に微笑む公爵令嬢じゃない。傷だらけでも陽に焼けた肌でも、こういう私を愛してくれたのだから。着飾った私よりも、剣を握る私の方が、きっと彼には相応しい。
「でも、俺もそういうクリスの方がいいや。お上品なクリスよりも、飾らない今のクリスの方がずっと生き生きしてて、そこらのギラついた目したご令嬢よりよっぽど綺麗だと思うよ」
続いたエルヴィエの言葉は、思いの外嬉しかった。
***
日々は慌ただしく過ぎていき、季節は春から夏に移った。焼けつくような日差しが、容赦なく体力を奪っていく。あれから私は2度、討伐隊に選ばれて遠征に行ったりもした。大きな怪我をすることも無く、3度目になると、連携にも慣れて、私もエルヴィエもチェスターも、先輩騎士から「すっかり一人前だな」というお褒めの言葉を頂けるまでになった。
早朝の基礎訓練を終え、少し休憩を挟み、午後からの訓練で、私はエルヴィエと組んで手合わせをしていた。私もエルヴィエもタイプが似ている。小回りが効き、速度を重視する。セドリックやチェスターの様な攻撃力と防御力の高い相手とは相性が良い様で、勝つ場合は速度で翻弄し、一瞬の隙を突く格好で、負ける場合は吹っ飛ばされて終わる為、割と短時間で勝負がつくのだが、お互い速度重視だと、延々避けては避けられてでどこまでも行けてしまう。しかも私もエルヴィエも速度重視の割に、意外とスタミナもある上どっちも極度の負けず嫌いの意地っ張りな為、お互いふらふらのへろへろでも中々決着がつかない。息絶え絶え。そろそろ心臓が止まりそう。
お互い滝の様な汗を流し、にらみ合っていると、門の方でざわっとどよめきが起こった。
「クリス!ヴィー!!」
珍しくチェスターが大声で呼び駆けて来た。私とエルヴィエはぜぇぜぇと息を切らしながら手を止め、チェスターを見やった。こんなに興奮しているチェスターを見るのは初めてだ。夢中になっていて気づかなかったが、先ほどまで訓練をしていた騎士が皆修練の手を止め、門の所に集まってがやがやと騒めいている。
「門の所に早馬が来た! コンフォートからだ!! 団長が対応している! ダグの消息が掴めた!」
「「!!!」」
私とエルヴィエは顔を見合わせ、思わず剣をそのまま放り投げて駆けだした。心臓がドキドキした。疲れなんて吹っ飛んでしまった。
***
門の前まで行き、騎士達を掻き分ける。前に進み出ると、荒く息を吐く馬に、汗だくで地べたにへたり込んでいるコンフォートからの使いの騎士がセドリックと向かい合っていた。私はセドリックへと駆け寄る。
「団長! ダグが見つかったんですか?!」
「クリス」
セドリックが、使者からの手紙を手に私を振り返る。
「まだ詳細はわからん。ダグラスらしい者を見たと言う者が現れたそうだ。今詳細を確かめているらしい。これからコンフォートに向かう。クリス。エルヴィエ。チェスター。お前達も来るか?」
質問といった言い回しだが、『来るだろう?』という確信めいた口調だった。口の端に小さく笑みが浮かんでいる。
「「「行きます!」」」
私達の声がピタリと揃う。既に厩舎へと馬を取りに行かせていたらしい。騎士が二人、私とセドリック、エルヴィエとチェスター、それぞれの馬を連れて戻ってくる。
「我々はこれからコンフォートへ行く!ライド!後は任せる!」
セドリックがひらりと馬に跨る。私達も馬へと跨った。馬は興奮が伝わったのか、激しくカツカツと蹄を鳴らしている。
「行くぞ!」
「「「はッ!!」」」
私達は馬首を返し、馬の腹をタンっと蹴る。興奮した馬は高く嘶いて、一斉に駆け出す。私達は逸る気持ちを押し込めて一路コンフォートへと向かった。
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